EV化は何を変えるのか? (後編)


次に車体の電子制御についても軽く触れてみましょうか。
電子制御は古くはABSから始まり、今ではトラクションコントロールやスタビリティーコントロールが当然のように入っていますね。
これについてはEV化がどのような影響を与えるでしょうか?

まずトラクションコントロール系ですが、はっきり言って内燃機をコンピューターで制御するよりも電気モーターを制御する方が遙かに簡単です。 内燃機ではホールスピンなどをした時にそれをセンサーで感知し、アクセルスロットを閉じたり燃料カットしたりと、かなり物理的、機械的な工程が入ります。
ですがモーターは電気そのもので動くのですから当然、電子制御との親和性が極めて高いですよね。 スロットルを閉じるなど機械を物理的に動かさずとも、モーターに送る電気を減らせば良いだけです。

因みにABS等のブレーキ系ですが、現在は全てディスクブレーキなどのブレーキシステムを制御していますね。 ですがモーターは駆動力を与えるだけでなくブレーキとしても使えるはずです。
もちろん電車でもディスクブレーキ等のブレーキシステムを使っていることからモーターのブレーキだけでは足りないのかもしれませんが、姿勢制御などはモーターの電子制御である程度コントロール出来るのではないかと予想しています。(この辺りは詳しい方が居ましたら是非教えてくださいね)

とにかくこうして考えれば考えるほど、車作りの技術というのは内燃機に由来する物が多いことが分かります。
では逆にEV車になっても変わらない部品には何があるでしょうか?
タイヤ、ホイール、シャシー(エンジンのスペースがなくなることで設計は変わるでしょうが)、サスペンション、ブレーキ(?)、シートやハンドルなどの内装品、エアコン……。

きっとメーター類は全てiPadの様なコンピューターになるでしょうし、カーナビやカーオーディオは今でも社外製品(OEM)を使っていますね。

となると……、うーん、結局自動車メーカーじゃないと作れないレベルのものって、衝突安全性ボディーくらいじゃないでしょうか?
サスペンション(バネとダンパー)なんて殆どが社外製ですし、ブレーキキャリパーの多くもそうですよね。

ここで「ハンドリングや操縦安定性の確保は難しくてノウハウがいる」と考える人も居るかと思います。そうなるとシャシーやサスペンション(アーム類などのジオメトリを含む)の基本設計がとても重要となりますね。
しかしながらそれさえも微妙なのですよ。何故って、四輪にモーターが入れば極めて繊細な電子制御が出来るため、ハンドリングも操縦安定性もなんとでもなってしまうからです。

極端な言い方をするなら、車体やサスペンションなどのハードウェアは適当に作っても、コンピューターソフトウェア(電子制御)でいくらでもごまかせるわけです
実際に安全を確保するための姿勢制御や操縦安定性も、電子制御で殆どカバーできるとされてます。そこにアイサイト的な物とAIを組み合わせれば、きっと高度なハードウェアを持つ今の車よりずっと安全な車を作ることが出来ることでしょう。

またハンドリングに関しても、四輪にモーターが付いていればランエボのAYC的なトルクベクタリングが極めて容易に出来ます。よってこれもソフトウェアだけなんとでもセッティング出来るでしょう。
なのでもはや従来のアナログな手法は必要なくなると思います。


何だか書いていて私も少しブルーになってきました(笑)。
もはや車作りに於いて、かつてのようなアナログな手法による職人技のような物が介入する余地はないのです。
これは原動機だけでなく、ハンドリングや操縦安定性を決めるあらゆる部品に於いても言えることなのですよ。
これからの時代は殆どがソフトウェアで決まり、ソフトウェアエンジニアが今までの職人の代りとなることでしょう。
EV車は従来のような”コンピューターを搭載した自動車”と言うよりも、“走るコンピューター”と言った方が適切かもしれませんね。

つまりEV化は原動機が変わるだけでなく、車のあり方自体を変えてしまうでしょう。

もしこれらの私の予想が正しいとしたら、衝突安全性ボディーを受注して作ってくれるメーカーが現れたら私でも新しい車を作ることが出来そうですね。
モーター、バッテリー、タイヤ、サスペンション、シートなどの他の部品は現在でも全て専用メーカーから手に入ると思います。
つまりパーツを買ってきて自分好みのパソコンを組み立てるように、ガジェットを組み立てる要領で比較的安い資金でゼロから車が作れてしまうのです。

これが良い方向の変化なのか悪い方向の変化なのかは、私には良く分かりません。ですが近い将来、そんな時代が来ることがほぼ決まっているわけです。


さて、では次に皆さんが興味があるであろうモータースポーツについてはどうなるでしょうか?
私個人的には、きっとEV車になってもモータースポーツ自体は存続すると思っています。
自動運転車がいくら普及しようが、スポーツとなるなら話は別ですからね。いくら高性能な自動照準付きの銃があったとしても、オリンピックの射撃では人が的を狙って撃つのと同じように。
ならば本サイトの記事の殆ど、つまりエンジンに関する物以外はそのまま役に立つはずです。
デフの話などは一部修正が必要でしょうが。

でもこうして順を追って考えてみると今の日本の自動車部品で世界のトップレベルにあって、EV車に変わってからもずっとそのままノウハウが継続するものって、意外とタイヤなのかもしれませんね。



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