曲げるための日産のアプローチ



舗装路を速く走るために進化を始めた四駆の黎明期に、先述“タイトコーナーブレーキング現象“を「全く無くしてしまって曲がりやすくしよう」というアプローチを取ったのが、第二世代のスカイラインGT-Rですね。

このGT-Rはセンターデフの代わりに”アテーサET-S”という電子制御を設け、普段は完全な後輪駆動車として走る仕組みです。

よって普段のコーナリング時は、“タイトコーナーブレーキング現象“はそもそも存在しません。
私もR34GT-Rは運転したことが有りますが、びっくりするくらいよく曲がりました。
Uターンの様な超小回りなケースでも、タクシーのクラウンか?(笑)ってくらい良く曲がったのを覚えています。

ではGT-Rはいつ四輪駆動になるのか? といえば、それは後輪がホイールスピンした瞬間です。
そこで電子制御により、前輪に駆動力が配分されるわけですね。
(今回は旋回の話がメインなので触れませんが、GT-Rは急制動時にも四駆になるみたいです)

つまりブレーキングからターンイン時は完全なFRで、クリッピングポイントから先の加速区間で後輪がスリップすると四駆になるといった独特の挙動を持つ車なわけです。
これが日産が出した、曲がりやすさとトラクションを両立するための、一つの答えなのでしょう。
この電子制御を使ったGT-Rは、当時はとても斬新でした。

少し余談ですが第二世代の初代であるR32GT-Rは、グループAのレースに勝つために作られたそうで、後輪のタイヤサイズがレギュレーションで限られていたために、四駆にしてトラクションを稼ぐことを思いついた、なんて言われています。
(真偽の程はお調べください(笑))

実際にこのアテーサET-Sを搭載したGT-Rの速さは強烈で、グループAのレースでは「GT-Rのワンメイクレースか?」っていうくらいに、上位を独占していましたね。 ちなみに、2600ccという中途半端な排気量も、ターボ係数を掛けた時の排気量がレギュレーションに合うように設定されたものです。

もう一つ面白い話を書くと、R32GT-Rはヒューズのオンオフで簡単にFRにしたり四駆にしたりの切り替えができたそうで、それを手元(ハンドルの近く)まで配線を引っ張って来てスイッチを作り、手動で二駆と四駆を切り替えながら運転していた強者もいたそうです。
つまりターンイン時には旋回を重視してFRにし、立ち上がりでパワーを掛けて後輪のトラクションが不安になるとスイッチを押して四駆にする、みたいな感じですね。 でもまあ、それを自動でやってくれるのがアテーサET-Sなんですが(笑)。

よってスカイラインGT-Rは、一番最初に電子制御を「速く走るために」導入した市販車だと言うことが出来るでしょう。
さすがは“技術の日産”と呼ばれるだけのことはありますね。

ただ、コーナーのターンインやバランススロットルの様なアクセルを少ししか踏んでいない時には完全なFRで、アクセルを踏んでリアタイヤがスピンした瞬間に四駆になるという特性はかなり独特であり、それを使いこなすためには“GT-R使い”と言われるような独特のテクニックが必要だったそうです。


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GT-Rの小話:

という話だけじゃ、やっぱりつまらないですよね?(笑)
ではせっかくなので、その気になればネットでも調べられるありきたりの情報だけでなく、少し自分の体験談を書いておきましょうか。

だいぶ昔の話になりますが……、

漫画などの影響もあってか、GT-Rは首都高や湾岸を走るにはいいけど、峠には重くてでかくて向かないなんてイメージがあるかもしれません。
特にアクティブLSDがリアに搭載される前の、初代のR32は、コーナーはあまり曲がらないし速くないみたいなイメージがあるかもしれませんが、私は”本物のGT-R使い”の助手席に、テクニカルな峠で乗せてもらったことがあります。
車はブレーキだけ強化してある、殆どノーマルのR32でした。 タイヤもコンフォートタイヤです。

