サスペンションのバネレートをk/2として、ロールしていない状態、つまり止まったり直進している状態のバネの縮みをx0とします。
この時バネを縮める力は重力のみで、横方向にGは掛かっていないので当然x0は左右で同じですね。
その時のバネが地面を押す力をFs0とすると、力は前後左右を足した物なので、
Fs0=kx0+ kx0 [N] ・・・式6
ですね。
これがロールして、外側のバネがロールする前よりもx[m]縮むと内側のバネがx[m]伸びるので、外側のバネが押す力はk(x0+x)、内側のバネが押す力はk(x0-x)となりますね?
さて、前回ロールさせるトルクは横Gと重力だと書きましたが、内側のバネが車体を押し上げる力も重心を回そうとするトルクとして当然掛かります。
よって上記のトルクτと、内側のバネの押すトルクを足したものが、外側のバネを縮めるトルクとなります。
図1よりバネが出すトルクは、バネの押す力とトレッドの半分のベクトルの外積になりますね?
(
ただしここで、バネとトレッドのなす角は、ロールする前も後も変わらず90度であると近似します。
つまり外積を、バネの押す力とトレッドの半分のスカラー値を掛けたものにします。)
するとバネに掛かる力の式は、左辺を横Gと重力によるロールさせるトルクと、内側のバネの伸びる力によるトルクを足したものとし、右辺を外側のバネが伸びる力によるトルクとすると、
・・・式7
となりますね。
これを計算して
整理すると、
・・・式8
となります。
これより外側のバネを縮める力kxは、
・・・式9
となり、外側のバネを縮める力は、ロールさせるトルクτとトレッドTで決まりますね。
τはすでにロールと荷重移動と横G その1の式5で求めたので
、これを式9に代入すれば、
・・・式10
となりますね。
さて、もう何が言いたいかわかりましたね?
この外側のバネを縮める力の増加分こそが、荷重が移動した量です。
何度も言いますが、荷重は移動はしますが増減はしません。
よって、外側のバネを縮める力が増えた分、内側のバネを縮める力は減っています。
つまり、内側から外側へバネを押す力が移動した、、、別の言い方をすれば荷重が移動したのです。
そしてその移動した量は、ロールする前よりも外側のバネを縮め増した力、式9〜式10の「kx」ですね。
つまり式10より、
「車の荷重の移動量は、車の質量、重心とロール軸の距離、横G、トレッド、ロール角、で決まる事になります。」
さて、ここで重要な事を書きます。
車の車重は決まっているので、移動できる荷重の量も決まっています。
よって当然、kxは無限に増える事はできません。 最大でも車重によって得られる荷重の半分しか移動できませんね。
例えば1200Kgの車ならば、内側から外側へ移動できる荷重の移動量は、最大でも1200Kgf/2で600Kgfとなりますね。
つまり、600Kgf荷重が移動した時点で、それ以上荷重を移動させる事はできなくなる訳です。
よって「これ以上荷重が移動できない横Gになる速度が、車のコーナリング限界速度」と言うのは、一つの綺麗な説明でしょう。
例え、無限にグリップするタイヤを履いていても、これ以上速い速度で曲がるのは、物理的に不可能な訳です。
もしもそれ以上に強い横Gを掛けると、重心はロール軸を中心としたロール運動が出来なくなります。
そこで、それ以上の横Gでは”ひっくり返り運動”になる訳ですがぁ…。
がぁ…、さてさて、皆さん覚えていますか? 大分前に出した問題、車の限界の超え方は2種類あるで出した出題を?
”車はどんな時に「タイヤが滑る限界の超え方」をして、どんな時に「引っ繰り返る限界の超え方」をするのでしょうか??”
でしたね? ちゃんと自分の答えが出ましたか?
だいぶ先になりましたが、ここに書いたものこそが、この問題の私の答えです。
つまり簡単に言うと、「これ以上荷重が移動できない横Gになる程タイヤのグリップが高い時が、車のタイヤが滑る限界の超え方ではなく、引っ繰り返る限界の超え方をする」、です。
どうでしたか? 皆さんも同じでしたか? あるいはもっと綺麗な答えが有るのかな??
とりあえず私の証明、と言うか考えた答えはこれです。
つまり今回の計算より、車の限界コーナリング速度は、タイヤのグリップだけでなく、「重心とロール軸の距離」と、「トレッド」と「ロール角
」で物理的に決まる訳ですね。
式10より、荷重移動量のkxを小さくするためには、T(トレッド)は大きい程良く、それ以外の値は小さいほど良いですよね?
と言う事は、車が持つ物理的なコーナリング限界速度を上げるためには、重心を下げるか、ロール軸を上げるか、トレッドを広げるか、ロール角を小さくするしかない訳です。
これは、どんなにグリップの高いタイヤを履いてもです!!
これを見ると、例えばレーシングカーや世界のスーパーカーがやっている、低重心化、ワイドトレッド化、そしてロール角を小さくするために足廻りを固めているのは、理にかなっていますね。
コーナリング速度を上げるために、今まで漠然と、重心(車高)は低ければ低い方がいいだとか、サスペンションのバネは固い方がいいだとか、オーバーフェンダーを付けて
トレッドを広げるといい
だとか、ロールセンターを補正した方がいいだとか言われていた事は、式10より論理的かつ定量的に正しい事が簡単に判ると思います。
ちなみに私の経験だと足廻り専門のチューニングショップ(つまりプロ)でも、「どうしてトレッドを広げるとコーナリング限界速度が上がるの?」と聞いた時に返ってきた答えは、「人間が立っている時でも、足を閉じて立っているよりも、足を広げて立った方が横に引っ張られても安定するでしょ?
車もそれと同じ。」と言ったもの、定性的なものでした。
それ以上の答えを私は聞いた事が有りませんかね。
でも今回の計算より物理的に言うと、「式10より、トレッドを広げると分子Tが大きくなるので、荷重移動量であるkxが小さくなるから。」と明快な答え方が出来ますね。
だから、今これを読んで理解した皆さんも、既にレベルアップ出来ていると思います。
ちなみに重心についてもロール軸(ロールセンター)についても同じで、式10を見れば簡単に説明できますね。
さて、ちょっと今回は難しいですか?? でも車のコーナリングを考えるためには、運転するにしてもセッティングするにしても非常に重要だと思います。
ゆっくり読めばそれほど難しくないので、ぜひ理解して欲しい項ですかね。
この項はここで終わりにするのも有りかもしれませんがー、
でもまだまだ続きます。
次回は今までの理論を踏まえた、少し実戦的な内容の予定です。 更にコアでディープな世界へ…(笑)。
久しぶりに一つだけ出題して見ましょうか。
ウェット路面などの低μ路では、サスペンションのバネや減衰力を柔らかい方向にセッティングすると思いますが、何故でしょう?
今回の項を参考にしつつ考えてみて下さい。 これがすぐに分かればかなり優秀です。
あそうそう、書く場所が無いのでここに書かせて頂きますが、感想をいただいた方々、有難うございました。
感想をいただいた時が、一番このHPを作っていて良かったなぁーって思う瞬間です。
質問や要望などは、今後に生かして行きたいと思います。(個別に答えられなくてスミマセン)
またまた続く・・・。