天性の素質を持つMRとRRレイアウト その2
知っての通り、MRやRRレイアウトの後ろにエンジンが有る車は、始めからリアの重量配分が多い、つまりリアが重くなっています。 ええ、トランクに重い荷物を積む必要もなく、それどころかリアエンジンの車は基本的にトランスアクスル(車軸上にデフとミッションが有る)なので、非常に車重を軽く出来ます。 逆にフロント部はとても軽量です。
つまり車体が軽量な上に、
重量配分が自然にヨーを作ってくれるわけですね。
図1 遠心力によってヨーが作られるこれは後ろにエンジンが有る車だけが持つ、
“天性の素質”なのです。
換言すれば、リアエンジンの車は、ハンドルなんて付いていなくても“グリップ走行”で曲がることが出来るのです。
実際に後ろにエンジンが載っているレーシングカートなどは、コーナリング中に殆どハンドルを切ることはありません。
「ではリアエンジンの車は曲げる技術は必要ないのか?」と言われると決してそんなことはありません。
いいですか? リアエンジンの車は
遠心力が発生してはじめてヨーが発生するのです。
ということは、
“はじめに車を曲げてやる”ことが必要なのですよ。
曲げなければ永久に遠心力は発生しませんからね。
そういう意味においては、リアエンジンの車にもハンドルは必要ということですね。
これは
LSDを理解した運転にも書きましたが、日本人初のF1ドライバーである中嶋悟氏が言った、
「ステアリングは車庫入れするためにあるのであって、車の方向を変えるのはステアリングではない。スポーツドライビングにおいてステアリングは、あくまできっかけを与えるもの。」
という言葉の、本当の意味ではないかと考えています。
リアエンジン(正確にはMR)であるフォーミュラカーは、ハンドルできっかけを与えてやれば後はデフの効果とあいまって勝手にヨーを作り続けてくれるということでしょうか。
私はフォーミュラカーには乗ったことがありませんが、フォーミュラカーはレーシングカートの動きに非常に近いと言われているので、恐らく物理的な重量配分特性をメインとし、ハンドルは補助的な役割なのだろうと予想します。
さて、中嶋悟氏は簡単に「きっかけを与える」なんて言っていますが、このきっかけを与えることが実はとても難しくなります。
これは
本気で速くなりたい人へ・・・に書いた
荷重曲げの理論と実は全く同じなんです。
荷重曲げの技術はFF車限定の話ではないと書きましたよね?
リアエンジンの車は良く言えばフロントが軽いですが、フロントタイヤに掛かる荷重も当然小さくなります。
だから大抵フロントタイヤはかなり細めですよね?
”荷重曲げ”の話に書いた通り、タイヤは荷重をかけてあげないとグリップが上がりません。
フロントが重たいFF車などは楽にフロント荷重に出来ますが、リアエンジンだとそうは行きません。
よって、フロントタイヤに仕事をさせるためには
“ブレーキングの技術が最もシビアになる”といえるでしょう。
つまり、ブレーキによって最大にフロントタイヤに荷重をかけた状態で、縦方向の力を抜いてやる、
本気で速くなりたい人へ・・・に書いた“荷重曲げ”の技術が最も必要となるわけです。 詳しくは
荷重曲げの項を見て下さいね。
この荷重曲げによる姿勢づくりが出来ないと、結局
始めのきっかけだけのために車のセッティングを曲がりやすくする(オーバーステア方向にする)ことになり、多くのケースではコーナリング中にオーバーステアと格闘することになってコーナリング速度が落ちるのです。
或いは最適な姿勢を作れずにせっかくのリアエンジンの武器を生かせず、曲がりながらもハンドルを切り足して細いフロントタイヤに仕事をさせることになるでしょう。 そして何らかのタイミングで偶然に荷重曲げ状態になってしまったり、或いはスピードを上げて行って遠心力があるレベルを越えると、突如本来の特性であるオーバーステアとなる、いわゆる”アンダーオーバー”の挙動になることが多いと思います。
(リアエンジン車の高速域でのオーバーステアは、未熟なドライバーにとってはとても危険です)
そもそもリアエンジンの車は、一番始めのターンインが最も曲がりにくく、同じRのコーナーリングならば、スピードを上げるほどに遠心力によってヨーが作られる、つまり曲がりやすくなることになります。
そして
今まで本HPを読んできた人ならば曲がりやすくなる理由がそれだけでないことも予測が付くでしょう。
コーナーリング中に速度を上げるということは、加速しているということで駆動輪には縦方向の力が働いていることになりますね。
ということは、
摩擦円の理論より、当然リアタイヤの横グリップが少なくなります。
これにより、より曲がりやすく(ヨーがつきやすく)なるわけですね。
リアエンジン車がFR車と異なるのは、摩擦円の理論に
遠心力によるヨーモーメントが加わることです。
(FR車がアングルの深いドリフトが出来るのは、遠心力がフロントに大きくかかるため、アングルがついてもこれがヨーを戻す方向の力となり、アクセルによるリアタイヤの摩擦円を考慮した縦グリップ(スライド)調整だけでヨーをコントロールしやすいため)
