大きな摩擦円を逃すな!!


さて、それでは前回書いた、車を曲げるために最も大切な、ヨーの作り方について書いてみましょう。
直進している車にヨーを作る、つまり車体を回転させる方法はただ一つ。
それは、「ハンドルを切ること」です。
それによって、前輪に舵角が付き、スリップアングルが付いて、車は回転して曲がり始めるわけです。
後輪は、常に真っすぐ行こうとしていますからねぇ。

ハンドルを切れば曲がるのは当たり前ですね(笑)。 教習所でもそう習ったと思います。
ただスポーツ走行においては、このハンドルの切り方が非常に重要になります。
それは、 ここまで読んできた人ならもう分かると思います。
同じ舵角だけハンドルを切っても、その時の車の状態によって、作れるヨーの大きさが全く異なるのです。

具体的にヨーの大きさを決める要素は、主に以下の二つです。

1、 前輪の摩擦円の大きさ
2、 前輪のスリップアングルの大きさ

です。

特に今回は、1の摩擦円の大きさの話をしてみます。

摩擦円とは、摩擦円を物理するに書いたように、前輪の荷重の量によってその大きさが変わります。
更に、前輪が加速状態や、ブレーキング時など縦方向の力が使われている時には、横方向の力、つまりヨーを作る力が小さくなりましたね?
と言う事わ、、、前輪の摩擦円が最大になり、且つ、縦方向の力が使われていない状態が、一番タイヤが横方向に使える、大きなヨーを作れるおいしい状態になる訳です。

それでは、実際の運転において、どの状態がそうなのかを細かく書いていきましょう。
例として、直線からコーナーに入るケースを考えてみます。 コーナーに入る時に、車を曲げる、つまりヨーを作る方法ですね。

まず直線では、通常はアクセルを踏んでいますね。
そして、コーナーに差し掛かると曲がれる速度まで落とすために、ブレーキを踏むでしょう。
ブレーキを踏むと前輪が沈み、後輪が浮きますね。 ここで、いわゆる前荷重の状態になる訳です。

コーナーに向かってブレーキを踏む。そして、フロントのサスペンションのバネが縮み、タイヤも潰れます。
そして減速が終わり、ブレーキペダルから足を離しますね。

ここです!!

え?声が大きいって?(笑) でも、この瞬間です。


この瞬間が一番フロントタイヤの摩擦円が大きくなり、またブレーキペダルから足を離しているので縦方向のグリップが使われていません。 ダンパーの減衰力が効き、バネはすぐには伸びません。
正に、自由自在に使える大きな摩擦円がこの瞬間に出現しているのです!!

この幻の様に現われては逃げる大きな摩擦円。
この一瞬のタイミングをいかに逃さないかどうかで、全てが決まると言っても過言ではありません。

舵を入れるのは正にこの瞬間で、早くても遅くてもダメです。
この瞬間にピンポイントで舵を入れられれば、面白いように車は曲がります。
おばちゃんが乗っているようなファミリーカーでも、本当に決まると曲がり過ぎて恐い位です。

私は、この技術を習得できるかどうかが、ドラテク向上のための、最初にして最大の壁だと考えています。
ちなみに昔、ジムカーナのトッププロが前荷重は意識していないと言っているのを見た事が有りますが、恐らく意識していないだけで、出来ていない訳ではないでしょう。

前にも書きましたが、私はこれが完璧に出来ている人を助手席で見た事が有りません(ある程度出来ている人は見ましたが)。
10年以上車に乗っている人でも、出来ていない人は全く出来ていませんかね。
よってこの技術は、長く車に乗っていれば自然に身に着く物ではありません。
正しく理論を理解して、正しい練習をしないと身に付かないでしょう。

ちなみに練習に勧めた車は、実はこの練習が最もしやすい車なのです。
まずFF車はフロントが重いので、前荷重が作りやすい特性があります。
また、ノーマルのサスペンションはバネレートが柔らかいので、フロントが沈む量が大きく、前輪の荷重が体感しやすくなっています。
また、高い車高に柔らかいサスペンションでは、前荷重になっている時間が長く、つまり前輪の摩擦円が大きく、おいしい状態になっている時間が長いのです。 結果、少々舵を入れるタイミングを外しても、それを許容してくれるのです。
きっと荷重で曲げる感覚を、体で感じる事が出来るでしょう。

