「車重」と「荷重」は全く別物


さて、本題?に入る前に、ちょっと車重と荷重のお話をしておきます。
荷重は無限に掛かるのか?に書いた様に、コーナリングを考える上で荷重のコントロールは非常に重要です。
今でも結構この、「車重と荷重」を混同している人がいるので、出来る限りわかり安くその違いについて説明してみますね。

まず車重とは、車の質量の事です。 4輪が沈むブレーキは可能なのか?に書いた様に、質量とは物体固有の物理量です。
これはこの宇宙にある限り、変化する事は有りません。
つまり、例えば車重1200Kgの車は、どこに行っても1200Kgで変わりません。
これは例え、月に行ってもです。

次に荷重についてです。
荷重とは、車のタイヤが路面を押し付ける力の事です。 よって荷重とは、重さの事では無く力の事です。

空力を無視すると、平らな地上において得られる車の荷重は、全て車の車重に掛かる重力によって得られるものです。
例えば車重1200Kgの車ならば、地上では4つのタイヤの荷重の合計は、常に1200Kgfになります。
1[Kgf]
9.8[N]の事なので、力の単位だと言う事が判りますね。

しかし例えば、この車を月に持っていったらどうなるでしょう?
月の重力は地球の1/6だから、1200Kgの車がタイヤにかけられる荷重は1200×1/6=200Kgfとなりますね。
つまり月では、200Kgfの荷重しかかける事が出来ません。
いいですね? 車重は変わりませんが、荷重は例えば重力によって変わったりするのです。

何度も言いますが、平地で空力を無視する限り、車重から得られる以上の荷重を与える事はできません。
つまり、4つのタイヤの荷重の合計は常に同じなのです。

荷重移動とは簡単に言うと、この限られた1200Kgfと言う荷重を、いかに4つのタイヤに分配してやるか、と言う事です。
そして運転中に荷重を移動させる方法はただ一つ、車に加速度、つまりGを与える事です。

減速して前にGを与えれば、前に掛かる荷重が増え、加速して後ろにGを与えれば後ろに掛かる荷重が増え、右に曲がれば遠心力が左に発生してGが与えられて左の荷重が増え、同様に左に曲がれば右の荷重が増える。
と、たったのこれだけです。 簡単ですね?

そして上記の様に、荷重の合計はいつも同じなので、どこかが増えればどこかが減っている事になります。
つまり、タイヤを路面に押し付ける「力」である荷重が、あたかも移動しているように見えます。
これが荷重移動ですね。 当然、車重移動はできません(笑)。
(ま、厳密には車が走ればガソリンが減ったりして車重も微妙に変わりますが。)

さて、荷重を移動させる方法は唯一、Gを与える事だけだと言いましたが、これは運転中(走行中)の話です。
しかし、車のセッティングによって4つのタイヤに掛かる、荷重の配分を変える事が可能です。
では、静止している車の荷重を移動する方法を考えてみましょうか。
さて、どうすればいいでしょう??
車は静止しているので、当然G、つまり加速度は使えません。
もう分かりましたね? まあ有名な方法ですが、例えば車高調整式サスペンションなどで、車高を前だけ下げたり、後ろだけ下げたり、左右のどちらかだけ下げたりすれば、静止した状態で、4つのタイヤに掛かる荷重の配分を変える事が出来ますね?
これは車の加速度、Gではなく、重力を使った荷重の移動方法です。

これを踏まえて、一つ出題。
良く車高を前下がりにセッティングすると、良く曲がる様になると言いますよね?(正確には、コーナリング中のフロントの限界が上がる。)
これは、車高を前下がりにする事で、前輪の荷重配分を増やす事が出来、その結果前輪のグリップが上がるからですね。

では他の前輪の荷重を増やす方法として、車高は変えずにオモリを前のバンパーの中にでも付けたとしましょうか。
これも同様に前輪の荷重が増えるはずです。 仮に、前下がりにした時と同じ荷重が掛かったとしましょうか。
では、始めの前下がりの車と同じ様に、フロントの限界が上がり、良く曲がる(コーナリング中の限界が上がる)効果が得られるでしょうか?
理由も含めて考えてみて下さい。

さて、これが理由も含めて一発でわかれば、今までの項を理解できていますね。
それでは答えです。
注意しないといけないのは、車重が前下がりの車では車重は変わっていませんが、オモリを付けた車では、車重が変わっている事です。
つまり、オモリを付けた車は、前部の車重を増やす事で前輪の荷重を増やしているのです。

そして、タイヤの項で何度も書いた様に、荷重が増えてもタイヤのグリップは直線的には上がりません。
しかし、コーナリング中の遠心力は、質量が増えると、直線的に増えます。
だから前を重くすると、フロントタイヤのグリップの上がり具合よりも、フロントに掛かる遠心力の上がり具合の方が勝ってしまうのです。
よって、オモリを付けた車は、タイヤの荷重が増えて前輪のグリップ増えますが、それ以上にフロントに掛かるコーナリング中の遠心力の方が増えるので、フロントの限界は下がる事になります。
簡単に言うと、曲がりにくくなります。

それに対し、車高を前下がりにした車では、車重は変わりませんね。
フロントの重さも当然変わりません。 ただ、フロントタイヤに掛かる荷重だけが増えます。
そうすると、コーナリング中のフロントに掛かる遠心力は変わらずに、荷重が上がる事でフロントタイヤのグリップだけが上がります。
よって、コーナリング中のフロントの限界が上がる事になります。
つまり、良く曲がるようになりますね。

とまあ、 とっても簡単に言うと、こんな感じです。
どうですか?答えは合ってましたか??

今回はフロントの話をしましたが、リアについても全く同じです。
良くリアに荷重を掛けた方がトラクションが上がるなどと言って、トランクに荷物を載せたりする人も居るようですが、この場合あくまで縦方向(前後方向)のトラクションが上がるだけだと考えた方が良いでしょう。
コーナリング中の遠心力に対抗する力は、上記のとおり重さによる遠心力の増加の効果の方が勝ってしまって、リアが横に滑る限界は下がる事になります。

これは、ミッドシップエンジンやリアエンジン等の、重いエンジンを後ろに載せている車でも同じ事です。
その証拠に、これらの後ろにエンジンが有る車は後部が大きな遠心力を受ける事になり、下がったリアの限界を補うために、リアタイヤの方を太くしている事が多いと思います。
もしもリアが重い事によるリアの荷重の増加=グリップの増加の効果の方が、遠心力増加の効果よりも大きいのならば、前後のバランスを考て、リアタイヤはむしろフロントよりも細くするはずですね。
(縦方向のグリップを無視すればですが)

この辺は意外と理解しているつもりで、あやふやだったりする事が多いと思います。

ちなみにF1やレーシングカー等は、空力でとんでもないダウンフォースが掛かるので、車重は軽くても荷重はとんでもなく大きくなります。
空力の話が入ると全てが変わってしまうので、ここでは以後もとりあえず空力は考慮しない事にします。

でわ 次回からは、本題に入る予定です。


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