つまり、コーナリング中に加速するドライビングスタイルの人ほど、アンダーステアセッティングにするべきでしょう。
(もちろん、加速すればリアタイヤに荷重が乗るため、グリップ自体は上がります。
ここはリアタイヤに掛ける駆動力との兼ね合いで決まりますが、リアエンジン車は元々リアに大きな荷重が乗っています。
よって荷重の増加によるグリップの増加量よりも、駆動力を使うことによる横グリップの減少についてシビアにセンシングするべきだと考えています)
そうなると、より一層荷重曲げの技術が避けて通れなくなるのです。
もちろん、
最大の遠心力に対向する操作に書いたバランススロットルを使ったコーナリングを行えば、速度変化がないため遠心力によるヨーモーメントの変化も理論上無いことになります。
また、タイヤのグリップも100%横に使えますね。そしてスリップアングルによるCPが無くてもヨーを作れる天性の特性が、最大限に生かせることでしょう。
つまり一言で言えば、車重とタイヤが同じであっても、フロントにエンジンがある車と比べて速く曲がれることになるわけです。
荷重曲げが出来るようになればオーバーステアセッティングにせずに、コーナリング中には最適なヨーを作れるようなセッティングが出来るはずですね。 そうすれば、間違ってもカウンターステア(正確には逆ハンドル)を当てるようなセッティングにはならないはずです。
(実際にオーバーステア特性のレーシングカートは運転しづらくてたまりません。アンダーステア気味の方が、普通は遥かに速く走れます)
ここがリアエンジン車のドラテクにおける最大のツボであり、運転技術の最重要ポイントです。
FF車同様にリアエンジン車の運転を極めたい人は、やはり荷重曲げの練習を避けては通れないでしょう。
ひとたび車が曲がり始めれば、その後はエンジンが勝手にヨーを作る。 スピードが上がれば上がるほど、(同じRなら)遠心力が増えてこの傾向が強くなる。 このことを常に念頭に置いて走るとイメージしやすいでしょう。
そしてMRよりももっと後ろにエンジンが載っているRR車は、更にこの傾向が強くなります。
つまり、ヨーがもっと強力につけられてしまいますね。 MRよりも小さな遠心力でも大きなヨーが作れるわけですから。
RRレイアウト車でスポーツ走行に振った車と言えば、実質ポルシェ911シリーズしかないでしょう。
ポルシェ業界?には
「ポルシェ使い」と言った褒め言葉があるそうですが、それはこのレイアウトによるヨーの使い方を極めた人ではないかと考えています。
ただしポルシェ911はRRレイアウトなだけでなく、パワーもあるしリアタイヤもメッチャ太いため、限界がとても高くなっています。
よって限界を超える場所はかなりの位置なので、しっかりとこの特性を理解して運転しないと、ハイスピード域で重いリアが振り子のように振られてスピンしながら吹っ飛んでいく挙動になります。 これは最も危ないクラッシュとなるでしょう。
よって、RRレイアウトはある意味、諸刃の剣なのです。
特にポルシェ911は限界が高いぶん、初級者がリアタイヤの限界まで高速コーナーをかっ飛ばすなどは、自殺行為でしょう。
(MR,RR車のドラテクの詳細については、また改めて書きましょう)
どうしても上手く出来ないリアエンジン乗りの方は、カートにトライしてみるのも近道かと思います。
そうすれば恐らく数分の一の時間でマスターできることでしょう。
ポルシェのブレーキは、なぜ良く止まるのか?に書いた通り、ブレーキングに関してもリアエンジンの車は最適なレイアウトでした。 そして加速面についても、後輪駆動車である限り、駆動輪に最も荷重がかかるリアエンジン車はベストです。
この様に加速、減速、コーナリング、この全てに於いてリアエンジン車が最も優れているので、専用設計のレーシングカーやフォーミュラカーはこのレイアウトなんですね。
では自動車というのは、リアエンジンが最も効率的で速く走れるレイアウトなのでしょうか?
ふむ……、確かにそのとおりでしょう。
ただしそれは……
“二輪駆動ならば”という前提条件をつければ、の話なのです。
四輪駆動となると、話はそう簡単ではありません。
(ちなみにF1などはレギュレーションで四駆は禁止)
確かにポルシェやランボルギーニにもハイパワー車は四輪駆動モデルがありますね。
そしてこれらは二駆モデルと同じく全てリアエンジンです。 何となくポルシェやランボルギーニがやってるならそれが一番速いような気もするかもしれませんが、私の考えは異なります。
一言で言いましょう。
”四輪駆動車はフロントヘビーの方が速い”のです。
ただしそうなるためには性能を引き出すためのセッティングとドライバーの技術が必要なのです。
皆さんも今までの知識を総動員して、なぜそうなのかをよく考えてみてくださいねっ。
では次に四輪駆動車の話に入っていきましょうか。
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