タイヤを太くすると、何故グリップの線形領域が増えるのか その2


 
さて、今度こそ本題に入りましょう。

タイヤの接地面積を増やすと、どうして高荷重時にもグリップが直線的に増えてくれるのか。

これは、よく路面を観察して見ればそれほど難しくはないと思います。
そもそもアスファルト舗装というのは、どの様な仕組みになっているのでしょう?
しゃがんでよく見てみてください。



アスファルト路面は乱暴に言うと、砂利を石油から取られたネバネバの成分で固めたものなのです。
実際に近くで見ると表面は砂利で凸凹が有りますよね?

その上をタイヤで踏むと、タイヤとその凸凹との間で摩擦力が生じるわけです。
これを車の世界では“グリップ”と呼んでいますね。

その接地している表面を拡大して見てみましょう。
まず一切荷重を掛けずにタイヤを接地させたなら、図1のようになっているはずですね。




図1 タイヤとアスファルトの無荷重での接地

これでも摩擦力は発生しますが、その力は粒子同士のレベルで噛み合っているだけで小さそうです。

では次に荷重を掛けてみましょう。
図2の様にアスファルトの凸凹が柔らかいゴムに喰い込むはずです。




図2 タイヤに荷重を掛けた状態での接地

こうなるとアスファルトの凸凹がスパイクのようにタイヤのゴムに引っかかって、大きな摩擦力を生みそうですよね?
そして更に荷重を増やせば、更に深く凸凹が食い込んで、摩擦力も荷重に比例するように増加するでしょう。
ここまではいいですね?

さて、では荷重を増やし続けて図3の状態になったらどうでしょうか? 




図3 砂利の凹凸が根元まで喰い込んでいる状態での接地

凸凹の高さなんてたかが数ミリ程度でしょうから、いつか凹の底までタイヤのゴムが達してしまうでしょうねえ。
ではそこから更に荷重を増やしていくと、今までと同じペースで摩擦力も増えていくでしょうか??

これはスパイクシューズで言うなら、根元まで地面に刺さってしまっている状態なので、いくら押し付けてもこれ以上深く刺すことは出来ません。
もちろん押し付ける力だけでも多少は摩擦力が上がるでしょう。
ですが、今までのように摩擦力が直線的には増えてくれなくなるのです。

ではここから更に大きな荷重を与えても、摩擦力が直線的に増えるようにするためにはどうしたら良いでしょうか?
簡単ですね。 今度は接地面積を増やせば良いのです。
接地面積が増えれば単位面積当たりの荷重が減るため、同じ荷重を与えても凸凹の喰い込みが浅くなります。
では摩擦力が落ちているのかと言えばさにあらず、喰い込みが浅い分たくさんの砂利が食い込んでいるのですから、これらが相殺されてほぼ同じ摩擦力になる、というわけです。

でもこれはアモントン=クーロンの法則に無理に近づける理屈で、実際には接地面積を増やすと同じどころか摩擦力は少し上がるようですね。 そう、皆さんの経験則の通りです。
そして同じ荷重時に喰い込みを浅く出来たのですから、これから先の荷重の増加にもまだ摩擦力に伸び代が有るのですよ。 つまりグリップの荷重に対する線形領域が増えたのです。
そしてそれでまた凹の底まで喰い込むほどの大きな荷重がかかるのなら、更に接地面積を増やせば良いでしょう。


これが、タイヤの接地面積を増やすと、高荷重に対する線形領域が増える理由であり、昨今のスポーツカーは昔と比べて車重が増える傾向(もしくはダウンフォースが大きく掛かる)になっているため、タイヤのサイズ(接地面積)を大きくしているのでしょう。

逆に言えば、まだ路面の凸凹が根元まで喰い込んでいないのにタイヤをサイズアップして接地面積を増やすのは、無駄がある可能性が有るのです。 それはサイズアップにはデメリットも有るからです。

主なデメリットは今までに動画でも何度も言ってきた、バネ下のイナーシャ(慣性モーメント)が増えることや、空気抵抗なども若干増えることでしょう。
よって必要以上にサイズアップをすると角運動量保存則により車体が加速しにくくなったり、曲がりにくくもなるでしょう。
当然タイヤのイナーシャが増えればブレーキシステムの負荷も増えます。

タイヤのサイズアップと運動性能はこの様なトレード・オフの関係になるので、高荷重がかからない車ではサイズアップは慎重にしないと、殆ど効果がなくデメリットばかりが目立ち、逆にタイムが落ちてしまうことがあるのです。
だからタイヤサイズが大きければ大きいほど良いというわけでなく、線形領域を保てるギリギリのサイズが一つの最適解だという話をシンプルに分かりやすく書いたものが、タイヤを太くすると何故グリップが上がるのか?に書いたお話なのです。

 
上記の理屈で説明すれば、、、
ソフトコンパウンドのタイヤがグリップが高いのは路面の凸凹がゴムに喰い込みやすいからだし、タイヤが暖まるとグリップが上がるのは、熱でタイヤのコンパウンド(ゴム)が柔らかくなるからです。
サイズが大きく接地面積が広いタイヤのライフが外形比以上に長いのは、同じグリップを出していても凸凹の喰い込みが浅いためにゴムが削られにくいからでしょう。

またコンクリート路面がアスファルト路面に比べてμが落ちるのは、コンクリートは砂利よりも細かい粒子で固められているため凸凹の高さが低く、タイヤに深く喰い込めないからでしょう。
 

以上です。

これは私が考えたオリジナルの説明ですが、大体これで、実際に起きている現象が説明できると思います。
参考にしたい方は、タイヤサイズ選びの参考にしてみて下さいね。
 
もちろん、自動車のタイヤの世界にもアモントン=クーロンの法則を持ち込んで、それを盲信するのもあなたの自由です……。


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