四輪駆動車のトラクションステア
実は四輪駆動車ではじめて電子制御を使った
トラクションステアを与えられたのは、R35GT-Rではなく、ランエボWだと言われています。(R35GT-Rの開発者本人による、トラクションステアの
解説動画はこちら)
ランエボWは、
曲げるための三菱のアプローチにも書きましたが、いち早くデフに電子制御を導入したモデルです。
いわゆるAYCですね。
AYCというと、曲がりにくい四駆にリアデフがヨーを付けることで曲がりやすくする程度の認識だと思いますが、実際はそんなに単純な話ではないと思われます。
三菱自動車はフロントヘビーなランエボの特性を十分理解していて、AYCはアクセルを踏んで曲げるために、実は
図1の姿勢を自動的に作ることを目的としていると考えています。
そして実際に運転しているとそう感じます。
フロントヘビーレイアウトの車体ならば、
後ろに荷重移動した状態で曲げてやると最も速く曲がれるということが、WRCの経験などからきっと三菱はわかっていたのでしょう。
図1 四輪駆動車に掛かる遠心力
実際に初期の頃のAYCはアクセルオン時にしか効きませんでしたし、
エボZ試乗記に書いた通り、ACDもブレーキを残す運転をすると全く曲がりにくくなりました。
つまり三菱のスタンスとして、フロントヘビーのこの車は、前後荷重バランスを良くするために
コーナリング中はアクセルオンで曲げることが基本ということなのでしょう。
でも
当然姿勢を作らずにアクセルオンにすればまっすぐにアンダーステアになりますよね。
よってそうならないためと、前後に掛かる遠心力バランスまで考慮し、自動で
図1に近い姿勢を作るためのAYCだったのではないかと考えています。
実際にAYCが与えられたランエボはアンダーステアが殆ど消え、一皮むけた速さを手に入れていました。
良くインプレッサはレイアウトの良さやメカ的な手法で良く曲がる四駆を目指しているのに対し、レイアウトに限界を感じたランエボは電子制御に頼ることで曲がるようにしたなどと言っているその筋の方も居ますが、それほど単純な話ではありません。
三菱はランエボのネガな部分を電子制御で補ったと言うより、フロントヘビーレイアウト特性に合わせた、その物理的特性を活かす方向の電子制御を取り入れただけなのです。 両車のレイアウトや物理的素性に優劣が有るとは一概には言えません。
それこそ走らせ方次第です。
もしもインプレッサにAYCを入れたところでランエボ程は速くはならないでしょう。 これはフロントヘビーだからこそ出せる速さなのです。 まあこれについては、
四輪駆動車の最大グリップの出し方
で述べた通り。
ですがこの頃のAYCはあくまで完全なグリップ走行が基本です。 よってこれをトラクションステアと呼ぶべきかどうかは意見が別れるところでしょうね。(それでも少なくとも車体を内側に向けることで、前後の荷重バランスを均等に近づけるという発想から来たものであったはずです)
どちらにせよ、96年にそれをやってくるとは目の付け所がさすがに三菱と言った感じですね。
そしてコーナリング中はアクセルを踏んで曲げるという特性と運転方法は、
エボ\まで変わることはありません。
(恐らくエボ]も同じ。これが出来ないと“エボ使い”にはなれないでしょう)
さて、では次のステップに行きましょうか。
もしもこの電子制御のAYCが作ってくれる姿勢(プラスアルファ)が人力で出来たらどうでしょうか?
もしそれが出来れば、
全ての四輪駆動車で可能なはずですね。
そしてそこで
トラクションステアを起こしたらどうでしょうか?
実はそのためにドライバーが作る必要がある姿勢こそが
図1なのです。
いいですか?
1,
この姿勢自体は、エンジンの重量から来る前後荷重バランスと遠心力を考慮した姿勢として、ベストでした。
2,
そしてその姿勢をAYC無しで維持するためには、リアタイヤが少し滑っていて、アクセルオンでトラクションステアを起こしている状態でないと不可能なのです。(中谷選手がAYC無しの
ランエボRSでやっている通り)
その状態でのコーナリング時には斜め前方向に加速Gが発生しているために、
荷重は後ろにも移動していて前後の荷重が均等に近づきます。
つまりタイヤのグリップの
線形領域を四輪で使って、しかも少しホイールスピンしているため四輪全てで
グリップの向こう側の、静止摩擦係数
μより高いグリップを使ってのトラクションステア状態です。
これは遠心力を考慮した重量バランス的にも、タイヤのグリップ的にも最大のコーナリング速度が出せる、最適解なのです。
これについて、中谷選手が
筑波サーキットの最終コーナーで“四輪駆動車として理想的な姿勢”という一言で終わらせていますが、これくらい詳しく解説してくれると助かりますよね(笑)。
そして、
エボZ試乗記にも書きましたが、ランエボでブレーキを残す運転をして「曲がらない」と言っている多くのプロドライバー達は、色んな意味で何もかも間違っているのです。
(需要があるかどうかは分かりませんが、その話も載せておきましょう。 中谷選手による
ランエボZ以降の運転方法の話)
続く……。
Back
Top