また、後輪駆動車に比べると、FF車はこの「荷重曲げ」(以下このように呼びます)に失敗するとアンダーステアしか出ないので、成功したかどうかを間違えることが無いでしょう。
後輪駆動車だと、「荷重曲げ」に失敗しても、アクセルオンで曲がってしまう事が有りますからねっ。


さて、それでは次に、この荷重曲げの練習方法を書いてみましょう。
車の荷重を前に移動する方法はただ一つ。 それは、「減速する事」です。
ブレーキの項にも書きましたが、車は、加速時には後ろに荷重が移動し、減速時には前に荷重が移動します。
まあこれは、自然界の法則だと理解しておけば良いでしょう。
よって、前に荷重を移動するためには、減速する必要が有る訳です。

そして、減速するための基本操作はブレーキを踏むことですね。(エンジンブレーキも有りますが、ここではちょっとカットします)
ただ、この前荷重を作るためのブレーキは、減速するためのブレーキとは目的が違うので、良く「曲げるためのブレーキ」と呼ばれる物ですね。
これは良く使われる言葉なので、聞いたことが有ると思います。

私流にこのブレーキを表現すると、たとえ速度を落としたくなくても「前荷重にするために仕方なく踏むブレーキ」ですかね。
よって、荷重曲げの練習とは、ブレーキを踏んで前に荷重を移し、一番摩擦円が大きくなった状態で、ハンドルを切って最適な舵を入れる練習と言う事になりますね。



それではこの荷重曲げが早く上達するための、練習のコツとルールを書いてみます。


その1:全てのコーナーを、この曲げ方で曲げること。


これは、速度を問わず、街乗りの交差点など、ありとあらゆるハンドルを切る場面で、必ずブレーキを踏んで前に荷重を作って曲がると言うものです。 速度が10Km/hだろうが、20Km/hだろうがです。
当然、交差点など、超低速ではブレーキなんて踏まなくても曲がれるし、無駄に減速するだけです。

ただ練習の目的は速く曲がる事ではありません。 曲がる時には、常に荷重が前に掛かっている癖を付けるのです。
そうすれば、全てのコーナーが練習場になります。 一つでも多くのコーナーで練習できた方が、お得ですからね。
そうすると、だんだん前に荷重が掛かっていない状態でハンドルを切るのが気持ち悪くなってくるはずです。
余談ですが、上手い人ほど低速で、この荷重曲げが出来ます。
速度が低いほど、前荷重になっている時間も量も、スイートスポットが小さくなりますからねっ。


その2:ブレーキを踏んでいる間はハンドルを切らない事。

これは文字通り、ブレーキを離すまでは基本的にハンドルは真っ直ぐにすると言う事です。
そしてブレーキを抜いて、前輪の摩擦円が大きくなっているのを体感しつつ、ハンドルを切る訳ですね。
ハンドルを切りながらブレーキを踏むと、タイヤの縦グリップが減り、結果フロントのダイブ量が減る上、この荷重曲げの感覚を感じにくくなります。
最終的にはこれは使う事が有るテクニックの一つですが、とりあえず練習では厳禁です。

これは結構重要な練習のルールです。 後々、この理由は説明しますが、結構このルールは難しいかもしれませんね。
逆に難しいと感じなくなる頃には、かなり上達していると思います。 頑張ってください(笑)。

ただ、例外としてハンドルの遊びが多い車や、ブッシュなどによりステアリングレスポンスが悪い車は、ブレーキを踏んでいる時にハンドルを切るモーション(必読)に入っておくと良いでしょう。
具体的には、こぶし一個分くらい切り始めておく感じですかね。


その3:止まるブレーキと曲がるブレーキを完全に分ける。


上級者は、減速のためのブレーキと曲げるためのブレーキが融合して見えますが、練習ではこれを、きっちり分ける事が上達の早道です。
具体的には、止まるブレーキと曲がるブレーキの間の「空走距離」を多めに取る事です。
空走距離(空走状態)とは、アクセルもブレーキも踏んでいない、エンジンブレーキが効いている状態の事です。
その距離を多めに取ると言う意味ですね。

具体的には 直線からコーナーに入る時に、かなり手前でまず減速のためのブレーキを踏んで速度を落とします。
そして、しばらくエンジンブレーキ状態でダラーっと走り、コーナーに入る直前、ヨーを作りたい所で、曲げるためのブレーキを踏む訳です。
止めるためのブレーキでは、曲げるためのブレーキの減速分を考えて、減速し過ぎない事がコツです。
空走距離で、速度を上手く調整してください。

