FFマイスター対FRマイスター



拓海:「くっ、リアが流れてパワースライドしている間に少し離された。4駆でもパワースライドはかなりロスがあるのか?? 向こうのインテグラはどんなコーナリングをしているんだ??」

丘を全開で下るインテ。パワーで少し差を詰めるインプ。
ここから2台はインフィールドセクションへと、突入する。

山田:「さーてと、こっからが本当の見せ場だ。長年研究してようやくたどり着いたFFの曲げ方を見せてやる。リジット4駆の運転はFFとかなり似ている。参考になるところがあるはずだ。後ろからよーく見ておきな。」

3速全開で側溝にタイヤを落とし、ゆるい左コーナーに入って行くインテ。

拓海:「う、突っ込みが凄い! あれは溝落しか?? でも秋名と違って、溝が浅すぎる。あれで意味があるのか??」

山田:「あんまり側溝を使うと腕が上がらないから最近は控えてるんだけどな。こればバトルだから、1番速く走れる走りをするよ。これは、6種類あるうちの進入重視の両輪落としだ。 さーて、ちぎるぞ!!」


側溝を使い驚異的なコーナリグ速度を見せるインテ。反射的に同じラインを取る拓海。

拓海:「う? コーナリング速度で負けてる!?」

山田:「されど200Kg と言ってるだろ。タイヤの太さはほぼ同じ。下りながらのコーナリングはこっちの方が速い。」

拓海:「涼介さんが言っていたカプチーノとのバトルの話はこれか。。。やはり下りのコーナーは重量差が効いてくる…。」


山田:「さて、次はいよいよこのコース唯一の右の高速コーナーだ。」

「チカッ」

一瞬インテのブレーキランプが点灯する。

「カクン、ガーーーー。」

拓海:「!!!」
拓海:「何だ??今インテの向きが…。」

弱アンダーで全開のインテ。

山田:「次は壁に向かって、ドンツキヘアピンの右だ。ここが一番の勝負所だ。突っ込むぞ!!」

ギャラリー:「オーー!! インテのブレーキ壊れたかー?? 刺さったー!!」

「チカッ」
「グッグッグッ」

拓海:「…!!」

フロントタイヤをハーフロックさせながら突っ込む山田。
ABSが付いていないインテのブレーキを、減速帯でハーフロックコントロールする。

山田:「これでフロントの摩擦円が最大となる。ここでブレーキを抜けば、瞬間的に大きくなった摩擦円を好きなように使えるんだ。」

「カックーーン」

ギャラリー:「!!!! オイ。ま、曲がったぞ!! あれが噂のコーナリングか??」

拓海:「!! FFってあんなに曲がるのか? あんな曲がり方、始めてみた。スムーズと言うよりは直角的? ハチロクの曲がり方とはたぶん全然違う。」

山田:「次の左は、草に隠れているが側溝がある。ここは高低差がある上に逆バンクが付いている。側溝を使わないとアクセルオンでアンダーだ。だからここは立ち上がり重視の前輪落しと。」
山田:「ヨイショっと。」

バンパーとドアミラーで草を刈り取りながら曲がるインテ。

山田:「 「こんなに浅い溝に落としても意味が無い」。何人に同じ事言われたか。僅か2cm前後の側溝。もちろん、そんなものにタイヤが引っ掛かるはずはない。ちゃんと他に理由があるのさ。
浅い側溝に落とす効果を俺は3つに分けて考えている。1つは、「ラインの自由度の増加効果」。まあ、これは皆が分かっている当たり前の事だ。溝一本分でも、道を広く使えるのは大きなメリットだ。
そしてその2、「バンク効果」。側溝にタイヤを落とすと僅かだが正バンクが付いたのに似た効果が得られる。内輪と外輪の荷重差、つまりロールを減らす事ができるんだ。僅か2cmと侮るなかれ。効果絶大なのさ。
そして、その3、「ネガティブキャンバー効果」。これは溝に落とす事により、車が僅かに傾く。つまり、外輪にキャンバーが付くんだよ。キャンバーが付いた事によるコーナリングフォースの増加は、説明の必要はないだろう。 特にフロントのキャンバーは付けすぎると直線でブレーキロックの限界が下がる。だが、この溝落しを使えば、コーナリング中だけキャンバーが付く理想的なドライビングが出来るのさっ。このバンク効果と、キャンバー効果で車は平地でのタイヤの限界を超えて、オンザレール的に曲がることができるんだ。」

山田:「フフ、俺はそこまで考えてセッテイングとドライビングをしているんだよ。
インプの兄ちゃん。ただ「やってみたら速かった」じゃダメなのさ。どうしてそうなるのかを考えないと、次の新しいドラテクは発見できないぜ。」

