エンジン搭載位置別の、最大グリップの出し方


さてさて、それでは続きです。 答えは出ましたか??
今回も同じく、車は止まっていて円盤が回っている実験モデルとします。

もう一回、フロントエンジンの図を書いてみますね。



図1 フロントエンジン車のモデル

このように車を置くと、フロントタイヤが先に滑り出しましたね。
「それ じゃあ、基本特性だからしょうがない」、と諦める前に、円盤の回転数をもっと上げた所でタイヤが滑りだす方法を考えてみましょう。
前項と、タイヤの項に書いたことを理解すれば、タイヤが滑りだす円盤の回転数を上げるためには、4輪が同時に滑り出すようにすれば良いという事が分かりますね。

この時に、例えばフロントエンジンならば、極端に前下がりの車高にすれば良いのでわ?と考える人がいるかもしれません。
確かにそうすれば、フロントタイヤの摩擦力は上がりますね。
が、もしそれで4輪が同時に滑り出したとしても、おそらくフロントタイヤが極端にタイヤの線形領域から外れていると思われるので、タイヤが滑り始める円盤の回転数は、おそらく殆ど上がらないでしょう。
ちょっと数式はカットしますが、これはどちらかと言うと、リアの荷重を極端に低下をさせて、結果リアのグリップを下げて4輪が同時に滑るイメージですね。
よって、ここでは、確実に円盤の回転数を上げられる方法を考えてみます。

遠心力の式、
F=mrω2
をじっと眺めると、答えが分かって来ると思います。

つまり、重たいエンジンの部分の、円盤の中心からの距離rを短くしてしまえばいいのです。
簡単に言えば、車を円周に対して斜めに置くのです。
そうすれば、重い前の部分のrが小さくなり、軽い後ろの部分のrが大きくなりますね。
次の 図2の様になります。

図2 フロントエンジン車の、姿勢を変えて置いたモデル

このようにすれば、前の遠心力は小さくなり、後ろの遠心力は大きくなります。
よって、フロントタイヤが先に滑り出す特性を変えることも可能となりますね。
滑り方は、次の図3の様な感じです。

図3 フロントエンジン車の、姿勢を変えて置いた時の滑り方

これは綺麗に4輪が同時に滑った状態です。このようになるために、図2の様に車を傾けて置いたわけです。
この始めの図2の車の置き方。
私はこれを、「車の姿勢」と呼んでいます。


ミッドシップエンジンやリアエンジンなどの後ろにエンジンが搭載されている車では、姿勢が逆になるだけで、置き方も滑り方も全く同じですね。
次の 図4、図5の様になります。

図4 ミッドシップエンジン車の、姿勢を変えて置いたモデル

図5 ミッドシップエンジン車の、姿勢を変えて置いた時の滑り方

物理的には、このような解が考えられますね。
何だか当たり前の様な気がしますが、これが、エンジン搭載位置の違いによる姿勢作りの基本です。

今回は、車が止まっていて円盤が回っているというモデルの話でしたが、逆に円盤が止まっていて車が走っているモデルに置き換えても、コーナリング中の車のエンジン搭載位置による重量バランスと、遠心力による限界時のタイヤの滑り方の法則は、実は基本 的に同じなのです。

実走行では、定常円をグリップで回ると駆動輪に駆動が掛かり、フロントタイヤには舵角が付きますが、基本特性は殆どこのエンジン搭載位置で決まります。
車のスピードを上げていくと前が重たい車はアンダーステア方向に行き、後ろが重たい車はオーバーステア方向に行こうとします。
それは、駆動力により縦グリップが使われていようが、いまいが、そうなります。
ただ、エンジン搭載位置と駆動輪が同じもの、具体的にはFFやMR、RRだと、よりその特性を助長することになりますね。
ただでさえ重くて遠心力に耐えにくいうえに、縦方向の駆動力により、横グリップを減らしちゃうわけですから。

よって、本実験より、実際にコーナリング中の車において車の「姿勢作り」と言うのが、そのコーナリングの限界速度を決めるのに重要な役割を示すというのが分かると思います。
例えば、FF車ならばコーナーの円に対してフロントを内側に入れる、MRやRRなら、リアを内側に入れるといった具合です。

そしてこの結果より、コーナリング中に遠心力に対抗する最大のグリップを発揮できる車、つまりコーナリングスピードが速い車とは、その最適な姿勢を作りやすく、且つ維持しやすい車、という事になる でしょう。
よって セッティングや運転技術も、そこを目指して行けばいい事になりますね。
そうなれば、長時間4つのタイヤの限界点を使う事が可能となりますから。

実際にコーナリングに関して言えば、これらエンジン搭載位置の特性のネガ(マイナス)の部分を補うために、例えば後ろにエンジンを搭載した車では、リアタイヤを太くしたり、GTウィングなど空力を利用したり、ジオメトリやアライメントでリヤタイヤが滑 りにくいように、色々なセッティングをしていますね。
FF車ならば、LSDやジオメトリ、アライメントでネガの特性を消すことが多いですね。

しかしながら、これらのリアエンジンの車でリアタイヤを太くしたり、FF車でフロントタイヤにキャンバーを付けたり、はたまたリアタイヤを滑りやすくするのは、デメリットも多くなります。

やはり、これらの小細工ではなく、エンジンの搭載位置を最適にするのが王道でしょう。
そして、それが出来ていない車では(と言うか、殆どの市販車は出来ませんね)、基本的に運転技術で、上記のようにエンジン搭載位置ごとの姿勢を作り、且つ維持できるように するのが、これまた王道だと考えています。
(その方法は、別途運転編に書く予定)
セッティングは、それを助けるモノだという位に考えておいた方が良いと思います。
それだけ私は、この、「車の姿勢」と言う物が、大切だと考えています。


さて、今回は駆動力によるタイヤのグリップ変化や、舵角による影響などを無視して考えてみました。
しかし実際のコーナリングでは円盤を回すモデルと違い、まず車自身ががヨーを作り続ける必要が有るし(これは、後で書く予定)、後輪がパワースライドすることも有れば、前輪のスリップアングルが大きくなり過ぎる事も有ったりと、セッティングや運転の仕方によって、色々な現象が複雑に絡み合って起きます。

しかしながら、始めに書いた通り、これらのセッテング等はエンジンの搭載位置による、基本特性を変えるための対症療法的なものであるし、一気に細かい色んな現象を考えると、物事の本質を見失います。
複雑な事を理解するためには、要素還元的に、テーマを絞って1つずつ考える事が大切です。
よって今回は、その中で最も重要な要素である「エンジンの搭載位置」だけを考慮した、コーナリングの基本特性と、その性能の出し方について書いてみました。

参考になりましたか??

それでは、エンジン搭載位置と、そのコーナリング特性のお話は、とりあえず小休止(笑)。


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