この空走距離を多めに取ることで、曲げるためのブレーキを明確に認識することが出来ます。

そして私のお勧めは、ブレーキを踏む時に頭の中で、「止めるブレーキ!!」、「曲げるブレーキ!!」と叫ぶことです。
一人で乗っている時は、声に出す事をお勧めします(笑)。 実際、私も昔やっていました(笑)。
これ、本当に効果が有るのでだまされたと思ってやってみる事をお勧めします。

それと、空走距離は、曲げるためのブレーキまでに速度を調整する事も重要な目的なので、安全のためにも始めは必ず作ってください。
これをほとんど作らずに、オーバースピードでクラッシュしそうになった人を何度か見た事がありますので。

そしてこの空走距離は、上達するにつれてどんどん短くして行き、最終的にはゼロにするのが目標です。
自分のレベルに合わせて、少しずつ短くして行けば良いでしょう。


その4:スピードを出さない。

例えば、高速道路を100Km/hで走行している時に、いきなりハンドルを180度位ガバッと切ると車はスピン挙動になりますよね?(教習所で習ったと思いますが、本当に危ないので絶対にやらないように)
スピンすると言う事は、車体にヨーが作られていると言う事ですが、これは当然「荷重曲げ」では有りません。
これは高いスピードにより、車のリア部の大きな慣性にリアタイヤが耐えられずに滑るだけです。(慣性ドリフトみたいなもの)

この慣性による回転(ヨー)と区別するために、出来る限り荷重曲げは低速で行う事が重要です。
その1に書いた様に、荷重曲げは上手い人ほど低速で出来る物です。
あまりスピードを出すと、これまた上達が遅くなるだけです。
始めはある程度スピードを出した方がやりやすいかもしれませんが、練習に勧めた車なら、舵を入れる時のスピードは、せいぜい60Km/h以下ですかね。


とまあ、こんな感じです。

この荷重曲げが出来るようになってくると、だんだん今までよりも少ないハンドルの舵角で曲がるようになってきます。
車によっては、ハンドルが重く感じるようになるでしょう。
前輪に荷重が乗っている時にハンドルを切れば、当然重くなりますよね。

更に上手く出来るようになってきたら、もっと少ない舵角で曲がれます。
また、もっと低速で荷重曲げを感じられるようになります。
また外見では、フロントタイヤのショルダー部が減らなくなってくるでしょう。

正直、この技術を完璧に習得するのは結構大変です。
ただ、練習に勧めた車は、その近道を教えてくれるはずです。(足廻りをいじると、遠回りを教えてくれます(笑))
始めは難しいですがこれは、バク転や、自転車と同じで、一度コツと言うか、感覚を覚えてしまえば忘れる事は無いでしょう。

以上、 荷重曲げの理論はここに書いた通りです。 今までの摩擦円の項やスリップアングルの項も参考になるでしょう。

後は、ひたすら繰り返し練習するのみですね。

ちなみに この練習の素晴らしい所は、公道で普通の速度で出来る所です。
よって、車を運転する時にはいつも荷重曲げを意識していれば、通学中だろうが通勤中だろうが、自然と練習になります。

上にも書きましたが、荷重曲げをマスターすると、それをしていない人の助手席に乗るのが怖くなると思います。
例え低速でも、何か気持ち悪くなるんですよねぇ。


ちなみに、、、もしもこれが完璧に出来るようになると、低速で少しハンドルを切っただけで、コーナーの入り口でリアタイヤが鳴いたり滑ったりすると思います。 まあ、スピン挙動で曲がり過ぎる感じですね。
そこまで行ったら、ちょっと待っててください(笑)。 その先の技術は、次のステップに書きます。

さて、、 ちょっと余談ですが、私がこの荷重曲げを本当に理解できたのは、私が日本人プロドライバーの中で最も尊敬するラリードライバーの、パイロンスラロームを(ビデオで)見た時です。
それは本当に、見惚れてしまう程、綺麗な前荷重の作り方でした。
それまでに見た、どんなレーシングドライバーのパイロンスラロームよりも綺麗でしたかね。

ちなみにこのラリードライバーは、中学生の頃から群馬の田舎で車を運転していたという逸話の持ち主で(どっかで聞いた様な?)、そのバックグラウンドも面白い方です。

もちろん長い間、日本のトップにいるラリードライバーですね。

続く…。


Back        Top