拓海:「速ぇ。ダメだ、、、完全に付いていけない・・・。消されないようにするのが精一杯だ。意地でもここは視界に置いて後半の勝負につなげるしかない!!」


大林:「そう言えば山田さん、今日も月がどうだとか言ってましたねぇ。あれ、何か意味あるんですか??」

東山:「あー。山田さんが言うには、月は理想的なコーナリングマシンらしいよ。」

大林:「はぁ? やっぱりあの人、頭がちょっとオカ…。」

東山:「ハハ。チクってやろっと。」

山田:「最近の車の性能の進歩は著しいのに、ドラテクの進歩ってのは全くと言っていいほど遅い。新しいドラテクのヒントなんてのは、実はどこにでも転がっているんだ。ようは意識の問題さ。 」

山田:「 例えば月を見ていて何か思わないか?? 月ってのは、地球の周りを定常円旋回しているんだよ。他の衛星はしていない。月だけは特別なものなんだ。
俺が昔、重量物を中心に集めた低ヨーの車が、回りやすい、スピンしやすいのは理解できたが、コーナーがどうして速いのかが理解できなかったんだ。だって、回ることと曲がることは違うだろ?? その疑問を解決してくれたのが月なんだ。月ってのは、自転しながら公転している。車で言うなら、スピンしながらコーナリングしているんだ。そして月は常に地球に同じ面を向けている!! つまり、スピンの周期とコーナリングの周期がピッタリ合っているってことさ!! だから、アンダーもオーバーも出さない(作者注:ウンチクごめんね)。
コーナリング中の車ってのは、どんな車でも実はスピン状態なんだよ。そのスピンとコーナーのアールが合っているから「曲がっている」と言う状態になるのさ。
だから、車はコーナーのアールの中心に対して同じ面を向けている状態が1番コーナリングフォースが高い。
ラジアルタイヤの場合、最大のコーナリングフォースを出すスリップアングルは大体15度から20度。だからそこを維持しながら、アールの中心に同じ面を向けられるセッティングとドライビングをすることが最速となるはずだ。そして、そのアングルを保ちやすい車が、常に最大のコーナリングフォースを発生できる車、つまり速く曲がれる車って事さ。 低ヨーのS2はその点理想的なんだ。車は月と違って、アンダーもオーバーも出すからなっ。
だがFFはそれが非常に難しいレイアウトの車だ。だから速く曲げるには特別な技術が要る。それが、あるレベル以上からFFはいきなり難しくなる理由なのさ。」

拓海:「クッ、ダメだ、離される!!」


大林:「東山さん、さっき乗ってみて山田さんの車ってどんなセッティングでした??」

東山:「俺から見るとドアンダーだな。」

大林:「へ? FFってただでさえアンダーでしょ??」

東山:「うん。でも、山田さんは敢えてアンダーのセッティングにするんだよ。」

福田弟:「そう言えばいつもアンダーの車のほうが好きだって言ってますねぇ。」

石山:「でもFFだったら、やっぱりアクセルでも曲がるようにフロントで引っ張って、リアを振り回せるセッティングの方がいいんじゃないんですか??」

東山:「うーん、確かに昔はそれが速いって言われていた時期もあったねっ。でも山田さんが言うには「タイヤは4つしか無いのにリアの限界下げてどうするんだ」ってさ。特にFFのリアタイヤは転がってるだけだから、いかに仕事をさせるかだって。」

石山:「それで、リアタイヤで曲げるとか言ってるんですか??」

東山:「らしいね。実際、リアタイヤの方が空気圧低いらしいよ。それで粘らせるんだってさ。FFのキモはリアのグリップだっていつも言ってるよ。」

大林:「うーん。分かったような、分からないような…。」


山田:「よし、ここからトンネルまでが勝負だ。次の左2連チャン中速コーナーで完全に消す!! 全開で攻めるぜ。」

拓海:「くっ! 辛うじてインテのテールランプが見える。 絶対食いついていくぞ!」

山田:「良くFFのコーナリングは入り口で90%決まるなんて言うけど、俺に言わせれば100%だ。入り口を失敗すれば100%失敗だ。FRのようにコーナリング中にアクセルでごまかしが効かないからな。FFでもLSD入れれば多少はごまかせるが、それでも限界がある。」

