エンジンの性能を語る上で、馬力と、トルクと、加速の関係は非常に大事ですね。
また、結構簡単そうで、誤解が多いものでも有ると思います。
それでは、ちょっと自分なりに、軽くまとめてみます。
これを読み前には、「自動車に必要な物理学」のページを先に読むことをお勧めします。
まず始めに、「自動車に必要な物理学」に書いた通り、トルクと馬力は切り離せるものではありません。
トルクに1秒当たりのエンジン回転数と2πを掛けたものが、仕事率[w]となり、仕事率に0.00136をかけたものが、馬力となります。
馬力は、仕事率の別の表記で同じ意味です。(1馬力=735.5[w])
つまり、
馬力=トルク×1秒当たりのエンジンの回転数×0.00136×2π
=トルク×1秒当たりのエンジンの回転数×0.00854 ・・・式1
ということです。
2012.2.25加筆、修正
第一回の動画放送後に何となく見ていてふと気付いたのですが、2πを掛けるのを忘れてましたね。
ちなみにこの計算式に疑問を持つ人はいないですよね?
念のためにどうしてこうなるのかを書くと、「自動車に必要な物理学」より、トルクは半径と力のベクトルの外積でした。
外積の大きさは、両方のベクトルのなす角をθをとすると、ベクトルの大きさを掛けたものにsinθを掛けたものです。
円の接線方向に力を掛けるとθは90度になるため、sinθは1ですね?
ちなみに外積のベクトルの方向は、回っている円の面に対して垂直の方向となりますが、まあ難しいので方向は無視してください。
よって、ここでは外積を単に力と半径を掛けたものとしますし、常に半径に直角成分の力だけを考えるのなら、sinθは1なので、単に掛けるだけで良いでしょう。
つまりトルクをτ、クランクシャフトの半径をr、クランクシャフトを押す力をFとすると、
τ=r×F より、
F=τ/r
よって、クランクシャフトを押す力は、τ/rとなりますね。
そして仕事は、力と力を掛けた方向に動いた距離を掛けたものでしたね?
クランクシャフトの一周の距離は、円周の長さなので、2πrですね?
よってクランクシャフトが一回転する仕事Eは、
E = F×2πr =τ/r×2πr = 2πτ
ですね。
馬力(仕事率)とは、これを1秒あたりに行う仕事率の事なので、
仕事率 =E × 1秒当たりの回転数 =2πτ ×
1秒当たりの回転数
ですね?
もちろんこの式は、トルクはニュートンメートル単位、回転数は1秒あたり、仕事率はワット単位です。MKS系単位ですからねっ。
カタログに書いてあるトルクとエンジン回転数から馬力を計算する、最終的な数式は自分で解いてください(笑)。
と言いたいところですが、今回はサービスで私が解いたものを書いておきます。
トルクに1秒当たりのエンジン回転数と2πを掛けたものが仕事率となり、馬力単位に直すなら1馬力=735.5[w]なので、更に0.00136を掛けたものになりますね?
通常車のエンジン回転数は、RPMで1分当たりの回転数の事を指すので、1秒当たりに直すには60で割ればよいですね?
また、トルクの1[Kgf・m]は9.8[N・m]でしたね?
よって、
馬力=2πτ × エンジン回転数 × 9.8 ×0.00136
/ 60
より、
馬力 =トルク × エンジン回転数 × 0.001396
ですね?
ここのτにキログラム表記のトルクを、回転数にカタログ値やタコメータの回転数を入れれば馬力が出ます。
例えば上式より、トルクが21.6[Kgf・m]で、回転数が8300[rpm]ならば、馬力は250.2馬力となります。
ま、S2000のデータなんですけどね。
今回は最後の答えまで書いてしまいましたが、最近ちょっと答えまで書くことに疑問を持っているんですよねぇ。
私が一番言いたい事、大切なことは、考え方や思考過程であって、答えを暗記する事ではないんですよね。
そのためにいつも計算過程を書いているのですが、
答えを書くことが、かえってそれの邪魔をしている気がする事がありましてね。
まあ、私の中でもどうするべきか答えがまだ出ていないんですけどね(笑)。
特にこのレベルの式はその気になれば作れると思うので、ぜひ自分でやってみて、答え合わせのつもりで私の答えと比べてみるようにしてくださいねっ。
私が計算間違いする事も有りますし。
これより、トルクは有るけど馬力が無いとか、馬力は有るけど、トルクは無いと言ったような表現が、感覚としてはあっても、正確には言葉としておかしい事がわかると思います。
エンジンの回転数が同じであれば、トルクが上がれば馬力も上がってしまうし、馬力が上がっていれば、トルクも上がっている事になります。
しかしながら、エンジンは実際に、パワー型のエンジンとか、トルク型のエンジンとかと、言われることがあります。
この表現は、間違っていません。ちなみに、馬力の事をパワー呼ぶことが多いので、以下馬力の事を、パワーと書きます。
とても簡単に説明すると、最大トルクが同じエンジンだとすると、パワー型のエンジンは、高回転で最大トルクを発生するエンジン、トルク型のエンジンは、低回転で最大トルクを発生するエンジンだと理解すればいいです。
この場合、上の式より、トルクが同じなら回転数が高い方がパワーは大きいので、パワー型のエンジンの方が最大パワーは、大きくなりますね。
さて、ここで一つ出題。 ギアが同じだとして、加速Gが1番強い(1番強く背中を押される)のは、最大トルク発生ポイントでしょうか? それとも、最大パワー発生ポイントでしょうか?
