抜群に効くワイドトレッド化 その2


さて、それではなぜこんなに車の動きが変わったのか、トレッドを広げることで何が変わったのかをちょっと考えてみましょう。

ちょっと下図を見て下さい。

図4 トレッドと車高とロールセンターの関係

実は、1500円でロールセンターをアジャストするの項にも似たような図を書きましたが、 向こうに書いた通り、あっちは「キャンバーが付いていない」という、現実とは少し違うモデルです。

実際にはタイヤにはキャンバーが付いているので、トレッドを広げると図4の様になります。
これよりまず分かるのは、トレッドを広げるほど車高は下がり、ロールセンターは上がるという事実です。
1500円でロールセンターをアジャストするにも、ロールセンターが上がるとは書いていますが、キャンバーが付いていると車高が下がるので、余計に重心とロールセンターの距離が近くなります。

すなわち、ロールセンターを上げるだけよりも、更にロールモーメントが減り、ロール剛性が上がる訳です。
更に 鋭い人は、図4より、キャンバー角が大きい程、車高が下がるのが判ると思います。
トレッドを広げると車高が下がるのは、ロアアームのレバー比が変わるというよりも、恐らくこっちの要素の方が大きいのではないかと考えています。
まあバネレートによって、どっちが支配的になるかのバランスは変わるでしょうが、図4のキャンバーによる車高ダウン量は、バネレートがどんなに高くても変わりませんね。


よって、リアのトレッドを広げるとリアのロール剛性が上がります。
減衰力で学ぶロール剛性配分と操舵特性の項にも書いた通り、リアのロール剛性配分を上げると、アクセルオン(加速時)でのトラクションが上がりま したね。
また、リアのロールセンターが上がるので、ロール軸は前下がりになりますね。
よって 理論的にステア特性としては、減速時にオーバーステア方向、加速時にアンダーステア方向に行くはずです。
つまりハンドリング特性は、初期が良く効き、後半アンダーステア方向というのがこの理論からも当てはまる訳ですね。
意外と簡単ですよね?

トレッドを広げるというのは、バネレートや減衰力を上げたり、スタビやボディー補強でロール剛性を上げる方法と同じ様な効果をもたらす、別のアプローチの、別解ですね。
これは、ボディー剛性を上げるためには「補強する」という方法の別解として、「軽量化する」という方法が有るのと似ています(この話はどこかに詳しく書く予定)。

そしてこのアプローチには、他にもメリットが沢山有ります。
まず、バネレートや減衰力を高めたりしないので、上下方向の硬さが変わりません。
むしろアームのレバー比が大きくなって、柔らかくなる方向です。
これは路面追従性を考える上で、メリットとなりますね。 跳ねませんから。

更に、トレッドを広げる事により、相対的にスタビライザー(アンチロールバー)のバネレートを落としたような効果が有ります。
スタビの両端の取り付け点を変えると、レートが変わるのは有名だと思います。
実際に、両端にいくつか穴が空いていて、レートを調整できるスタビが売られていますよね?
よってトレッドを広げると、ロールを抑制するために働く力が従来と比較して、バネやダンパーがスタビよりも支配的になる訳です。
(勿論サスペンションのバネレートもレバー比の変化により若干下がるはずですが、スタビのバネレートの方がその下がり具合が大きいと考えています。 実際に運転したフィーリングでも、スタビが柔らかくなった様に感じました。)

これは とっても簡単に言うと、バネとスタビの効きのバランスが、コントロールしやすいと言われている130系以降、いわゆる後期型に近い状態になるわけですね。

つまり、130系以降のスタビに交換するチューニングは有名ですが、これは相対的に同じ効果が有る事になります。
(逆にトレッドを広げて、スタビを後期型等の柔らかい物に交換すると、柔らか過ぎると感じるかもしれません。)

実際に運転してみると、そのコントロール性は、方向的に130系以降に似ています。
( ただ、あまり車高を落としている車では、スタビが殆ど働いていない可能性が有るので、体感しにくいかも知れません。)
前にも書きましたが、サスペンションのダンパーは、バネだけでなくスタビの減衰をするのも仕事なので、スタビが柔らかくなるという事は、ダンパーの減衰力を弱く出来る方向に行きますね。
これは、より一層路面追従性や、加速時、減速時の前後方向のトラクションを上げる事が出来る事になります。

そして 更に重要なのが、トレッドを広げると、コーナリング中に外輪が描く円と、内輪が描く円の半径の差が大きくなるという事です。
つまり、内輪と外輪の、回転差が大きくなる訳です。(図は省略しますが、分かりますよね?)

もう分かったと思いますが、これはLSDの効きを、これまた相対的に上げる事になります。
旋回中にアクセルオンで、アンダーステア方向に行くようになった理由の一つとして、これも有るでしょう。
逆に言えば、トレッドを広げるとLSDが強く効き過ぎて、LSDのリセッティングを行う必要が出てくる事も有るはずです。
ちなみに私の車のLSDは、純正(トルセン)に硬いオイルを入れた物ですが、明らかにLSDが強く効くようになった気がして、これなら純正LSDで十分だと思いました。
デフは固いオイルを入れるほど、LSDの効果が必要無い直線の加速時にもパワーを喰われるので、これまた同じ粘度のオイルで、LSDが強く効いてくれるのはメリットですね。


とまあ、ワイドトレッド化には計り知れないメリットが有ることが分かります。

実際に運転すると、その1に書いた様に、アクセルオンでのトラクションが上がり、アンダーステア方向に行ったのは、リアの車高が若干低くな ってリアの荷重が増え、更にこれらのロール剛性のアップや、LSDの効きのアップ等の色んな要素により、安定方向に行ったのでしょう。

