図1 フロントエンジンのモデル
この実験は、車が円周上を回っていて、遠心力に対抗するタイヤのグリップ(向心力)が限界を向かえて滑り出す、回転スピードを測る物です。
定常円を完全にグリップ走行で走っているモデル、とすると、前輪が舵を切っていたり、駆動輪に駆動が掛かっている必要が有り、ややこしくなり本質を見失います。
よって、ここでは図1のような、大きなアスファルトの円盤の上に車を止めて乗せて、円盤を回転させるとします。
この、円周上を車を走らせるのではなく、逆に車を止めて円盤を回すという実験モデルは、より車の重要配分による素の物理特性を見るために、私が考えたものです。
では、少しずつ円盤の回転スピードを上げていき、遠心力で限界を超えてタイヤが滑る、円盤の回転スピードを考えてみます。
まず、図1です。
これは、フロントにエンジンを搭載する車のモデルです。青い四角がエンジンです。ベクトルの長さは、遠心力の大きさを指します。
車の各部に掛かる遠心力は、円盤の回転数、つまり角速度をωとすると、自動車に必要な物理学より、
遠心力=mrω2
でしたね。
今回は円盤を回すモデルなので、角速度ωから速度vに変換せずに、このまま角速度ωを使用します。
さて、
この式より、円盤の回転数ωと中心からの距離rが同じであれば、mが大きいほど車に大きな遠心力が掛かる事になります。
フロントエンジンの車では、質量mが大きいのは、エンジンが搭載されてる前の場所ですね。
そして、「タイヤを太くすると何故グリップが上がるのか」に書いた通り、タイヤの摩擦力(グリップ)は基本的にμmgでしたが、実際には荷重が増えると式の通りでなく、非線形でしたね?
タイヤの話は、これらの話のために始めに書いておいたのです。
つまり、「車重と荷重とグリップの関係」に書いた通り、mにより大きくなった遠心力と、mにより大きくなったグリップでは、相殺されてプラスマイナス0にはならず、遠心力の方が必ず勝ってしまいます。
よってフロントエンジンの車では、図1の様にリアよりもフロントの遠心力の方がはるかに大きくなるので、下の図2の様にフロントタイヤが先に限界を超えて、滑り出します。
図2 フロントエンジン車の滑り方
まあ、当たり前ですね。
これが、フロントエンジンの車の基本特性です。
実に簡単ですね。
そして図1を見れば、同じフロントエンジンでも、車体の先に搭載されていればいるほど、円盤の中心からエンジンまでの距離rが大きくなるので、遠心力が大きく、つまり円盤が低回転で
フロントタイヤが滑り出すことが分かると思います。
逆にエンジンを、ホイールベースの中心に近い場所(点線の円周上に近い場所)に搭載すれば、限界回転数は高くなることも分かると思います。
具体的には、フロントの車軸よりも前にエンジンを搭載する、FFの様な搭載の仕方よりも、エンジンがホイールベース内に入っている、フロントミッドシップ(正確には、FRビハインドアクスル・レイアウト。アクスルは、車軸と言う意味で、エンジンがフロントの車軸の後ろにあると言う意味です。長いので、以下フロントミッドシップと呼びます)の方が、滑り出す限界回転数が、大きいことになります。
次に、ミッドシップエンジンや、ポルシェ911シリーズなどのリアエンジンについて考えてみましょう。
図3 ミッドシップエンジンのモデル
まあ、考えるまでもなく、フロントエンジンとは前後が逆になるだけで、同じことですね。
リアの重量mが重くなるので、今度は先に後ろのタイヤが限界を超えて滑り出し
ます。下の図4の様になりますね。
図4 ミッドシップエンジンの滑り方
これが、後ろにエンジンが有る車の基本特性です。
そして同じく図3を見れば分かる通り、ホイールベースの真中から遠いほど、円盤の中心からエンジンまでの距離rが大きくなるので、大きな遠心力を受け、円盤の回転数が低回転で滑り出すことになりますね。
具体的には、MRよりも、RRの方が限界回転数が低いといった感じですね。
非常に単純で簡単な話ですね。
つまり、FRのように前にエンジンが搭載されていようが、MRのように後ろに搭載されていようが、前後が入れ替わるだけで、遠心力に耐えきれずにタイヤが滑りだす、円盤の限界回転数は変わらないという事です。
では、タイヤが滑りだす円盤の回転数が、一番高いのはどこにエンジンを搭載した時でしょうか?
何度も出てきますが、遠心力は
F=mrω2
でしたね。
もう一度言いますが、ωは、円盤の回転数、mはエンジンの重量なので変える事は出来ません。
つまり、円の中心からの距離rが一番小さくなる所にエンジンを搭載すれば良いわけです。
図1や図3を見れば一目瞭然ですね。
その位置とは、下の図5の様なホイールベースのど真ん中です。
図5 真中にエンジンが有るモデル
このようにすれば、前輪と後輪が同時に限界を迎え、同時に滑り出すわけです。
前輪と後輪に均等に荷重が乗り、同じ遠心力が掛かれば、滑り出す円盤の回転数が最も高くなるはずですね。
ただ、ホイールベースの真中にエンジンを搭載する際に一番邪魔になるのは、変な話、ドライバーのスペースって事になっちゃいますね。
無人の車をリモートコントロールで運転するなら可能でしょうが。
よって、市販車でそれを実現することは不可能に近いでしょう。
つまり、ミッドシップエンジンレイアウトだからという理由だけで、大きな遠心力に対抗できる、つまりコーナリングの限界速度が高いというのは、神話だと言う事が判ると思います。
何故なら、市販車のミッドシップエンジン車の殆どは、エンジンが横置きの上、ドライバーのスペースを確保するために、ギリギリ後ろの車軸手前に搭載されている物が多いからです。
(図3のイメージです)
また
良くMRやRRなど、後ろにエンジンが搭載されている車はトラクションが大きいと言いますが、それはあくまで縦方向の話で、横方向のタイヤが滑る限界は、フロントエンジンと変わらない、もしくは、
下の図6の様な、縦置きのフロントミッドシップエンジンには負ける事も有ると言う事が、この円盤の上に乗せた実験モデルから分かるはずです。
実際にそれを補うために、後ろにエンジンを搭載する車は、フロントと比べてリアタイヤが太くなっている車が多いですね。
図6 縦置きのフロントミッドシップエンジンのモデル
図3と図6を見比べてみれば、どちらがホイールベースの真中近くに、重心が有るのかが分かりますね。
さて、今回の実験モデルの分かりやすいところは、「車は動いていない」という事です。
良く摩擦円を例に出して、FFは駆動輪が縦方向にグリップを使ってしまい、横方向のグリップが減るため、フロントの滑る限界が低く、アンダーステアになるという説明などを見ますが、この例ではどのタイヤも駆動していないので、縦方向のグリップを考える必要は有りません。
純粋に、エンジンの搭載位置による重量バランスだけから、例えばFF車は先にフロントタイヤが滑る特性を持っている、という説明が出来るのです。
今回の話は、エンジン搭載位置による車のコーナリング特性を考えるために、非常に重要です。
ここから先に進むために、是非覚えておくと良いと思います。
さて、それではエンジン搭載位置による素のコーナリング特性が分かったところで、次に、それぞれのエンジン搭載位置ごとに、最大のコーナリング速度(コーナリングフォース)を出す方法を考えてみましょう。
それほど難しくないと思うので、皆さんも考えてみてください(笑)。
続く・・・