EV化は何を変えるのか? (前編)


さて、車評とは少し異なりますが今回はEV車について少し書いてみようと思います。

皆さんご存じの通り、これから製造される車は内燃機から電気自動車に移行することが決まっているそうですね。
まあ本当に実現するかどうかは知りませんが、日本でも2035年頃までには全ての車が電気自動車(EV車)になるんだとか……。

そもそも本当に全ての自動車をEV化する必要があるのかについてや、この規制は実質的に欧米などのトヨタ潰しが目的なのではないかといった話や、CO2と地球温暖化の話、また発電時に発生するCO2などのディスカッションは取り敢えずここでは置いておきましょう。

いずれにせよ、全ての車がEV車になると世界でも日本でも自動車産業は大きく変わることになるでしょう。
そしてEV化後も日本の自動車メーカーが今までのように世界のトップレベルでいられるかどうかを考える上で、私が良く言うポイントは以下の二点です。

1,自動車を作るための全てノウハウのうち、内燃機に関わるノウハウは何パーセントくらいなのか? 

2,原動機が内燃機であることに由来する部品は、車の全部品のうちのどれくらいをしめているのか?


知っての通り自動車産業の裾野はとても広く、トヨタやホンダのような大手自動車メーカーの下には多くの部品メーカーが存在していますね。いわゆる自動車業界の下請け企業たちです。実際に自動車の部品を見ると、多くの部品が自動車メーカーではなくこれらの社外の企業によって作られていることが分かるはずです。

むしろ逆に自動車メーカーが自ら設計と製作までを行い、且つ自動車メーカーしか作れない部品はエンジンブロックとシャシーぐらいなのではないか?と思うほどです。
(それ以外の部品は、アフターパーツで大体出ていますよね)

つまり自動車のEV化は大手自動車メーカーだけでなく、これらの自動車に関わる膨大な数の部品メーカーの命運も変えることになるはずです。
では内燃機(エンジン)が無くなった自動車メーカーに残された車作りのノウハウはどれ程の物でしょうか??
また必要がなくなる部品メーカーは? これについて少し考察してみましょう。

まず上記の一番目の話ですが、残念ながら自動車を作るための全てのノウハウのうちエンジンに関わる部分は非常に大きいと言わざるを得ません。具体的に何パーセントかは分かりませんが、半分以上なのではないか?と思っています。
例えばエンジン本体はもちろんのこと、スパークプラグの様な電気系からECUの様なコンピューターとそこに書かれるデータとソフトウェア。
ラジエーターの様な冷却系、触媒、エキマニやマフラーなどの排気系。
エアクリーナーのような吸気に関わる物。ターボ車ならばタービン。吸気や排気を見るためのセンサー類(エアフロやO2センサー、吸気温センサーなど)。水温や油温センサーにノックセンサー。
そしてエンジンオイルなどの油脂類。

エンジンブロックやヘッドの製作と、燃焼室形状。そして燃焼をコントロールするためのセンサーやECUのノウハウだけでも、なかなか新規参入出来ないレベルのノウハウが有ることでしょう。


次に二番目についてですが、エンジンはモーターと違って回転数ごとにトルクが大きく変動する上に構造上、最高回転数が限られるので、どうしてもギアが必要になりますね。
またエンジンは本体のサイズが大きいし冷却も大変なので、一台の車に複数搭載することはまず不可能です。
よって一つの原動機からの出力を全ての駆動輪に伝えなければなりません。 二輪駆動車ならば二つ、四輪駆動車ならば四つのタイヤに伝える必要があります。

そのために必要となるのが、いわゆる“駆動系”と呼ばれる部品です。
具体的にはクラッチ、トランスミッション、プロペラシャフト、ドライブシャフト、デファレンシャルギアなどです。そしてこれらを作るためのノウハウも相当な物でしょう。
クラッチやトランスミッションは、EXEDYやアイシンなどの純正部品を作っているメーカーがいくつもありますね。
それ以外の部品でも外注している物があるのではないでしょうか?

ところがEV車は電気モーターを使用するため、原動機がとても小型になります。そのためインホイールモータと呼ばれる、各々の車輪の内側のハブベアリングの辺りにモーターを付けることが容易だとされていますね。
つまりモーターをそれぞれ四輪の内側に付けることで四輪駆動車だって簡単に実現できるそうです。しかもモーターはトルク変動が殆どない上に回転数もかなり上げられるので、ギアも必要ないとされています。
そうなると上記の“駆動系”と言われる部品がごっそり全て不要となりますね。
代わりに必要となるものは、それぞれのモーターに通す“電気ケーブル”だけでしょう。

さて、やはりこうして見ていくと原動機がガソリンエンジンであるが故のノウハウが相当量あることが分かりますね。これは車作りの全てのノウハウのうちの半分以上と言っても過言ではないと思えませんか?

続く……。



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