禁断のトーイン その2


さてさて、続きです。
「しかしこれは、ストロークが極端に少ない車だと、全く違う特性になる事もあります。」
でしたね。


例えば、ガチガチに固い足を入れている車だと、殆どストロークしないので、あまりトーインにすると外輪は同位相の4WSで、内輪は逆位相の4WSの様な状態になってしまいます。
そうなると、リアタイヤは直進しようとするので安定方向に行き、逆に曲がらない方向に行くでしょう。
前に書いた様に、LSDも良く効いちゃいますしね。

よってこのフィーリングを目指すためには、あくまで、しっかりストロークして、外輪がしっかりと縮む様なセッティングになっている事が前提です。

これまでに書いて来た通り、私の車は、ハイパコのどこまでもリニアなバネ定数を発揮するバネ特性と、タイヤのキャパに対して高過ぎないバネレート、下げ過ぎない車高、そして縮み側の減衰力が弱いOHLINSダンパーの減衰特性に、DFVによって高速な入力時にもしなやかに動くダンパー特性。
これらのセッティングのバランスにより、ストローク感がかなりしっかりとあります。
そこでこれらをトータルに考えて、もっと気持ち良く車を曲げるために「トーインが効くのではないか」と考えた訳ですね。

それではアライメントの方向も決まったし、慣らしの距離も十分過ぎるほど走ったので、お店に行ってアライメント計測&調整です。


余談ですが、このお店の店長は素人ではなく、GTカーのセッティングを頼まれる程足廻りには強いという人で、お客が「もっとこうしたい」と言うと、大体アライメントを決めて提案してくれます。
そしてそれは、今までほぼ完ぺきに当たっていたんですが、今回は始めて私と意見が別れました(笑)。
まあ、私もそろそろ「もっとこうしたい」じゃなくて、具体的な数値を頼めるようになりたいですからね。

私が言った事は、「リアの限界を上げつつ、もっと曲がる様にするためにトーを入れたい」でした。
理由は前回までに書いた通りです。
今までは、リアのトーをフラットに近くにして、つまり限界を下げてヨーを作る、つまり曲がりやすくしてたんですが、今度はS2000特有のバンプ・トー・インの大きさを生かして、4WS的に曲げると言う方向です。

ただ店長の意見は、「トーを入れると逆に今よりも曲がらなくなる」と言う事でした。
リアの限界を上げることと、曲がりやすくする(ヨーを作りやすく)事は相反する事、との事でした。
店長のアドバイスは 一貫して、「直進安定性は上がるけど、トーは入れる程曲がらなくなる」との事でしたが、ここは自信を持って自分の意見を通しました(笑)。


ついでにですが、タイヤをRE-11に変えてから初めてのアライメント変更なので、タイヤと地面の接地面に頬を付けてよーく見てみるとー、タイヤのイン側がかなり接地しています。
よって、左右非対称のタイヤの特性を考えて、もうちょっと前後ともキャンバーを寝かせる事にしました。
RE-11ならイン側の接地面が大きいので、多少キャンバーを寝かせてもブレーキングに影響が殆ど無いだろうとの考えです。

数値は私の感覚で決めて、前を0.4度、後ろを0.3度(それぞれ10進数)増やしました。
それぞれ、1.7度と2.3度ですね。 今回は、限界を下げてコントロールしやすくするのではなく、限界を上げる方向なので、少し大きめにキャンバーを付けています。

さて、そして肝心のリアタイヤのトーです。
車高調を付けて、一番始めに合わせた0.15度だとかなり大きかった記憶が有ったので、最後に合わせた0.1度との間を取って、0.13度(大体1.3mm)でお願いしました。

がぁ、店長が「リアのトーはちょっとピッタリ合わせられなかった」との事。
0.14度ついてしまったとの事でしたが、「E.Tさんなら差は判らないだろう」との事でした(笑)。
純正の足廻りは、キャンバーとトーが連動して動くので、どっちもピッタリ合わせるのは難しいようですね。

まあ今回はトーを入れるのがメインなので、多い分には良いかぁって感じでこれで終了です。
店長が「ちょっとテスト走行してきてっ」て事で早速試乗。

軽く走っただけでも、「オ!!戻ってきた。この感覚だ!」って感じで、本来の初期型S2000の動きが戻りました。
正にリアタイヤがヨーを作る感じで、非常によく曲がります。 更に限界も高まった感じですね。
今回はキャンバーも同時にいじっちゃいましたが、これはキャンバーを増やした事による限界の上がり方と言うよりも、明らかにトーを入れた事による限界の上がり方ですね。
キャンバーを増やすと、そのままの挙動で限界が上がるイメージですが、トーを変えると車のハンドリング特性自体が変わるのがとても良く判ります。

