図1
どれだけ前輪が縮むかは、重心高やタイヤのグリップなど色々な条件によって変わりますが、仮に今回は1Gの状態から20mm縮むとしましょう。
そうすると、1Gで60mmなので、更に20mm沈んだらフロントはトータルで80mm縮みますね。
よって、フロントタイヤに乗っている車の荷重は、
80mm × 5Kg/mm × 2輪 = 800Kg
ですね。
つまり、荷重が移動してフロントタイヤに800Kgの荷重が掛かり、リアには残りの400Kgの荷重しか掛かっていない事になりますね。
400Kgということは、、、リアのバネは、
400Kg ÷(5Kg/mm × 2輪) = 40mm
なので、40mm縮んでいることになりますね。1Gで60mmだったので、定速時より20mm伸びる事になります。
フロントに800Kg、リアに400Kgの荷重。
これが、良くフロントタイヤだけでブレーキを掛けていると言われる理由でしょう。
確かにこれは好ましくなく、タイヤを太くすると何故グリップが上がるのかに書いた通り、荷重がフロントタイヤの非線形領域に入れば、当然グリップの効率は悪くなります。つまり、ブレーキの限界も低くなりますね。
でわ、次に4輪を沈めるブレーキとはどんな物でしょう。
例えば、フロントを20mm縮めて、リアも同じく20mm縮めると言う事でしょうか?
ちょっとこれも図を書いてみます。図2の様な感じですね。
図2
さて、普通はここでおかしいと思うはずですが、一応計算してみましょうか。
フロントに掛かる荷重は、
80mm × 5Kg/mm × 2輪 = 800Kg
リアに掛かる荷重も同じくして、
80mm × 5Kg/mm × 2輪 = 800Kg
前後の荷重を合わせると、800Kg+800Kg=1600Kg ですね。
あれ?車重が400Kg も増えちゃいましたね!!ブレーキを踏んだときだけ、空から車重が降ってくるんでしょうか?
平地を走っている限り、荷重は車重のみで決まり、そして車重は当たり前だけど常に一定でしたよね?
よって、こんな事は物理的にあり得ません。
荷重はあくまで「移動」であって、「増減」ではないのです。
だから、「荷重移動」と言うわけです。
よって、4輪が沈むブレーキなんてものは、存在しませんね。
存在しないと言う事は、そのようなセッティングは、やろうと思っても不可能だと言う事です。
今回は、フロントとリアの縮む量を同じにしましたが、フロントが多めでリアが少なめでも、4つのバネが1Gの時よりも全部縮む方向へ行くことは、有り得ませんね。
時々、「飛行機のように4輪を沈める」と言う例えも聞きますが、車重と荷重とグリップの関係に書いたように、飛行機は翼でダウンフォースを掛けて、タイヤに荷重を掛けているのです。
車でもしも4輪沈むブレーキが出来るとしたら、ブレーキを踏んだ瞬間だけ、GTウィングがズバッと飛び出て来てダウンフォースを後ろにかける、といったものでしょうか。
もちろん、そんな車は存在しませんね。
しかしながら驚くことに、「4輪を沈めるブレーキ」というのは、意外と“そこそこ”のプロの人が言っていたり、“そこそこ”の自動車雑誌のドラテク記事にも書いてあることが有ります。まあ、イメージで言っているのかもしれませんが、少なくとも正確ではありません。
もしかしたら、言葉通りに受け止める人がいるかもしれません。
自動車と物理に書いたことは、こんなことも理由の一つです。
この話は、自分で物理的に物事を考える力が、いかに必要かが判る例ですね。
しかし実際に、4つのタイヤを効率的に使うブレーキのセッティングというのは存在しますし、その方がブレーキは良く止まります。
それでは次回から、ブレーキについてゆっくり書いていく予定です。
以上