バネレートとハンドリング特性その1


さて、数多くある車高調整式サスペンション。
OHLINSの特徴は色々ありますが、操舵特性に大きく関わる物の一つが、前後のバネレートバランスでしょうか。
今回はその、前後のバネレートバランスと操舵(ハンドリング)特性について少し書いてみます。

OHLINS製車高調の特徴の一つは、前のバネレートが後ろのバネレートよりも高い事ですかね。
カタログには載っていない主要諸元を見れば分かりますが、これは純正とは逆の設定です。
純正は後ろの方がバネレートが高くなっています。
また、車高調メーカーによってどちらのバネレートを高くするかは、分かれるところのようですね。
どちらかというと、後ろが低い方が少数派かな?

さて、 交換を考えていた当時の私は、FRで後ろのバネレートの方が低い設定は、何となく漠然と、アクセルオンでリアを沈めてトラクションを上げて、アクセルで弱アンダーで曲げていく運転をするのかなぁ 、って言うイメージが有りましたかね。
ちなみに自動車工学の本などを見ると、前のロール剛性を上げるとアンダーステア方向になり、後ろのロール剛性を上げるとオーバーステア方向になると書いてありますね。

ロール剛性とは、ロールのしにくさの事で、バネレートを上げるのが最もポピュラーな方法ですかね。
バネを変えるのは大変なので、減衰力を変えたり、タイヤの空気圧を変えても疑似的にバネレートを変えたのと、同じ方向の特性を体感できます。
またボディー補強も同じで、例えば後ろにタワーバーを入れると後ろのロール剛性が上がり、オーバーステア方向に行くといった感じです。

前後のロール剛性配分と操舵特性の理論は、簡単に言うと前後で固くした方が先に限界を超えて滑り出す、という理論です。
これは、基本的な理論で、どの本にも同じ事が書いてありますね。
この理論は定説とされていて、またその説明は非常に明快で解りやすく、車体が剛体(曲がらない)である限り正しいように思えます。
その話の詳細はまた、トップページの「サスペンションを物理する」のページかどこかに書く予定です。

ここで、 たまにはちょっと書籍を紹介してみましょうか。
この本は大分前、まだ私がインテグラに乗っていた頃に買った物ですが、基本的な事は一通り網羅されていると思います。
(というか、当時はこの手の本で、一般向けに市販されている物があまりなかったんですよね。)



この本は、かなり読み込んでお世話になった物です。
専門実験器具を使った実験の話が多く出てくるので、そこは一般人には真似出来ないですが、それ以外の理論の話はその気になれば自分でも、計算、再現できます。
実際に 私は、足を変える前にシミュレーション計算をする際に、この本の式を使わせてもらいました。
その時に、インテRの純正足のダンパーの減衰力のセッティングが、いかに絶妙な味付けになっているかを、計算したグラフを見て関心したのを覚えています。

ただ、物理や数学が得意じゃない人は、かなり「その気」にならないと、理解して計算、再現するのは難しいでしょう。
もしも買う人は、通販では買わずに、必ず手に取って見てから買う事をお勧めします(笑)。

ちなみに以下のページは、ここで書いたロール剛性配分と操舵特性の説明の一部です。



ここには、「FR車はリアが駆動輪なので、リアのグリップが駆動力によって減るため、フロントのロール剛性配分を高めてアンダーステア方向にしてある」、というような話が書いてあります。
まあ、一理ある気がしますね。

ただ結論だけ言うと、実際の車の操舵特性は、そんなに単純な話にはなりません。


さて、OHLINSの車高調は後ろよりも前のバネレートが高いので、この理屈で言うと前のロール剛性の方が高くなり、純正足よりも、アンダーステア方向に行くはずですね。
それでは早速、運転してみました。

まず普通に走っていると、車高が下がって純正の様な腰高感が無くなり、長く回り込んだ高速コーナーもロールが減って安定し、何ともアクセルを踏んで行ける、スタビリティーの高いフィーリングです。
おまけに 乗り心地も純正より上と言えるほどです。
ところが、一たび少し速く走ろうと攻め込むと、それまでの私の運転スタイルが全く通用しません!
まず第一に、ブレーキが効かない!!
ブレーキングが生命線だった私にとって、これは致命的です。
この話は、サスペンションとブレーキ性能の関係と、市販車のブレーキチューニングについて考えるに詳しく書いてありますが、車高を下げたり足を固めると ピッチングが減り、前に荷重が乗りにくいので、ただでさえフロントタイヤのロックが早まります。

更に、OHLINSの前のバネレートが高い(純正の倍以上)セッテシングは、より前荷重を作り難くします。
よって、今までの「親のカタキー」の様なブレーキングで、思いっきり突っ込んで前荷重を作り、パキンと向きを変えて出来る限り直線的に立ち上がるといった、FF車からずっとやっていた運転方法は全く通用しません。
フルブレーキを踏むと、ノーズダイブを殆どせずにズルズルっとABSが介入してロックして止まらず、更に前荷重にもなりにくいので、ターンインでハンドルを切ってもあまり向きが変わってくれません。

よって、ブレーキングからターンインに関して言えば、ロール剛性配分の理論は当たっていて、フロントのバネレートの方が高いOHLINSの車高調は、確かにアンダーステア傾向になっている気がします。
 

続く…。

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