図1 一段目のブレーキング
こんな感じです。
この時のブレーキ踏力は、フロントタイヤのロック限界を遥かに通り越して、リアタイヤのロック限界に行くまでです。
あれ?「ブレーキはフロントの方が遥かに先にロックするから、ガツンと踏むとフロントがロックしてABSが介入して、フロントもリアも緩めてしまうのでは??」と思うと思います。
今までに散々、その様に書いてきましたからねっ。2段ブレーキだって、その為に考えた訳だし。
もちろん、今までに書いてきた事は正しいです。 ただ、今回の高速域からのフルブレーキというシーンだと、今までに最適解だと思っていたブレーキングにも、まだ詰めるスキが有るのです。
では何故、車速が高いと、初期にガツンと踏んだ方が短い距離で止まる事が有るのか、考えてみましょう。
まず車速が高いと何が違うのでしょう??
前に書いた通り、
車と言う機械は回転物だらけなので、スピードを上げれば当然、タイヤ、ホイール、ブレーキローター、その他色々な回転物の回転速度が上がりますよね?
そして質量が有る物が回転すると、角運動量と言う物理量を持つ事になりましたね?
この角運動量と言うのは、車を理解する上で私が最も重要だと考える、キーになる物なのですが、まあここでは詳しい説明は省略します。
タイヤがロックする理由は、とっても簡単に言うとブレーキパッドがローターを挟む力が、タイヤと路面の間の摩擦力に勝つからです。
だから、雪道の様に路面のμ(摩擦)が少ない所では、簡単にロックする訳でしたね。
ただ、高速で回転しているタイヤやホイールをロックさせる、つまり止める時には、路面との摩擦より先に回転物の大きな運動エネルギーに勝たなければいけません。
そして回転している物体を止めるためには、どんなに強い力で止めても、必ず有限の時間が掛かります。
つまり、どんなに強くブレーキを踏んでも、ロックするのには必ず有限の時間が掛かる訳です。
0秒で止める事は物理的に不可能ですからねっ。
更に高回転ともなれば、より長い時間が掛かりますね。
ここにスキが有る訳です。
十分に強い力でブレーキを踏み続ければ、いつかはタイヤがロックします。しかし、この「いつか」が非常に重要となります。
そして市販車では今までに書いてきたとおり、必ずフロントタイヤが先に、「いつか」ロックします。
そしてこれは、ハーフブレーキの項に書いた様に、タイヤの回転数が落ちれば落ちる程、弱い力でロックします
ねぇ。
しかし、わざわざ回転数が落ちた所でロックする様なブレーキングは意味が有りません。
よってこの「いつか」は、ブレーキを踏む、初期に持ってくれば一番良い訳です。
理由は、高速域、つまり高回転で回転している時には、前輪がフルロックするまでの「有限の時間」が、大きくなるからです。
その時間の間に、リアタイヤをロック近くに持って行けば、瞬間的に4輪がハーフロックする、最大の減速力を発生させることが可能なはずです。
つまり、フロントタイヤのロック限界を突き抜けるように強いブレーキを瞬間に踏むことで、フロントタイヤがロックするまでの短い時間に、リアタイヤをロックに近い所まで持って行き、大きな仕事をさせるのです。
ただ、本当に短い時間なので、フロントタイヤはすぐにロックしてしまい、そうなるとABSが介入したり、ABSが付いていなければ、フロントタイヤがフルロックしてスパーンと滑ってしまいます。
これは瞬間的に現れる、穴みたいなものです。
もちろん、ABSが介入したり、前輪がフルロックしている時にブレーキペダルをまだ踏んでいてはダメです。 そうなると、ただロックして止まらないだけですから。
このブレーキングのコツは、絶対にブレーキペダルを「踏んで戻す」をワンアクションでやる事です。
フロントタイヤがロックしようがしまいが、必ず戻す事をワンアクションにしないとダメです。
フロントタイヤがロックしたと気づいてから戻しては、完全に手遅れです。
ブレーキを戻してから、「あれ?ロックしてなかった。」と思っても、その時はその時です(笑)。
次のブレーキングで、もっと強く踏んでみれば良いだけで、必ず抜くのをワンアクションにしてください。
何故なら、高速域でのフルロックは遅いだけでなく、非常に危険だからです。
このブレーキングは、ABSが介入するまでの穴を使うような技術なので、すぐにペダルを戻してタイヤを転がしてやらないと、車が左右にフラついたりスピン挙動になる事が有ります。
