スリップアングルを意識する


さて、それではまず始めにスリップアングルの話をしましょうか。

ここのページでは、出来るだけ一般の雑誌や書籍などに書かれている内容とは、重ならないようにしようと思っていますが、スリップアングルの話は非常に重要なので、次のステップに行くために少し詳しく書いておきます。
まあ、知っている人も一応読んでおいてください。

「スリップアングル」とは、日本語だと「滑り角」ですかね。
意味は、ハンドルを切るなどしてタイヤが向いている方向と、実際にタイヤが進んでいる方向の、なす角です。
図1のθですね。


図1 スリップアングル

図を見れば一目瞭然だと思います。赤線と青線のなす角ですね。
時々ハンドルの舵角と混同している人がいるので、まあその辺は間違えないよう理解しておいてください。

重要なのは、 このθが0になるのは車が直進している時だけです。
つまり、直進時以外は常にスリップアングルが付いている事になりますね。
(正確には、アライメントのトーが0でなければ直進時にも付いている)

逆に言うと、直線以外では、前輪が向いている方向と同じ方向にタイヤが転がって進む事は無いという事です。
何か、意外ですよね?

まあ、難しい話はカットしますが、車が曲がるのはこのスリップアングルのためです。
もう少し正確に言うと、スリップアングルにより車体にヨーが付く、つまり車体が回転するのです。
車という乗り物は、ホバークラフトと違って、車体を回転させずに曲がる事は出来ないので、まあ車はこのスリップアングルのために曲がるとも言えるでしょう。
このヨーというのは、スリップアングルが付いたことにより、ゴムと路面の摩擦が発生し、ヨレたトレッドが元に戻ろうとする力、ヨレたタイヤケースが元に戻ろうとする力等により発生するのですが、ここは学問 的なページではなく、より実践的な内容にするつもりなので、詳しい事が知りたい人は調べてみてください。

さて、ここで重要な事は、このスリップアングルには最適値が有るという事です。
小さすぎても大きすぎても大きなヨーが出せない、つまり曲がらないという事になります。
大体ラジアルタイヤでは、15度から20度位が一番曲がる角度だと言われています。
しかしこのスリップアングルというのは、かなりくせ者で、測り様が無いんですよね。
走行中に分度器を当てて測る訳にも行きませんから(笑)。

車速やエンジン回転数はメーターを見れば分かるし、今時はアクセル開度やブレーキ踏力や縦G、横Gの大きさも、データロガーで分かっちゃったりしますけどね。
でも、この見えないスリップアングルを意識して走る事が非常に大事です。
荷重移動の大切さについては、あちこちで「これでもか」って言う程に語られていますが、このスリップアングルもスポーツ走行をする上では、同じ位重要です。

このスリップアングルについては、 具体的には図2みたいなイメージを持てば良いと思います。

図2 スリップアングルと曲がる力の関係

赤いゾーンが一番曲がる所ですね。
ここを外れて大きな角度になると、ハンドルを切り足しても余計曲がらずに、いわゆるアンダーステアだと感じる事が有るでしょう。
分度器で測る事は出来ませんが、運転していてハンドルを切り足しても曲がらない、あるいは変化が無いと感じるところが、大体20度を超えた所だと覚えておけば良いでしょう。

でもまあ実は、正しいスリップアングルを超えたかどうかを知る、他の簡単な方法ってのが有って、これは私はタイヤメーカーがわざと親切にやってくれているのかと思っているほどです。
その第一は、「音」ですね。 スリップアングルが大きくなり過ぎるとタイヤから、「ゴリゴリ」系の音が出てきます。
普通のスキール音の「キュー」系とは違う音ですね。

よって、タイヤを切り足してゴリゴリと言ってきたら、スリップアングルが大きすぎという事です。
私はこの状態を、ガリガリ君ならぬ「ゴリゴリ君状態」と言っています(笑)。

特にFF車だと、ハンドルにもゴリゴリ系の独特の振動が伝わってくると思います。
ちなみにこのタイヤのゴリゴリ音と振動の設定?は、コンフォートタイヤなどのノーマル系のタイヤに多く、Sタイヤや高性能ハイグリップタイヤではあまりこの音や感覚は出ません。
これも、始めに乗る車選びの項に、ハイグリップタイヤを履かない様に、と書いた理由の一つです。
まあ始めは誰でもゴリゴリ言わせる物です(笑)。 ただその感覚を忘れないように。

そして第二に、目で見て判るのがフロントタイヤのショルダー(外の角)部です。
ここが削れていると、これまたスリップアングルが大きすぎる証拠です。
ひどい場合は、タイヤのスリップサインの位置を示す▲マークが消えるほど削れることが有ります。
特に扁平率の高いタイヤだと有りがちですね(だから勉強になるんですが)。
一度走ったら、すぐに車を下りて、削れたてホヤホヤのタイヤのショルダー部を見る習慣を付けると良いでしょう。
(ちなみに上級になってくると、今度はリアタイヤのショルダーが削れてきたりしますが、まあその話はまた後で)
私なんぞ、いまだに乗るたびにタイヤのショルダーを見るのが癖です(笑)。