更にコントロール性が上がったのは、スタビの効きが相対的に弱くなったからかもしれませんね。
また、ダンパーの減衰力を下げられるので、接地性が上がりタイヤが跳ねにくなったことで、路面が悪い道でスライドさせても、コントロール性が上がったのだと思います。
実際にスライド時には、悪路でもS2000特有のボヨンボヨン挙動が完全に出なくなり、綺麗にスライドコントロールが出来るようになりました。
それも、限界が上がりつつです。

ただコントロールしやすくなったからと言って、マイルドというか、ダルいハンドリングになったかというと、決してそうではありません。
むしろ逆で、 初期は良く効くし、より目指してきたカート的なクイックなハンドリングの 特性になりつつ、且つコントロール性が上がっています。
(と言うか、カートって実はクイックだけどコントロールはしやすいんですよね。)


そう言った意味では、やはり130系以降とは少しコントロール性が違いますかね。
130系以降は本当にマイルドで、かなり無茶をしても何とかなってしまいますが(ビックリしました)、そこまでの無茶はききません。
コントロール性が上がったとはいえ、後期型と比べると、有る程度正しい運転をしないとコントロールするのは難しいでしょう。
ただ個人的には、クイックでコントロールしやすいハンドリング特性が好きなので、今回のワイドトレッド化はバッチリ決まった感じです。
特に私の様に、初期の舵の効きの良さを利用して、一気にヨーを立ち上げて、その後は少しリアタイヤをスライドをさせて走らせるといった運転スタイルには、ピッタリ はまりました。


さて、今回のリアのワイドトレッド化は非常に効果的でしたが、トレッドは広ければ広いほど良い訳では、勿論ありません。
どんなことでもやり過ぎは禁物です。 当然車をいじれば、作用が有る代わりに副作用も有ります。

リアのトレッドを広げ過ぎると、 まずリアタイヤを滑らさなければRの小さいコーナー等、小回りが利かないと感じる可能性が有り、また車庫入れなどはキツイかも知れません。
また初期の舵が効きが強過ぎて、ブレーキング時にスピンしやすくなる可能性もあると思います。
更にメカの話だと、LSDには負荷が大きく掛かるでしょうから、デフオイルの油温が上がりやすくなるでしょう。
また、ハブボルトやアーム類、特にアームのブッシュ類などには、大きな負荷が掛かるは ずですね。
そして、トレッドは広げるほど、やはりエンジンパワーは喰われます。
更に道幅が狭いコースでは、ラインの自由度が少なくなると感じる事も有るでしょう。

今回の様に5mm程度ならば、まず問題は無いでしょうが、極端に大きくなると、それらも考慮する必要が有ると思います。
ちなみに今回の実験より、 個人的なフィーリングでは、あと5mm程度は広くてもいいかな?と思いました。
実際に8mmのスペーサーを入れた車に乗ったことが有りますが、更に良いフィーリングでした。(8mmは、要ロングハブボルト打ち替え)

しかし上記の副作用よりも、トレッドを大きく広げる時に一番大事な事が、その1に書いた、フロントのトレッドとのバランスが変わる事による、ハンドリング特性 の変化です。
リアだけを広くし過ぎると、ハンドリング特性が、恐らくアクセルオンでアンダーステア方向へ行き過ぎると思います。

まあ私のケースでは、リアだけ5mm広げることでバッチリ決まっているので、フロントはこのままでも良いかな?と思っていました。
しかし そんな時に、、、タイヤ交換の際たまたま発見してしまったのが、フロントフェンダーの注意事項(重要)に書いた 、インナーフェンダーをタイヤがドツキまくった痕です。
これは明らかに、S2000の不具合ですね。 車高調で車高を下げていて、純正ホイールの車は、もれなく当たっていると思います。
ひどい車だと、気づかずに鉄板まで削れて錆びている物も見た事が有ります。

ここは、タイヤが上下運動するだけなら当たりそうもない場所ですが、タイヤが円運動をするために当たるのでしょう。
これを解決するには、車高を上げるなり、バネレートを上げるなりして干渉をしないようにするのが、正攻法でしょう。

(正直に言うと、私の車は足がヘタっていなければ、バネレートは10Kg/mmとラジアル用としては高めだし、キャンバーは1度20分と控えめだし、25mmしか車高が下がっていないはずなので、恐らく他の車高を下げている車と比べればフェンダーとのクリアランスはマシな方だと思います。 が、一回だけちょっと遠出して、高い減速帯が有る高低差の激しい下りのヘアピンが繰り返される道を、ずっと4輪スライド状態で走っていたらフロントからゴリゴリと音がしていました。
始めはリップを擦ったのかと思いましたが無傷なので、どこが擦っているかと思ったらここでした。
下りのヘアピンと言えば、ただでさえ前荷重な上に、フロントの片輪に殆どの荷重が乗ります。
その状態で、減速帯の凸が来る時にゴリッと擦っていた訳です。 よって大きな傷は、恐らく殆ど1日で付いたモノでしょう。
逆に言うと、このステップまでいじって来て、そんな路面でもスライドしっぱなしでコントロールが出来るような、セッティングになってしまったという事ですね。)


ただ、フロントのホイールのオフセットが極端に小さい、つまりトレッドの広い車では、車高が相当低くても全く当たっていない車を見た事が有ります。 つまり、フロントのトレッドを広げる事は、インナーフェンダーとの干渉防止に有効だという事です。

という事で、インナフィンダーとの干渉の緊急回避的な目的からも、フロントのホイールにもスペーサーを入れて、更に次のステップとして、フロントのトレッド調整の実験をしてみようと考えてみました。
そして 結果的に、フロントのトレッド変化がもたらす物の奥深さを知る事となります。

そんな訳で、次回はフロントトレッド編です。


またまた続く…。



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