LSDを理解した運転



最後に運転の仕方について、少し書いてみましょう。

機械式のLSDは、図1のように中央のカムが金属プレートを押し広げることで作用します。
2wayは両方に切り込みが入っているので加速時、減速時の双方に効き、1wayは片側のみに切り込みが入っているので加速時のみに効くといった仕組みです。 1.5wayは、切り込みの角度を変えて、加速時と減速時の効きを変えるものですね。

図1

図1 LSDのタイプ別の構造(CUSCOのHPより)

2way や1.5way のLSDは大きな横Gと大きな加速度の時にはヨーを作りますが、左右の荷重移動が殆どなければ逆にヨーを戻す、アンダーステア方向に働きました。 では、交差点を曲がったりゆっくりRの小さいコーナーを曲がったりする時に、このLSDのアンダーステア効果を減らすにはどうしたら良いでしょうか?? このLSDの構造にそのヒントが有ります。

図1の通り、カムが切り込みの中に入って押し広げることでデフがロックするのですから、カムが真ん中に有ればデフはフリーに近く(正確にはイニシャルトルクによる拘束力)になるはずですね? 
そして、カムが真ん中にあるとはつまり、加速も減速もしていない状態です。

つまり、加速も減速もしなければ、LSDは普通のオープンデフとして振る舞うわけです。
まあこれは、今までに何度も書いてきた加速も減速もさせないためのアクセル、”バランススロットル”を使うことで街乗りやゆっくり走っている時にもLSDがロックしてアンダーステアを発生させることはなくなるということですね。
逆に言えば、バランススロットルを使っている時には、LSDの意味が殆ど無いとも言えるでしょう。
ブレーキを残していたりエンジンブレーキをかけながら曲がっている時に、アンダーステアが出たら敢えてアクセル踏んでバランススロットルにすると、車がビックリするくらい曲がることが有ります。 これは前輪の荷重が抜けるデメリットよりも、LSDがアンダーステアを作らなくなるメリットの方が大きい時にそうなるはずですね。


最後に、LSDのセッティングについて少し書いておきましょうか。
LSDは左右のタイヤに発生する力の差により、車体のヨーを作ったり戻したりする効果があるので、LSDが作るヨー軸からタイヤの距離が遠いほど、そのヨーモーメントは大きくなりますね?
一応書いておくなら、ヨーモーメント=トルクは自動車に必要な物理学 より

T = r × F

ここで、rはヨー軸からの距離、Fはタイヤの出す力ですね。
なので他の条件が同じならば、駆動輪のトレッド幅が広いほど、大きなヨーモーメントを作ることになりますね。
例えばワイドトレッドスペーサーを入れれば、それだけで低速時にアンダーステア方向にする力も、旋回時のアクセルオンでヨーを作る力も大きくなることになります。

また、後輪のLSDがヨーを作るということは、舵を切っているフロントタイヤがヨーを発生する力を減らすことが出来ますね。
実際に舵角も小さくなりますから。 つまりリアタイヤがヨーを作ってくれるなら、フロントタイヤのグリップ力の殆ど全てを遠心力に対向する力に使えるわけです。 或いは舵角を増やせばよりヨーもつくでしょう。
つまり、アンダーステア特性の後輪駆動車においては、LSDを入れるとコーナーでの加速時にフロントタイヤのキャパ(使えるグリップ)が増える効果によってもアンダーステアが軽減される方向に行くでしょう。
また、加速時にLSDがヨーを作る効果は、左右の荷重移動が小さいと得られにくくなりますね。
もしも荷重移動がゼロなら、ヨーを作るどころか戻す方向の力が働いてしまいましたね? ということは、ある程度車体をロールさせるセッティングの方が、この効果は得られやすいことになります。

まとめると、LSDがヨーを作る効果を最大に出すためには、トレッドを広め、重心とロール軸の距離を広めにしたり、バネは柔らかめにするなどしてロールを抑え過ぎないセッティングにする、と言った感じでしょうか。


最後に日本人初のF1ドライバー、中嶋悟氏の言葉を書いておきましょう。

「ステアリングは車庫入れするためにあるのであって、車の方向を変えるのはステアリングではない。スポーツドライビングにおいてステアリングは、あくまできっかけを与えるもの」

これはおそらく、フォーミュラカーのようなヨー慣性モーメントが小さい車にLSDを入れた時に達することが出来る境地なのでしょう。(余談ですが、デフが直結のレーシングカートでも同様のことが言えます)

さて、取り敢えずこれで後輪駆動車のLSDの話は終わりますが、FF車や四駆においてもLSDの効果は大きいですね。
特に四駆は、前後に加えてセンターデフが入っているが面白いところです。
これらの駆動方式の挙動についても是非、今回の項を参考にして、皆さんそれぞれ考えてみてくださいね。
今回書いたように、ステップを追って考えていけばそれほど難しくないはずです。

答え合わせは少し先になるかもしれません(笑)。

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