まあこれらを参考に、一番曲がるスリップアングルの感覚を覚えると、後々非常に役に立ちます。 って言うか、その感覚を覚えないと、初級者から脱却出来ません。

ちなみに良く、「ハンドルをコジる運転」と言う言葉を聞くと思いますが、コジる運転って、具体的にどんな物だと思いますか??
「前輪にしっかりと荷重が乗っていないのに、ハンドルを切る運転」、などとまことしやかに書かれているのを見た事が有りますが、荷重が乗っていない時にハンドルを切ってはいけなかったら、アクセルオンの時にはハンドルを切ってはいけない事になりますねぇ。
アクセルオンでは、荷重は後ろに移動しますから。
でも実際は、長く回り込んだ高速コーナー等では、アクセルを踏みながら曲がるしかありません。

もう解ったと思いますが、コジる運転と荷重は関係ありません。
コジる運転とは、正にこのスリップアングルが大きすぎる運転の事だと理解すれば良いでしょう。
正に、ゴリゴリ言わせるような運転ですね。
いくら荷重が前に乗っていても、スリップアングルが大き過ぎれば、それはコジっている事になるでしょう。
逆に、荷重が乗っていなくても、小さいスリップアングルでちゃんと曲がっていれば、それはコジっているとは言いませんね。

まあ、スリップアングルが大きすぎる状態になってしまうのは、普通はアンダーステアだと感じて切り足した時なので、そうなる原因はその手前でしっかりと姿勢が作れていない可能性が高く、また姿勢を作るためには前輪の荷重は重要だし、荷重を掛けた方がスリップアングルを小さくしやすいので、荷重も間接的には関係していると言えば、そうなんでしょうが…。
ただ正確には、荷重が乗っていない状態でハンドルを切る事を「コジる」と言うのは、間違った表現でしょう。

今回の「 スリップアングル」という言葉は、後に頻繁に出てくると思うので、ちょっと先に書いておきました。
理屈自体は、そんなに難しくないと思うので、覚えちゃっておいてください。
そして、普段の運転から、今どれ位のスリップアングルが付いているのかを意識して走ると、良い練習になるでしょう。
鋭い人は気づいたと思いますが、もちろん、リアタイヤにもスリップアングルが有るのですが、とりあえず始めはフロントだけ意識しておけば良いでしょう。


さて、何となく始めに勧めた車の条件の意味が少し解ってきたでしょうか??
以下ちょっと余談ですが、、、

時々雑誌などで、タイヤのショルダーが削れるなどタイヤが外ベリしていたら、「足廻りを変えてキャンバーを付けろ」などという記事を見ますが、多くの場合正しい運転が出来ていないためにそうなります。
私の勧めたノーマル車ならば、ほぼ確実にそうでしょう。
確かにキャンバーを付けて外ベリ(ショルダー削り)を無くすのは簡単です。 良く曲がって、多少速くなる事も有るでしょう。

ただそれは、間違った運転用のセッティングの様な物で、逆に正しい運転をするとブレーキが止まらなくなったり、曲がり過ぎたりする事が有ります。
云わば「ヘタクソ養成マシン」の様な物ですかね。
自分の間違いを気付きにくくするだけなので、「本気で速くなりたい人」にはお勧めしません。

何度も言いますが、最近の車は本当に良く出来ています。
技術の進歩はもちろん、メーカーが莫大な時間とお金を掛けて、我々素人よりも遥かに運転が上手いプロのテストドライバーが、何千ラップもテストコースを走ってセッティングを出しているのです。
車種により特徴の違いはあれど、市販車のセッティングで大外ししている事は、まず有りません。

よって、まずそのフルノーマルの車を完璧に乗りこなせる様になることが大切です。
良く 車の雑誌の記事や、プロドライバーのアドバイスなどで、すぐに車をいじらせようとするのは、純粋に広告主やスポンサー に、チューニングパーツメーカーやチューニングショップ等が付いているためです。
だから間違っても、「練習には純正が一番なので、社外品は付けないように」なんて書けませんし、言えません(笑)。

これが、本気で速くなりたい人への項に、「プロには出来る事も有るが、出来ない事も有る」と書いた、一つの例です。

まあ、この話は書こうかどうか迷ったんですが、変にいじっちゃわないうちに、始めにちょっと書いておきました。
別に私は、チューニング反対派?な訳ではありませんが、チューニングは知識と技術を伴って行わないと、本当に肝心の運転がヘタになってしまうんですよ。
始めに車をいじっちゃった人が、運転技術が上達するにつれて少しずつノーマルに戻して行く何てのは、良く有る話です(笑)。
チューニングについての話は、また後で詳しーく書くつもりです。

とりあえずあるレベル(かなり高い!)に行くまで、「運転の練習自体」は、タイヤを含めノーマル車で行う事を強く勧めます。
それが上達への一番の近道だと思います。

続く…。


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