更に本当にフルロックすると、全く止まりませんし、初級者は止まらないからブレーキを緩めるという操作を、短時間で行う事が難しいからです。
また、スピン挙動になった時にも緩めるのが遅れる事が有るでしょう。
前に書きましたが、私はABSの付いた車で(まあS2000なんですが)高速域からのフルブレーキングでエンストした事が有ります。
もちろん、車はまだかなりスピードが出ている状態で、です。
つまり、この技術がドンピシャ決まり過ぎて、更にブレーキを緩めるタイミングが遅かったため、フロントタイヤとリアタイヤがほぼ同時にフルロックしてしまい、ABSが車が停止していると判断した訳です。
これにはアセりました。ABSが付いている限り、フルロックによるエンスト何てないと思っていたので、何が起きたのか把握するのにちょっと考えました…。
まあその時は、ブレーキを緩めてタイヤを回して、エンジンを押し掛け状態にして、丁寧にブレーキを踏んで曲がれるスピードまで落とせましたが、こんなおっかない経験はしない方が良いでしょう。
S2000のABSはそれほど設計は古くないし、出来が悪い事も有りませんが、それでもこのような事は起こりえます。
ABSが付いていない車ならば、なおさらですね。
よって、しつこいようですが、「踏んで緩める」をワンアクションにするようにしてください。
逆に上手くできるようになってくると、この一発目のブレーキでフロントタイヤだけでなく、リアタイヤも鳴く様になってきます。
これは、4輪で止めている証拠ですね。
特にこの瞬間は、まだフロントのバネが沈む前なので、車が前荷重になっておらず、リアタイヤの制動力はかなり大きいです。
このほんの一瞬だけ現れる、小さな穴の様な瞬間を、大切に使ってみて下さい。
さて、1段目のブレーキの説明はこんな感じで、2段目と3段目のブレーキは、2段ブレーキと基本的に同じです。
1発目のブレーキを抜いたらキッチリとタイヤを転がして、次に更に減速するために前荷重を作るブレーキと、減速のためのブレーキを踏むだけです。
3段ブレーキは、
このようにブレーキを3つに分けるイメージです。
3段ブレーキの正体は、これだけです。
ちょっとブレーキの踏み方のイメージ図を書いてみましょうか。
図2 3段ブレーキの踏み方のイメージ
このブレーキングでちょっと難しいのは、2段目のブレーキですかね。
もしも1段目のブレーキの後に、ずっと前荷重を保てていれば、2段目のブレーキは殆ど踏まなくて良いでしょう。
ただ、1段目のブレーキの後にタイヤを転がす時に、前荷重が戻り勝ちなので、基本的にはもう一度前荷重を作った方が良いでしょう。
ちなみにこの2段目ブレーキの踏み方は、車のレイアウトなどによって大きく変わります
例えば、フロントの重いFF車などは前荷重を保つのが楽だから、2段目は殆ど踏まなくて良かったり、フロントミッドシップやリアミッドシップの様な後ろが重い車では、キッチリ前荷重を掛けるために、ある程度踏んだ方が良い、といった具合です。
他にも
もちろん、ダンパーの減衰力などの特性も効いてきます。
まあ極めると、1段目のブレーキの後にタイヤをハーフロック状態で転がして、2段目に連続的に繋げる何て事も出来るんですが、始めはキッチリと1段目と2段目を分けた方が良いでしょう。
まずは意識して、3つに分ける事が大切です。
最後に、練習のための注意と言うか、コツを書いておきます。
一つ目は、「リアのブレーキのエア抜きを頻繁に行う事」です。
1段目のブレーキは、非常に短い瞬間しか使えないので、リアブレーキにエアが噛んでいたりすると、リアタイヤをロックさせるのはほぼ不可能です。
リアのエア噛みは意外と気づかないので、頻繁にチェックしてみて下さい。
次に、「始めは上りの道では、やらない方が良い」でしょう。
何故なら、難しいからです。
これについてはまた後で詳しく書くつもりですが、まずは平地か、なだらかな下りで練習するのが優しくて良いでしょう。
上りは結構危ないので、平地で出来る様になってからにするのが良いと思います。
また、速度域によっては1段目の「ブレーキの穴」が殆ど無く、3つに分けると無駄になる事もあるので、自分の車ではどの速度から有効かを試してみる事をお勧めします。
あと、古いABSが付いている車だと、極端に難しいかもしれません…。
高速域からのフルブレーキングと言えば、スポーツ走行において最も技術の差が出る難しい所です。
究極かどうかは置いておいて(笑)、3段ブレーキも
マスターすれば、これまた強力な武器になるでしょう。