プルルー:
健太: 「涼介さん!! 啓介さんが、一個目のトンネルの出口で抜かれたみたいです!!」
史浩: 「なっ!!!」
史浩: 「涼介、いったいどうなってるだ??」
涼介: 「フー。 やはり啓介の弱点を見逃してはくれなかったか…。」
涼介: 「俺は、今までにも自称理論派だという奴をたくさん見てきた。 その中でも、荷重移動を考えながら走れる奴で初級。 摩擦円とスリップアングルまで考えて走れる奴で中級。 上級ともなれば、前後のスリップアングルバランスや、タイヤのグリップと荷重の非線形性、角運動量保存則まで考えて走るものだ。 車って機械は、回転物だらけだからな。
そして、今回の対戦相手は、今まで見てきた中で、明らかに上級だ!!
俺の目指す、公道最速理論のヒントがこんなところに隠れていた。
それが、このステージに来た最大の理由なんだ。
S2の走りを後ろから見て、開眼するんだ、啓介!!」
山田: 「あっさり前に出たなー。しかし二個目の高速トンネルではもうスリップは使えない。 でもこのトンネルはそんなに長くない。 二個目のトンネルを出れば、やっとインフィールドだ!!」
ゆるい左コーナーの高速トンネルで、またしても左の側溝にタイヤを落とすS2。
アウトから、抜こうとするFD。
しかし、この先のインフィールドは左コーナーから始まる。
啓介: 「ん!? 何だ、あのS2。直線、滅茶苦茶おせーじゃねえか。 さっきの速さはなんだったんだ? 踏んでねえのか? これなら余裕で抜けるぜ!」
FDはアウトからS2に並ぶも、距離が足りず、またしてもS2の強烈なブレーキングでインを取れず。
S2はまたしても、左の側溝にタイヤを落とし、インベタで曲がる。
啓介: 「な! 何だ、あのコーナリングは?? フロントホイール、縁石に擦ってるんじゃねーのかぁ?」
「キュッ」
山田: 「…。」
「カーーーーーーン」
啓介: 「うっ。ダメだ。 高速ステージにあわせてきたこのFDのセッティングでは、このアールの小さいインフィールドはきつい。。。 ギア比も合ってない。 太いタイヤで、S字の切り返しもだるい!!」
「グ、グッ。キュッ。カクーン。」
「カーーーーーーン」
啓介: 「…まただ。。。 気持ち悪い曲がり方しやがる。 しかし、S2って、ノーマルでもあんなに曲がるのか。 しかし何だ? あの「キュッ」て音は??」
東山: 「俺、山田さんの横乗るの、凄い怖いんだよ。 特に左コーナー。 ガードレールに手が届きそうだし、タイヤのサイドウォールなんて、平気で縁石に擦ってるからねぇ。」
大林: 「え? タイヤ、擦ってるんですか?」
東山: 「うん。バカで、怖いよ。 一度タイヤのサイドウォール見てみな。ロゴが磨り減ってるから。」
福田弟: 「そんなことして、ホイール傷つかないんですか??」
東山: 「そこが純正ホイールのいい所なんだそうだ。 狭いリムのおかげで、リムガードが上手く効いてくれる。」
大林: 「え?リムガードなんて、1cm有るか無いかでしょう?」
東山: 「まあ見た目はな。しかし見た目は1cmでも、リムガードってのは実際は5cm位はぶつけても跳ね返してくれる。 いくら 山田さんでも、1cm単位での寄せは無理だよ。」
東山: 「だが、引っ張りタイヤじゃそうはいかない。 それも、純正主義の理由らしい。 全てに意味がある・・・」
大林: 「じゃあ、FDも同じ事やれば...」
東山: 「いや、それは無理だろう。 タイヤの太さ考えてみろ。 」
大林: 「あ・・・。」
東山: 「ノーマルのS2のタイヤは、ちょうど側溝に前後ともピッタリはまる。 それも純正サイズならでわの技なんだ。」
涼介: 「このバトル、インフィールドで啓介がS2を抜くのは難しいだろう。 NAはインフィールドに強いからな。」
健太: 「でも啓介さんのFDって、ツインタービンですよねえ?」
涼介: 「ああ。だがいくらツインタービンとはいえ、400馬力近く出せば、アクセルコントロールは当然シビアになる。 高速ステージにあわせたセッティングがここに来て裏目に出たな。」
「キュッ」
啓介: 「オイオイ、ホントにホイール擦ってるんじゃないのか?? しかし、こんな2cmもない浅い溝にタイヤ落としてもしょうがねえだろ。 秋名じゃねえんだから。」
「カクーン」
啓介: 「チッ、速えっ。 バッカじゃねーの。 何が一般人だ・・・ このタイトなインフィールドはこらえどころだぜ。」
山田: 「側溝があるコーナーなら、このS2はFDのワイドトレッドにも抜かれない程度に曲がれる。
みんな、よく溝に引っ掛ける何ていうけど、こんな1cmや2cmの浅い溝にタイヤなんか引っかかるわけはない。 むしろ、側溝はコンクリートだから、ミューが低くてイン側のタイヤは
喰わない。 他にちゃんとした理由があるんだ。
俺は、アウト側のタイヤのコーナリングフォースを高めるために溝に落としてるんだ。
そして、落とし方も、細かく別けると6通りは有る。
俺がタイヤの空気圧のセッティング時に、前後のスリップアングルバランスに異常にこだわるのは、この6通りを全て使えるようにするためさ。」
S2が先頭のまま、2台はこのコース唯一の高速コーナー、橋の上のコーナーへと入っていく。
続く・・・