神器 その1 (前編)



さて、それでは一つ目のパーツについて書いていきましょう。
 
私がずっと考えていたことの一つが、「シミュレーターで実車の運転を再現できない部分とは何なのだろうか?」ということです。

まず、 目から入る情報については、モニタから入ってきますよね。 まあ、平面の画面だから実際のような3Dとは違うし視界も異なりますが、画面自体は現在のCG技術によりかなりの再現度だと言えます。(これについては、後に詳しく書きますね)
 
次に音についてですが、これもシミュレーターによりエンジン音、風切り音、タイヤのスキール音や縁石を踏んだときのボコボコオンまで再現されています。 スピーカーでも良いですが、更にヘッドフォンを使って聞けば実車に極めて近いと言えるでしょう。
その他にも大きなスピーカーなどを使って重低音を強めるなど工夫次第によっては、更に実車に近づけることが出来るでしょう。
 
次に臭いですが、エンジンやクラッチの焼ける匂いや排気ガスの匂い、ブレーキパッドから出る臭いやタイヤの溶ける臭いなどはさすがに再現できません。
臭いというのは分子が直接鼻に入ることによって感じるものなので、これの再現はまあ、将来も難しいでしょうねえ。
でも我々が車を操作する時に、臭いからは殆んど情報を取っていません。 なのでこれは大きな問題にはならないでしょう。
 
次に車が発する加速度、つまりGです。
これは 第六感を駆使したドライビングをするに書いた通り運転をするに当たり、特にスポーツ走行をする際にはとても重要なファクターとなりますし、それは皆さんも経験的に知っているでしょう。
タイヤが滑りそうなときの独特なGの感覚や、ブレーキロックした時のGの変化など、多くの情報をドライバーはGから得ています。 カウンターステアの戻しの操作時などには、特にGの情報は重要となるでしょう。

ところが我々がこの地球上に居る限り、と言うよりもこの宇宙に居る限り、加速せずにGを発生することは物理的に不可能なのです。
時々お店のシミュレーターなどで、シートを前後左右に傾けて擬似的にGを与える装置がありますが、あれは地球の重力の配分をシートを傾けることで変えているだけです。
つまり、横Gに地球の重力を超えた2Gを与えることなんて不可能ですし、横方向にシートを傾ければ確かに横方向にGを感じるでしょうが、横に配分した分、下方向の重力(G)は減っているのです。
つまり、Gだけはどうやってもシミュレーターでは再現できないことになります。
(もちろん、シートごと前後左右に任意に加速するような巨大装置を作れば別ですが……http://blog.livedoor.jp/markzu/archives/51604352.html こんなものも現に存在はしています)
 

ですが今回は、「シミュレーターではGが再現できないから、情報が少なくて正しい操作が難しい」という話ではありません。
Gは操作に必要な情報を得られるという良いことばかりではなく、同時に恐怖感も与えることが有るのですよ。

例えばリアタイヤが唐突にズバッと滑った時などはビックリして驚きますし、怖いですよね? 
タイヤのフルロックなんかもそうでしょう。 初心者ならばパニクって間違った操作をしてしまうことも有ります。
でもシミュレーターはGから情報が得られない代わりに、恐怖も感じにくいのです。

また強烈な横Gや減速Gの中で正確な操作をするのはけっこう大変なものです。
体をどこかで支えたり、頭が持っていかれないように首に力を入れたりする必要がありますからね。
きっと全身に力が入ってしまうことが多いでしょう。
 
私はこのGの作用こそが、シミュレーターでは上手く操作できるのに実車では難しくなる原因ではないかと仮定してみました。
原因と言うか、実車とシミュレーターの最大の違いということですね。
この違いにより、シミュレーターで体得したものが今一実車に活かしきれない、つまり、すり合わせられないのではないのかと。

でもシミュレーターでGを再現できないのと同じ様に、実車でGを消すことも物理的に不可能なのです。
となると、シミュレーターと実車の環境をすり合わせるためには、“実車において、如何にGの影響を受けないようにするか”、ということが最大のポイントとなるのですよ。

そうです。 Gから情報は得るけど、影響は受けないようにするというわけです。
 
そのために私が一番始めに付けたパーツが、“四点式シートベルト”です。

これが“三種の神器”の、その1になります。

ん? 何かずっこける音が聞こえるような気もしますかねえ(笑)。
「そんなの当たり前」だって?(笑) まあ、レースやラリーでは皆付けていますからねえ。

いえいえ、四点式シートベルト単独ではあまり効果がないのですよ。 私も今までに四点式シートベルトを付けた車には何度か乗ったことがありましたが、特に操作しやすいだとかは感じませんでした。
四点式シートベルトは、あくまでシミュレーターと組み合わせることで効果が何倍にもなるのです。

続く……
 

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