乱暴な図ですが、左がトーインがない場合、右がある場合のイメージです。
(この図では解りやすくする為に、前輪と後輪が同じラインを通るようになっていますが、そうならない事も有ります。)
右の図の、リアタイヤのスリップアングルが大きくなる事がわかると思います。
しかしながら、その高いリアのグリップを越えて滑り出したら…。
スリップアングルが大きく、荷重も大きな状態で滑れば、当然滑り出し速度は唐突で速くなりますね。
とまあ、ここまでは良くありそうな説明です。
もう少し詳しく説明してみましょう。
まず、滑った瞬間にリアの外側の荷重が抜けますよね?
荷重が抜ければ、スタビと、バネの力でサスペンションは伸びます。
サスペンションが伸びれば、トーが戻ります。トーが戻れば、スリップアングルが小さくなるので、一気に滑りますね。
そして、修正蛇(カウンターステア)をあてると、スリップアングルが変化し、普通のFRと同じくリアのグリップが戻ります。
しかしこのような限界近辺でグリップが戻ると、またリアのサスペンションが大きくバンプするので、強烈にトーインとなり、スリップアングルがまた急に大きくなります。
そのため、今度は唐突にトラクションが戻り、4駆の様に修正蛇を切っている方向に行こうとします。
(いわゆるドリフト状態には、ならないわけですね。)
つまり、カウンターステアのお釣りをもらいやすいわけですね。そしてお釣りを貰って、また行きたい方に切りなおす・・・。
トー変化が、短時間に沢山起きるので、修正舵や、その戻しなどの動作も非常に速く行う必要が有ります。
こうなると、もう荷重変動がかなり大きくなって、フラフラになっているはずです。
この修正舵を繰り返して、車の向きを一発で収束できずに、修正蛇を短時間に何度も切る、いわゆるタコりやすいセッティング?になっているのだと思います。
つまり、スピンするか、完全にグリップするかの、どちらかに急激に行きやすく、その中間域が狭い、とも言えるでしょう。
私は、このリアタイヤの大きなトー変化による、スリップアングルの変化量の大きさが、唐突さを生む一番の理由だと考えています。
実際に後期型は、トーコントロールアームを変更し、このバンプ時のトーの変化量を減らしています。
更に滑った時にトーを戻そうとする力、つまりスタビとバネのレートを下げています。
特にスタビをかなり細くしたのは有名な話ですね(スタビは、120型で一度少し細くなっている)。
更に、ロールセンターを下げた事で、よりリアがロールしやすい方向に行っているはずです。
つまり、全体的に後期型は、初期型よりも早めに滑り出すセッティングと言う事でしょうか。
まあ、限界を下げたという表現も、間違いではないと思います。
でもそれだけでは、トラクションも落ちるし、コーナリング性能も落ちるので、タイヤを太くしたのでしょう。
ハイグリップタイヤを辞めたのも、コントロール性を高め、唐突感を無くすためでしょう。
ちなみにメーカーの開発者の方は、それを「予見性を高めたセッティング」と言っています。
何だか、ヘタな人にレベルを合わせて作り直したようにも聞こえますが、その決定は一概に間違いとは言えないでしょう。
いくら限界性能が高くても、その限界状態を引き出せなければ速くは走れません。
それならば、いっそ限界を下げてでもコントロール性を上げて、低くても長い時間限界を出せるセッティングにした方が、結果的に速い(良い)のではないか、と言うのも一つの答えだと思います。
とまあ、個人的に分析してみました。
ただ、逆に原因がわかれば、初期型のピーキーな特性を、変えることもできるはずですね。
限界を下げずに、ピーキーさを緩和するためにはどうすればいいのかは、またS2000の研究ページに載せる予定です。
余談ですが、私の経験上、セミプロのような本当に運転が上手い人ほど、S2000は癖がなく、非常に運転しやすいと言います。
実際に横に乗せてもらっても、その挙動にピーキーさなど微塵も感じません。(始めはカルチャーショックを受けました)
また、オーリンズ 車高調整式サスペンションのインプレにも書きましたが、「ガンさん」こと黒沢元治氏が、初期型プロトタイプのS2000で、ニュル・ブルク・リンクを走る映像を見ても、全くと言っていいほど、修正蛇や、荷重変動はありません。
非常にコントロール性が高そうに、スムーズに走っていました。
(この映像は、著作権の問題がなければ是非アップしたいんですけどねぇ・・・)
やはり、特に初期型は、上級者が運転しやすいように作られていたんですかねぇ。
以上