いざ乗ってみると、ギアが極端にハイギヤードなのに少し驚くも、加速は思ったほどではありませんでした。
RB26は500馬力以上を軽く出せるポテンシャルを持っていますが、市販車ではかなり抑えてあるフィーリングです。
(ノーマル同士だったら、ゼロ発進加速はエボやインプの方が遥かに強烈です。 ただしRB26はちょろっといじるだけで、メッチャ速くなります)

それでも高速域では、直6エンジン独特のフィーリングで加速していきます。
高速域での加速は、ノーマルでもさすがと言った感じですかね。

さて、いよいよ高速域から一気にテクニカルなセクションへ進入。
GT-Rが最も苦手そうな急な下り勾配のコーナーを攻めた時、一つ目のコーナー進入で私は受け身を取りました(笑)。
いや、本当に事故ったと思ったのです。 明らかに進入スピードが速すぎて、クラッシュすると思ったのです。

ですがあら不思議。 アンダーどころか見事にヨーが立ち上がり、むしろリアを大胆に滑らせてオーバーステアっぽく曲がっていきました。 ですがこれは明らかに私の感覚ではスピン挙動です。 完全に、それも相当リアタイヤが滑っていますからね。
今度はスピンしながら吹っ飛んでいくと思った私は、後方受け身を取ろうとしました(笑)。

ところがそこでアクセルを踏んだのでしょうが、突然四駆になるのです。
するとスピン挙動はピタリと止まり、4輪をスライドさせながら何事もなかったように曲がってしまったのです。
それまで二駆しか乗っていなかった私にとっては、知っている車の挙動とは根本的に異なり、本当に衝撃を受けました。
(正直、未だに何が起きたのか正確にはわかりません(笑))

この運転は「ここで四駆になる!」ということに確信を持っていないと絶対にできない運転でしょう。
そしてその速さたるや、下りでも無敵というレベルでした。(フルノーマルでです)
コンフォートタイヤでなぜこんなに速く曲がれるのか、本当に不思議だったのを覚えています。
そして言うまでもありませんが、上りは水を得た魚のようでした。

まあここは車種別ドラテク講座ではないので(笑)、ざっとセンターデフに関係するところだけ書きますが、リアにアクティブデフを持たないR32GT-Rは、上りの方は意外とアンダーステアが強かったですかね。
そこでこのドライバーが使っていたのが、多角ドリフトでした。 私もアンダーステアの強いFF車では変則的に使っていましたが、それを極めるとこうなるのか、というほどに上手だったのを覚えています。

さて、上りの回り込んだコーナーで何故多角ドリフト(厳密にはそう呼ばないかもしれませんが、私にはそう感じました)をするかわかりますか? 
アテーサET-Sはアクセルをオフにすれば完全にFRになるので、恐らくその特性を上手く使っていたのでしょう。

リアタイヤがグリップを戻しそうになるとアクセルをオフにし、リアタイヤが滑るとアクセルを踏む、といったことを短時間の間に繰り返し、リアタイヤのグリップを完全には戻さないようにすることで、アンダーステアを上手く消していたのです。
これは、FR車はエンブレをかけるとオーバーステアになる特性(詳しくは動画の22,23参照)、そしてアクセルを踏めば四駆になるので大胆にオーバーステアに持って行けるメリットを最大限に使ったコーナリングなのでしょう。

この日、”GT-R使い”というのは、この様な特性を上手に使った運転が出来る人なんだと私は理解しました。

GT-Rが本当に速いのはコーナーであり、それも下りも上りもどちらも速い。
グループAでの戦績は伊達ではなく、そのポテンシャルは半端ではないようです。
ただしその世界を知っているのは、オーナーの中でもごく一部、といったところが真実でしょう。


何だかGT-Rの試乗記みたいになってきたので(笑)、とりあえずGT-Rについてはこの辺にしておきますが、要望があったらこの車について、もう少し書くかもしれません(笑)。


続く……


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