さて、今回は少しコンセプトを変えた話を書いてみましょうか。
内容は、レーシングシミュレーターについてです。
昨今ではシミュレーターの技術が進歩して、同じドライバーが実際にサーキットを走るのと殆ど変わらないタイムになるなんて話も有りますねぇ。
また、ヨーロッパではレースチームのオーディションが実車ではなく、シミュレーターなんてのも有名な話です。
シミュレーターなら下手なドライバーが無理して攻め込んで、高価なレーシングカーをクラッシュさせたりすることもないので、オーディションにはもってこいなのでしょう。
日本だと、赤坂にある“東京バーチャルサーキット”なんかが雑誌などにも載っていて有名ですね。
ですが、まあ家が遠い人は中々行けないし、それにもまして30分で一万円!という価格は、一般人が思う存分練習するには厳しいでしょう。
そんな時にたまたま、プレステのグランツーリスモで腕を磨いてプロドライバーになった人がヨーロッパにはいるなんて話を見聞きして、今時のゲームはそんなレベルになっているのか?と驚きました。
私の中のグランツーリスモは4で止まっているので(笑)。
そんなわけで、雨で暇な時に普通のゲーム機やパソコンで動くシミュレーターがないかと、少し探してみました。
まあ、これらはゲーム扱いとされているものが多いですが、その中にもシミュレーターとして使えそうなものがないかな〜と言った感じです。
探してみると有るわ有るわ(笑)。 ほとんどが海外製ですが、その中でもシミュレーター寄りと呼べるものがいくつか有りました。
例えばrFactorというソフトは、東京バーチャルサーキットで使われているものの廉価版のようです。
まあ、ゲームの評価についてはたくさん比較サイトや情報サイトがあるので、興味がある人は検索してみてくださいね。
キーワードは“レーシングシミュレーター”でいいでしょう。
多くのソフトの中から、実際に私が使ってみたソフトは以下の二つです。
1, リチャード・バーンズラリー
2, Assetto Corsa
1はラリーのシミュレーターで、2は基本的にサーキットのレースシミュレーターです。
これらのソフトについては、検索すれば詳しい情報がたくさん出てくるので興味が有る方は調べてみてくださいね。
(どちらも価格は安いです)
今回紹介するのは、2のAssetto
Corsaです。
さて、本HPではこれらのゲームが実車の運転向上に役立つかどうか、シミュレーターになりうるかどうかについて書いて行こうと思います。
ここではあくまで、ゲームとしてではなく、実車を運転することを前提とした有効性の話をメインにする予定です。
第一回目の今回は、現在のゲームが高いレベルのデータロガー解析が出来るということを紹介しましょう。
ところで皆さん、"データロガー"って知っていますか?
まあこれについても検索すれば詳しい説明が出ると思いますが簡単に書いておくと、モータースポーツ等において、車体にコンピューターを載せてGPSや加速度センサを使って速度、加速度、アクセル開度、横G、エンジン回転数、ギア、区間タイム、……etc、と様々な情報を文字通りにログとして記録する装置です。
そしてその記録をパソコンなどを使って後から確認できるものですね。
速度がグラフやアニメーションになって、プロの運転と素人の運転との比較なんてのが簡単に出来てしまうものです。
まあ、雑誌などでグラフ画面を見たことがある人も多いでしょう。
そのデータロガーの中でもデファクトスタンダード(業界標準)と言われているものが、MoTeC
のデータロガーです。
これはF1はもちろん、スーパーGTや他のメジャーなレースでも使われているものです。
MoTeC
と言えば車好きな人なら、ECU(エンジンをコントロールするコンピューター)の現車合わせをする時に使う、一番高価なフルコンというイメージの人も多いと思います。
これはその会社が作っている、データロガーです。
ですがこれはとても高価なので(100万円程度するそうです)、まあ素人でMoTeC
のデータロガーを使っている人というのも中々居ないでしょう…。
余談ですが、確か東京バーチャルサーキットで使われているのもMoTeC
のデータロガーだったと思います。
これは雑誌の付録かなんかで見たのですが、シミュレーターでデータロガーを取っている様が私には斬新で、何かを閃かせました(笑)。
そう、この正確なデータロガー機能こそが、ゲームとシミュレーターとの最大の違いと言って良いでしょう。
シミュレーターでデータロガーが取れるということは、そのソフトが物理シミュレーションをしているからに他なりません。
しかもそのソフトがMoTeC
そのものだったことが、なんだか現実の世界とバーチャルの世界の間(はざま)を取っ払ってしまったように私には見えたんです。
そんなわけで、普通のパソコンで動くデータロガーが取れるソフトがないかと思って探してみたら、あっさりと見つかりました。
rFactorももちろんですが、もっと新しく開発されたソフト、Assetto
Corsaもデータロガーが取れる、しかもMoTeC
のフォーマットで取れる!ということを知り、試しに購入したわけです。
まあrFactor2でも良かったんですが、Assetto
Corsaの方がグラフィックが綺麗でラリーも出来そうだったのでこっちにした感じです。
でえ、実際に何が出来るのか??
百聞は一見にしかず。 早速R35-GTR(市販車モデル)でニュルブルクリンクを走ってみました。
そしてデータロガーで記録し、それを本物のMoTeC
のソフトを使ってデータ解析している動画を載せてみましょう。
素晴らしいことに、MoTeC
のソフトは無料で使えるんです!