山田:「俺のインテがオープンデフなのは、入り口で絶対に失敗しないと言う自信の証だ!! 行くぜ、一発目!!」

「チカッ」

ギャラリー:「オー!! あれ、明らかに失敗だろ?? 横向きすぎだー! 曲がれねー!! って言うか、止まれねーだろー。」

「ガーーーーーーー」

スライド状態でアクセル全開の山田。

ギャラリー:「ス、スキール音が入り口がら出口まで全く変わらない!」
ギャラリー:「ああ、普通は出口に行くにしたがって半音くらい高くなるだろ??」


「プルルーー」

史裕:「ハイ、史裕…。 」
史裕:「涼介、何か、藤原が離されているらいぞ。」

涼介:「…。インフィールドで離されるのは始めから分かっている。藤原、相手の運転を後ろから見て吸収するんだ。 せっかくこんな所まで遠征しに来たんだからな。 何かを学んで帰るんだ!」

啓介:「…。」


大林:「なんか、今回も山田さん頑張ってるみたいですねー。」

東山:「大林君、さっきの話の続きだけど、山田さんはコーナーをいつも1から10までに分けて考えてるんだ。進入ポイントが1、出口が10って感じ。」

大林:「フムフム。」

東山:「その1から10までを、満遍なくタイヤのグリップを使い切る事が1番効率的なコーナリングらしい。」

大林:「なるほどね。」

東山:「俺の場合、と言うか殆どの人は、少し前半が弱く、後半が強い傾向があるらしい。」

福田弟:「へぇ。ちなみに、どうやったらそれが上手く行ったか分かるんですか??」

東山:「音らしいよ。」

大林:「へ??」

東山:「1から10までタイヤのスキール音が一定なら上手く行ってるんだってさ。」

大林:「スキール音??」

東山:「うん。最適なスリップアングルの時のスキール音ってのは決まってるんだってさ。大体高い音の場合はスリップアングルが大き過ぎるらしい。FRならパワースライドでホイールスピンしても高くなる。」

大林:「ふむ。じゃあ、ちなみにFFでどうやってそのアングルを維持するの??」

東山:「山田さんはコーナーに入る時に、殆どハーフスピンかと思うようなスピードとアングルで入って行くんだ。」

福田弟:「うん。ストリームもそんなでしたね。」

石山:「しかも、フロントタイヤだけ側溝に落としてるしね。あれ結構怖いよ、横に乗ってると。」

東山:「まあね。俺のミラ運転してもらった時も、一発目のコーナーでマジで事故ったかと思ったよ…。」

福田弟:「ちなみに素朴な疑問なんですけど、その時カウンターってあたってるんですか??」

東山:「一応、あたってる事はあたってるねぇ。ただ、少し戻すだけで、決してゼロカウンターまでも戻らない。まして、逆ハンドルなんてありえない。ゼロカウンターですら、失敗でタイムロスになるらしい。後あの人の特徴は、入り口で一発舵角が決まったら、全くステアリングが動かないんだよ。普通切り足したり、戻したり微調整があるもんだろ?それが無いんだ。」

大林:「へー。そんなこと出来るんですかねぇ…。アクセルだけでコントロールってことですか?」

東山:「うん。そこでさっきの、アンダーセッティングの話だけど。。。」
東山:「アクセルってのは、加速する為のアクセル、曲がるためのアクセルってのが有るだろ??」

福田弟:「ま、当たり前ですねぇ(笑)。」

大林:「俺には、曲がるための必殺左足ブレーキも有る!!」

東山:「はは、山田さんが言うには、その他に止める為のアクセルってのが有るんだってさ。」

大林:「は?? 止めるのはブレーキでしょ??」
大林:「じゃあ、加速の為のブレーキもあるの?? そんな、トンチみたいなの勘弁してよー。」

東山:「FF車ってのは、リアが軽いからスピンさせようとする慣性は弱いけど、その分リアタイヤに荷重が乗りにくい。だから、減速時には意外と簡単にスピンするものなんだよ。」

大林:「フムフム。」

東山:「結局スライドやスピンを止めるには、4つのタイヤのグリップを最大限に発揮させる事。スピンはリアが先に限界を超えるから起きるだろ? それでは、リアタイヤに荷重を乗せるには?」

大林:「なるほどー、アクセルですねぇー。」

東山:「ビンゴー。それで車は止まるんだよ。FFなのにアンダーのセッテイングにしてるのは、その時に絶対にスピンしない様にする為さ。更にアクセルによる減速は、VTECのパワーバンドを外さない意味もあるんだよ。完全にグリップして回転数を落とすより、スライドしてでも高回転を維持した方が速い事もあるんだ。パワーの無いNAならではの技だね。」

福田弟:「へーー、そんなことまで考えてのアンダーセッティングなんですねー。」

大林:「うーん理論派!! って言うか、うざいほど理屈っぽい!!(笑) 」
 

続く・・・

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