拓海:「…。なかなか離れない!! というより、差が詰まってる? 直線が短かすぎるのか??」
山田:「…。インプのドライバーはどうやらターボについてはまだ素人だな。平地と比べ、標高の高い峠では、実効圧縮比が落ちないターボ車は有利なんだがな。」
山田:「
タービンってのは、ブーストが正圧になるまでは、吸気抵抗となる単なるリストリクターに過ぎない。いくらレスポンスのいいタービンを入れても、NAの吸気慣性効果は得られないのさ。 NAでは、スロットルを閉じると行き場を失った高速で流れる空気がエアクリボックスの中に充填される。アクセルを踏めば、その空気が一気にインマニに入り、瞬間的にインマニ内が正圧となる。簡単に言うと、ブーストが掛かるんだ。だから本当の立ち上がりは、実はNAの方がいいのさ。
ターボ車でNAと同じ運転をすると、立ち上がった後が速いだけ。ターボにはターボの運転の仕方があるんだよ。」
山田:「さて、このコースの下りの肝は左コーナーだ。そこをいかに速く曲げて、インフィールドまで食いついていけるかが勝負だな。」
2台は二つ目の左コーナーへと突入していく。
山田:「ここは4速からのフルブレーキ。軽いインテが有利だ。更に、減速帯とアンジュレーションのバランスで、ABSが誤作動しやすい。こっちはABSレスだから有利なのさ。
草で見えにくいが、この先は逆バンクが付いてるから、アングルを少し戻し目に進入だ。」
「ガーーーー」
ギャラリー:「オオー、速えーコーナリング!! 何だ、あのインテは?? ブレーキ踏んだか??」
拓海:「な!! 立ち上がりで追いつかれてる?? こっちの方がトラクションもパワーも上なのに…。 なぜだ? ターボ車は、立ち上がりに強いんじゃなかったのか?」
山田:「よしっ、追いついた。これでスリップ圏内だ。捕まえたよ。」
ギャラリー:「イ、インテが追いついた!! こんな事って有るのか??」
ギャラリー:「ああ、NAのFF対4駆ターボだろ? 山で4駆ターボが1番速いのは峠の常識、いや、世界の常識だろ??」
ギャラリー:「ああ、だからWRカーはみんな4駆ターボなんだろ??」
山田:「…。忘れもしない、99年WRC ツール・ド・コルス。
ターマーックステージのこのコースで、並み居るハイパワー四駆ターボ勢を相手に優勝したのは、NAでFFのシトロエン
クサラだった。
それも、一日雨天を鋏みながらも3位以下に一分以上の差をつけてのワン・ツー・フィニッシュだ。
俺は、あの映像が今でも目に焼き付いている。
4駆ターボが絶対の神話を信じてた俺の考えを変えたのは、あの車なんだ。
シトロエンクサラは、2Lで高回転型のNA。FFで低ルーフの3ドアハッチバック。
フフ、何か、どこかの車を思い出さないか??
そう、このDC2型インテグラと良く似ているんだ。」
拓海:「クッ。完全に後ろに着かれた。相手がスリップを使ってくることは啓介さんとのバトルで分かっているんだ。どうしたらいいんだ? 涼介さんのアドバイスを思い出さなきゃ…。」
拓海:「そうだ! カプチーノの時は、車重で負ける相手にパワーで勝負したんだ。今回もそういうことなのか?? しばらく短いストレートが続くから頑張って引き離してみるか!!」
松本:「俺は、涼介さんが藤原に言ったアドバイスが気になりますねぇ。カプチーノとのバトルといえば、パワーを生かした平地での直線勝負。今回それは、ハズレですからねぇ。」
涼介:「その通りだ、松本。インプレッサの特徴はそのエンジンパワーだけではない。FFベースながら縦置きのエンジンに、低重心の水平対抗エンジン。インタークーラーも前置きではなくホイールベース内に収められている。インプレッサは紛れもなくコーナリングを重視したマシンなのさ。エンジンの扱いやすさで言えば、はっきり言ってパワーも上げやすく、下のトルクがあるランエボの方が上だ。同じ4駆ターボでも、ランエボやGT-Rとは違う運転が要求されるのさ。カプチーノとのバトルの時に、重要なのは車のアドバンテージを引き出す事だと言ったはずだ。今回は、藤原がそれに気づけるかどうかだ。」
啓介:「…。」
山田:「インプの兄ちゃん。俺はその車を良く知っている。所有したことのない車の中では1番乗った車だからな。1ヶ月借りてたし、試乗も全モデルしてきた。ディーラーにレポートまで出したんだぜ。
GC8インプは、その戦闘力の高さも知ってるが、弱点も知っている。」
アクセル全開でパワーバンドに入るインプ。
拓海:「よーし、少し離した。」
山田:「…。」
シフトアップの為、シフトノブを握る拓海。
高回転でパワーバンドをまだ外さないインテ。
山田:「ウリャーー!」
そして拓海がシフトアップした瞬間であった。
「コツン」
拓海:「!!」
拓海:「なっ! リアバンパーにインテが当たった!!」
山田:「ゴメンゴメン。でもここまで攻めないと付いて行けないんでな。」
拓海:「離したと思ったのに…。何で付いて来れるんだ??」
山田:「どんな車でもターボ車である限り、ターボラグの呪縛からは絶対に逃れる事はできない。ターボ車はシフトアップの瞬間に、一瞬ブースト圧が落ちる。その瞬間に高回転型NAエンジンのパワーバンドの広さを利用して、リアバンパーにぶつける勢いで煽るんだ。 お前の運転しているインプは、昔のいわゆる「ドッカンターボ」って奴だ。ターボラグがでかい!! 3速までならシフトアップの瞬間を狙って付いていける!!」
拓海:「うっ、全然離せない。でもこの短い直線の次は丘への上りだ。上りなら離せるか??」
2台は丘の上りへのクランクコーナーへと入っていく。
続く・・・