そんなこんなで、店の周りを一回りして帰ってくると、やはり店長はトーインが気になっていたらしく、一言。

店長:「どう?曲がらなくなったでしょ?」
私:「いえいえ、メッチャ曲がるようになりましたよー。」
店長:「おかしいなー。トーを入れると安定方向に行かない?」
私:「S2000ってのは、トーを入れるとリアがヨーを作る不思議な車なんですよ。」

店長:「うーん…。ちょっと運転させてもらって良い?」
私:「どうぞー」

って事で、私が助手席でドライブ。

店長は運転も相当上手いのですが、以前アライメント取った時には、交差点は全部ドリフトして曲がって行き、大きな街路樹の回りを定常円旋回してセッティングを確かめます(笑)。(あ、この話はフィクションです)

今回も同じ事をしようとしていましたが、、、
何度やってもリアタイヤが滑らずに、全部グリップで小さく曲がってしまいます。
かなり助走を付けて前荷重を作ってリアを滑らせても、ちょっと滑ってすぐにグリップは戻り、且つアンダーの「ア」の字も出ずに小さく曲がって行きます。

定常円旋回も、殆どグリップで旋回しちゃってました(笑)。  勿論、同じRをです!
少し大きくハンドルを入れると、 リアタイヤが全く滑っていないのに小さく回り過ぎてカウンターステアが必要な程です。
正に、一度ヨーが付くと殆どセンターステアで曲がれてしまう様な感じです。

店長:「何これ!?何だこの車は??」
私:「ねー?トーを入れると曲がるでしょう?」
店長:「こ、これは…。何でトー入れるとこんなに曲がるんだ?S2000って不思議な車だなぁー。」

店長、ちょっと興奮してました(笑)。

店長:「何か、リアタイヤが先に限界を超えるオーバーステアじゃなくて、車全体がオーバーステアな感じ。」
私:「これが初期型S2000本来の動きなんですよっ。」
店長:「でもこれー、コントロールするのかなり難しいしょう??」
私:「難しいですね。でもここをコントロールするのが、本物のS2000使いなんですよ。」


とまあ、この後も雑談は続きましたが省略(笑)。
お店に戻ってから、他のスタッフに「この車スゲー!」って言ってました。
これぞ「禁断のトーイン」の結果。
きっとこれから訪れるS2000のお客に、新しい提案が出来るでしょう(笑)。


さて、このアライメント設定で、私的にはほぼ、と言うか、完璧に理想に近いハンドリングが実現しました。

思えば今までやってきた、ダンパー、バネ、LSDオイル、タイヤ、トレッド、車高、そしてアライメント。
全てが完璧に決まった感じです。 それこそ、「至高のハンドリング」の完成ですね。
よってこれにて、ハンドリングに関わる所をいじるのは、一旦終了です。


ちなみにいつもの友人を助手席に乗せると、「4駆的であり、カート的でもある。4駆のカートの様だ。形容しがたい。」というコメントが返ってきました。
4駆とカートは、ちょうど対極に位置する乗り物だと思うんですけど、正にそう感じさせるんですよね。
カートの様にクイックでアジリティーがあり、且つ4駆の様にスタビリティーとトラクションがある。
これは、ある種の理想形だと考えています。

ただコントロールするのは、少し難しいかもしれません。 バネが沈んでリアのトーが入って、タイヤがズバッと滑るかどうかギリギリの所を長い時間、しっかり維持できる人でないと、性能を出すのは難しいでしょう。
簡単に限界を上げられるけど、初心者が限界を出すのは危険。 これが、「禁断の」と書いた理由です。
タイヤとしっかり対話が出来る、正に玄人向けって感じです。
(リアが出る!?、と思った所から、トーが入ってもう一発小さいRで曲がろうとする、或いは同じRなら高いスピードで曲がれます。 それを理解して運転する必要が有るでしょう。)

ただコントロール出来るようになれば良く曲がる上に限界も恐ろしいほど高く、横Gもとんでもなく高い車になります。
これ以上の性能は、私には必要ないですかね。

このハンドリングはS2000にしか出せない、そしてS2000らしさを失わずに純正主義にて長所を更に引き出した様な、それこそ唯一無二のフィーリングです。
 

さーて、長ーく続けてきた「至高のハンドリングを追い求めて…」シリーズ、これにて一旦終了です。
いかがでしたか? 私の苦労と努力の軌跡を書いてきましたが、ちょっとでも参考になる所があれば幸いです。
(良かったらご感想ください。)

それでは、また逢う日までー。


以上

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