結構これ、迷う人が多いんですけど、「自動車に必要な物理学」を読んだ人ならわかりますね。
トルクは、力の単位です。 パワーは仕事率の単位です。
トルクは、r×F でしたね。
そして、力Fは、F=ma で、このaとは、まさに加速度の事です。
さらに、「自動車に必要な物理学」より、
トルク=角加速度×慣性モーメント
でしたね。
つまり、この式の両辺を慣性モーメントで割ると、
角加速度=トルク/慣性モーメント
となりますね。
この、角加速度とは、クランクシャフトの回転角の加速度、つまり、エンジンの加速度そのものです。
次に
仕事率は、力×移動距離÷時間
でしたね。
つまり、いくら力が弱くても、つまり加速度が小さくても、単位時間あたりの移動距離が大きければ仕事率は大きくなります。
そして、最大パワー発生ポイントが、最大トルク発生ポイントよりも低回転になることは、上の式1より、理論的にありえません。
この場合、高回転では移動距離(一秒間にクランクシャフトが動く距離とすれば判り易いでしょう)が大きくなると解釈すればオッケーです。
つまり、仕事率(馬力)が大きいと、力、つまり加速度が大きいとは限りません。
よって、1番加速Gが大きいのは、力が1番大きい、最大トルク発生ポイントとなります。 まあ、これはタコメーター見ててもわかりますよね。
1番吹け上がりが速いのは、最大トルク発生回転数ですね。
逆に、パワーとは、一秒当たりに吐き出すエネルギーです。
最大パワー発生ポイントでは、一秒間当たりに吐き出すエネルギーが1番大きいと言う事になります。
そこが1番、車が加速しそうだと感じる気もしますが、物体と言うのは、速度が上がれば上がるほど、同じエネルギーを与えても加速しにくくなります。
これも、「自動車に必要な物理学」に書いた、
からわかりますね。 運動エネルギーは、速度の2乗に比例するんです。
そえでは、ちょっと簡単な例を出してみましょうか。
まず、40Km/hから、80Km/hまで、40Km/h分の加速をするのに必要なエネルギーを求めてみます。
車の車重は、1000Kgとします。
これは簡単ですね。
40Km/hは、秒速にすると11.1[m/s]
80Km/hは、秒速にすると22.2[m/s]
上の式より必要なエネルギーは、
です。
それでは次に、140Km/hから、180Km/hまでの、40Km/h分の加速をするのに必要なエネルギーを求めてみます。
140Km/hは、秒速にすると38.9[m/s]
180Km/hは、秒速にすると50.0[m/s]
同じく必要なエネルギーは、
となります!!
これは、同じ40Km/h加速させるのに、後者の方が、2.66倍のエネルギーが必要だと言う事です。
この説明からも、同じギアなら、最大パワーを出すポイントが、最大加速Gを出すポイントとは一致しない事が理解できますね。
なぜなら、同じギアなら、高回転のほうがスピードが上がってしまうので仕方が無いです。
何となく、感覚的に理解できたでしょうか??
ちょっと、字が多いので図を付けてみましょう。
例えば、以下のような出力特性のエンジンが有ったとしましょう。
このエンジンは、1000回転から、7000回転までずっと280馬力です。
もしもこの車に乗っていたら、1000回転で最大の加速Gを感じ、だんだん失速、というか、加速が鈍っていく感じになるでしょう。 出力は、ずーっと同じ280馬力なのにも関わらずです!
もうお分かりのように、このエンジンは1000回転で最大トルクを発生し、その後一直線にトルクが落ちる特性です。
ちなみに、このエンジンは失敗エンジンでしょうか??
そうとは限りませんね。 280馬力規制がある中では、おそらく最高のエンジンの一つでしょう。
よく言えば、パワーバンドがとてつもなく広いエンジンです。
1000rpmから7000rmpまで、6000回転もパワーバンドがあるわけです。
ギアの選択なんて、全く迷わなくていいですね。
1000回転以上をキープしていれば、どのギアでも加速は同じです。
1000回転から7000回転まで常に、一秒間に206000[J]ずつエネルギーを放出し続けているわけです。
実際に、ここまで極端なエンジンはありませんが、280馬力規制が有った頃には(つうか、ついこの間まで)、これに近い物はあったみたいです。
さて、たかだかパワーとトルクと加速。 意外と奥が深くて面白かったですか?(笑)
まあ、力学さえ理解していれば簡単ですね。
それでは、第一部はこの辺で…。
続く・・・