解説の前に私のシミュレーターの環境を書いておきましょう。
パソコンにロジテック社のDriving Force GTという、ハンドルコントローラー(通称ハンコン)を接続して使っています。
というか、わざわざこのために買いました(笑)。
シミュレーターとして使うなら、PS3等のコントローラーやキーボードでは意味が無いので、ハンコンを使うことを強く勧めます。(ゲームとして楽しむなら、お好きなモノをどうぞ)
またハンコンの中でもFFB(フォースフィードバック)機能が付いていないものは、これまた極端に難しい上に実車と異なりすぎるため、これもシミュレーターとして使うならマストと思って下さい。
FFBとは、路面の振動を手に伝えたり、セルフアライニングトルク(セルフカウンターを当てようとする力)をリアルに再現するものです。
実際に実車と比べてみても、私はかなりのレベルで再現していると感じました。 ドリフトしても、とてもリアルです。
更にAssetto
Corsaでは、ジャダーやアンダーステアを出した時にタイヤから伝わるゴリゴリ感も再現していて、少し感動しました。
おそらくDriving Force
GTは、最も安くこれらを実現しているハンコンだと思われます。
更に上のモデルでは、クラッチとHパターンのシフトが付いているものや、海外製だと産業用モーターを使って本物のハンドルを付けられるものなど有りますが、これらは高価なので財布と相談でしょうね。
余談ですが、私はサイドブレーキとシフトは自分で作りました。 その方がはるかに安いし、フィーリングもいいです。
さて、前置きが長くなりましたが、動画の解説に入りましょう。
はじめに断っておくと、この運転はソフトを買ったその日に3本ほど走っただけですぐに記録したものなので、まだコースも覚えていないしラインも相当外しています。
一箇所壁に擦っていますし、パワースライドして何度かカウンターを当ててしまっていますね。
また、ソフトのアシスト機能をオンにすると殆どゲームのように簡単に運転できてしまうので、私はABS以外のアシストは全てカットしています。
これはゲームの中で言うプロモードです。 Assetto
Corsaは一応?ゲームなので、アシスト機能がゲームモード用として付いていますが、シミュレーターとして使う人は必ずアシストを切って下さいね。
さて、右下にオンボード映像を合成しましたが、このソフトの画面を見たことがある人も居るかと思います。
これが、本物のMoTeC
のソフト(MoTeC
i2
Pro) です。 MoTeC
のソフトで見れることも驚きですが、データの詳細を見て私はビックリしました。
まず、シミュレーターが31.250[Hz]で、つまり
1/31.250 = 0.032秒ごとに物理演算をしているようです。
それも、データロガーを見る限り、速度や加速度、アクセル開度、エンジン回転数の様なメジャーなものだけでなく、タイヤ温度やサスペンションの動きに対するリアルタイムなアライメント変化、更には四輪それぞれの荷重変化やスリップ率に至るまでが、0.032秒ごとに計算されているとは!!
(この動画はリプレイをデータロガーで取ったため表示されない項目がありますが、リアルタイムで取れば全ての項目が表示されます)
もちろん、本当にソフトがどこまで計算しているのかは分かりませんが、もし表示されている項目の全てが本当に物理演算をしたものならば、確かにこれはシミュレーターと呼んでも良さそうです。
自分の運転の癖や、横Gなどから最適解へのアプローチに書いた、「車の性能をどれくらい出せているか」もこれを見れば明快に分かります。
シミュレーターを使えば友達とデータロガーで運転を比べるのも造作も無いことです。
今までサーキットでデータロガーを付けてやっていたことが、自宅で、それも何周走ってもタダでやり放題!!
シミュレーターならハンコンとソフト代を合わせても、2万円程度です。
他に
掛かるのは微々たる電気代くらいで、ガス代もタイヤ代も気にせず、事故も気にせず怪我するリスクもなく、走り放題です。
まあとにかく、凄い時代が来たもんだなあと感動しました。
このまま行けば将来、プロのレースが実車ではなく、シミュレーターで行われる日が確実に来るのではないかと思いました。
ただもちろん、現時点では完全に実車と同じではない挙動も有ると感じました。
例えば、“本気で速くなりたい人へ”に書いた、荷重曲げからトラクションステアの運転をしようとしても、車が一番曲がるところが実車とは少し違うと感じました。
それでもソフトはこれからも進化していくでしょうし、パソコンの計算速度も向上するでしょう。
そうすれば、実車と本当に変わらなくなる日が近い未来に来ると確信しました。
ただ一つ、シミュレーターではどうしても再現できないものが有ります。
それは、"G"です。
ドライバーがいかにGから多くの情報を得ているのかが、シミュレーターを使うとよく分かります。
ただその場にとどまったまま、つまり速度を変えずにGを生み出すことはこの宇宙では不可能なので(重力を除く)、シミュレーターがいくら進化してもそこだけは永久に解決しないと思いますが……。
まあそれでも、シミュレーターの有効性は非常に大きいと言えるでしょう。
実際にシミュレーターをやった後に実車を運転すると、明らかにそれが生かされていると私は感じました。
シミュレーターにかかったお金は僅かに2万円程度で、24時間365日、半永久的に使えます。
この予算では東京バーチャルサーキットなら1時間で終わり。
更に実車でサーキット走行するなら、走行代程度にしかならないでしょう。
ましてやMoTeC
で詳細なログを見ようとしたら、プラス100万円コースです。
そこまでお金を掛けて年に数回サーキットで練習するのと、或いは毎日2時間シミュレーターで練習するのと、どちらが運転が向上するのか? とても興味深いところです。
そんなわけでシミュレーターの利用については、これから少し力を入れて書いていこうと思っています。