禁断のトーイン その1


さてさて、いよいよ今回はアライメント調整編です。
アライメントの変更点については、前から一つだけ決めていた事が有りました。
今回はそのお話をしてみたいと思います。


時は遡り…、
以前山で、プチオフ会をやった時に、初期型(120系)の、あるS2000を運転させていただく機会が有りました。
足は純正ではなく車高は下がっていましたが、それ以外はフルノーマルの車でした。
ただ運転した感覚では、その車はリアタイヤが超トーインで(恐らくです。 オーナーさんは、アライメント値は知らないと言っていました。)、その動きは私に記憶のかなたに忘れかけていた、初期型S2000特有のハンドリングを思い出させてしまったのです。

今まで何度も書いた通り、初期型S2000はバンプ・トー・インが異様に大きく、それがピーキーさの原因の一つとなっています。

考えてみれば、私はそれを解消するために、コントロールしやすいアライメントに書いた様に、リアのトーはずっとかなり小さいままにしていました。
そしてそれが、結果的に普通のFRっぽい素直なハンドリングを生んでいたのですがぁ…。

しかしこのトーインと言うのは、いわば両刃の剣です。
ピーキーでコントロールが難しい代りに、一たび使いこなせば強烈な武器になるし、何よりも運転していて非常に楽しい物だと改めて感じました。
S2000を始めて運転した時の感動。 S2000がどのハコ車にも無い、唯一無二のハンドリング特性を持つ車である事を思い出してしまいました。

ちょっと詳しく書くと、車がロールして荷重が外に行き、徐々に外側のバネが沈むに従って、リアのトーが思いっきり入って行き、S2000の超低ヨーのパッケージングと相まって、あたかもフロントタイヤではなく、リアタイヤがヨーを作っているかのようなフィーリング。
ハンドルの舵角が一定にもかかわらず、スピードを上げるにつれてより小さな円をグリップで描こうとするような、本来の意味でのオーバーステアなフィーリングのコーナリング。
それはランエボのAYCとも違う、まるでレーシングカートを運転しているかのような、不思議な感覚でした。


つまり極端に言えばー、初期型S2000は、ほぼセンターステアで、リアタイヤを滑らさない完全なグリップ走行でコーナリング出来る、(私の知る限り)唯一のハコ車です。
いわゆるゼロカウンタードリフトでもない、(ほぼ)センターステアでのコーナリングです。
これこそ、私が初期型S2000は公道を走れるカートだと感じる最大の理由です。

そんな素晴らしい素性を持っていた車でしたが、、、
自分の技術が未熟だったために、今までそれを、普通のFR車っぽいハンドリングの方向にセッティングしていたわけです。
それがこの時他人の車を運転させてもらって、始めて「なんだかなー」と思ってしまったのです。

まあ前にも書きましたが、まずはFRを振り回す運転が出来るようなるために、このセッティングは確信的にやっていたんですけどね。
そんな事を、超トーインの車は思い出させてくれました。
そしてそろそろ、本来のS2000のハンドリングをコントロール出来るようになったかな?と思ったので、自分の車もトーを入れてみようと考えた訳です。


ただ、ここで気を付けないといけないのは、トーインにすればどの車(初期型S2000)でも、このようなリアタイヤがヨーを作る、センターステアに近い状態で曲がるようなフィーリングにはならないと言う事です。
あくまでフルノーマルの足廻りではそうなると言う意味で、ロールして、リアの外側のバネがキッチリとストロークして沈む様な車で有る必要が有るでしょう。
外側のバネが縮めば内側のバネは伸びますから、イン側のタイヤはトーアウトの方向に行きますからね。

バンプ・トー・インが大きいと言う事は、イン側タイヤのリバンプ・トー・アウトも、相対的に大きいと言う事ですね。
よって外側のタイヤはよりイン側を向き、内側のタイヤも直進時よりもイン側に向く、同位相の4WSの様になる事で、このようなハンドリングが生まれるのでしょう。

つまり、横Gが掛かると、外のバネが縮み、そうするとリアの外輪のトーがインに向き、内のバネは伸びるので内輪もインを向く。
そうなると、定速ならばより小さく曲がろうとして、つまり小さなRを描く様なラインとなり、遠心力が多きくなるから更に大きな横Gとなり、それにより更に外のバネが縮んでトーが入り、より大きな横Gを生む…、、と言ったスパイラルですね。


この、ストロークに対してトー変化が大きい車と言うのは、一般にネガのイメージが強く、メーカーでも避けるような設計をするようですが (ある量以上トーが入らないようにロックしたり)、私はこれはハコ車でカートの様なハンドリングを実現するための、ホンダの出した一つの答えなのではないかと思っています。

しかしこれは、ストロークが極端に少ない車だと、全く違う特性になる事もあります。

続く…。


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