荷重移動と荷重変動


さて、練習は進んでいますか??
この新しく書き始めた、「ガチで速くなる練習方法」の反響が、思いのほか大きくて驚いています。
かなり真剣に練習をされている方や、これによってドライビングを根本的に見なおした方もいらっしゃるようです。
ただ、やはり非常に難しいという感想を多く頂きますね。

あのー、本当に難しいんですよ(笑)。
こんなに難しい事をやる価値があるのか?と疑問を持つ人もいるかもしれませんね。

この項では理論は後から書くと言いましたが、今回はなぜ、私がこの様な練習や理論を考えたかという話をちょっとしてみようと思います。

この運転、前回書いた「ハンドルの舵角を一切動かさない運転」の根底にある考えは、「荷重変動を起こさない事」です。
良くスムーズな運転だとか、挙動変化の少ない運転などと言われている物も、この考えに基づくものでしょう。

では、荷重変動とは何なのでしょうか?
荷重移動という言葉は色んなところで良く聞くと思いますが、荷重変動との意味の違いについて、ちょっと書いてみます。
ちなみに、荷重変動という言葉を使い始めたのは、私の知る限りこのHPにも何度か登場している「ガンさん」こと、黒澤元治氏だと思います。

同氏曰く、
「荷重移動と荷重変動は似て非なるもの。荷重移動は、ドライバーが意図的にスムーズな運転のために起こす動作。一方、荷重変動はドライバーの意に反して起こってしまう、起こしてしまうものである」

だそうです。

まあこの言葉を使い始めた、元祖の方の言葉なのでこれが正解なのでしょうが、超人の域に達している(笑)この方の言葉は少し理解するのが難しいと思います。
よってこの言葉を私なりにわかりやすく、少し定量的に、というか論理的に書いてみましょう。
つまり誰にでもわかりやすいように、ですねっ。

荷重移動も荷重変動も、荷重が動く、つまり移動することに変わりは有りません。
それが「ドライバーの意志に沿っているか」どうかは、ドライバーが「沿っていた」と言いはればそうなってしまうし、ドライバーの言葉のさじ加減になってしまうので(笑)、取りあえず私は次のように定義しています。

荷重移動とは、荷重の一方向の変化である。

荷重変動とは、荷重の両方向の変化である。

以上です。とてもシンプルですねっ。


例えばブレーキングの例で考えてみましょうか。
ブレーキを踏めば前輪の荷重が増えますね? その荷重が同じか増加する方向、つまり増加するだけの一方向の場合は荷重移動と言います。
つまり、ブレーキを踏み増すか一定の踏力で、ブレーキロックしない限りは前荷重は増える一方向になりますね。

次に、ブレーキを踏んで強く踏みすぎたために緩めたり、また踏み増したりするとしましょう。 当然これでは、前の荷重は増えたり減ったりを繰り返しますね。
または、ブレーキを強く踏んでしばらくしてブレーキロックした際には、当然前輪の荷重は増える方向になるだけでなく、ロックした瞬間に減ります。これも荷重が増えたり減ったりする原因となります。
このように、増加方向に行ったり減少方向に行ったりと、両方向に変化する場合は荷重変動と言います。

これは加速時も、コーナリング時も同じです。
アクセルを踏んだり戻したりを繰り返せば、後ろの荷重が増える一方向にはならないし、コーナリング中にタイヤがスライドしてしまったり、ハンドルを戻したり、あるいは切り増してアンダーステアを出しても、横方向の荷重が増える方向に行くだけでなく、増えたり減ったりを繰り返してしまいます。

ちょっと荷重移動と荷重変動のイメージの図を書いてみましょうか。

図1 荷重移動のイメージ


図2 荷重変動のイメージ

こんな感じです。 余談ですが、データロガーにはキッチリとこの様に出たりします。

この荷重変動というのは、タイヤが本来持っている限界性能、もっと言えば、車が持っている本来の限界性能の手前で、限界を越えさせてしまう最も基礎的な原因です。

実際に同じ車で、同じコーナーを走っても、上手い人が曲がれるスピードでも、下手な人は曲がれなかったりしますよね??
もちろんその原因は荷重変動だけではありませんが、荷重変動はその原因の大きな割合を占めます。
これ、本当に重要な事なので、本気の人はぜひ覚えておいてくださいね。

ちなみにどうして荷重変動を起こすと、本来のタイヤの性能の手前で限界を超えてしまうかわかりますか??
例えば必殺の二段ブレーキの例を挙げるなら、タイヤが最大の仕事をするようになるためには、有限の時間がかかるわけです。
例えば1発目のブレーキを踏むことで、前輪のバネが縮み、ダンパーが縮み、シャシーがしなり、タイヤがつぶれ、タイヤの接地面が増え、荷重が乗り、強いブレーキ踏力を与えてもロックしにくい状態が作られるのです。
ところがその状態で一旦ブレーキをポンと戻してしまったりすると、せっかく作ったタイヤが最大の仕事ができる状態が急に無くなってしまい、同じ強い踏力でブレーキを踏むと、簡単にロックしてしまったりするわけです。
つまり、タイヤがまた最大の仕事が出来るようになるまでのしばらくの時間、車の限界は下がった状態になってしまうのです。

これは、加速時もコーナリング時も、あるいはそれらが組み合わさった場合も同じです。
同じ操作中の荷重の変化は、一方向にしないと限界を下げてしまうのです。
いかに荷重変動を起こさずに走ることが重要かがわかりますね?

まあ、 加速時にアクセルをパカパカと踏んだり戻したりする人、あるいはブレーキング時にブレーキをパカパカと踏んだり戻したりする人はあまりいませんね?
(例えば同じブレーキ踏力で、目標の位置できっちり止まる練習なんて言うのは、色んな所に書かれていますよね?)

ところがコーナリング時にハンドルを切り足したり切り戻したりと、動かす人は多いと思います。
「ガチで速くなる練習方法法」の第一歩は、まずはこれを止める事です。
これも、もちろん荷重変動を起こす原因となるからです。

ハンドルを切り足す方向なら、荷重の移動方向は一方向なのでは?と思う人もいるかもしれませんが、これは前回書いた通り、車が限界の遥かに手前で走っている時のみにしか成り立ちません。
フロントタイヤが限界付近で走っている時には、ハンドル切り足すとスリップアングルが一番曲がるところを通り過ぎて、変化がないどころか逆にアンダーステアとなる事があるし、リアが限界付近であればハンドルを切り足した途端にリアがスライドしてしまう事があるからです。
後でじっくり書く予定ですが、横Gも入り口から出口まで一定に保つ事が理想です。

ちなみに良くプロドライバーが、サーキットのタイムアタックなどでコーナリング中にハンドルを動かす、俗に言う「ソーイング」を行っている事が有りますが、あれももちろんやらないに越したことはありません。当然ロスになります。
ただプロドライバーは、自分の車ではない初めて乗るような車で、2周程度しか持たないような特殊なタイヤでタイヤの温まり具合を探りつつ、すぐにタイムを出さなければならないので、その中で最大のパフォーマンスを出すために常に限界を探りながら走るために、あのようになっているのでしょう。
もしもグリップ変化が少ないタイヤで、何周も練習をすれば、彼らも最終的にソーイングは減った運転になるでしょう。

ソーイングも荷重変動を起こす原因となったり、あるいは起きてしまったために仕方なく行うものなので、やらないに越したことはありません。
よって、そのような運転を目指す必要も、憧れる必要も有りません。

もちろん 荷重変動をわざと起こして車の姿勢を作ったりするテクニックも有りますが、そんなものは荷重変動を起こさない運転が出来るようになってから、次のステップとして学ぶものです。 
さらに言うなら、そんなテクニックを使わなければならない状況にしない事が理想です。

これからスポーツ走行を学ぼうと考えている初心者などは、この「荷重変動」を起こさない事を意識すると、していない人と比べて短時間で抜群に上手く、速くなります。


さて、、、「ガチで速くなる練習方法」のもたらすものは、もちろん荷重変動を無くすことだけではありませんが、ちょっと長くなったので取りあえず今回はこの辺で。
ま、他の話はまたゆっくりと書いていきます。

それでは、練習に戻ってくださいねっ(笑)。


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