デフオイル交換でコントロール性を上げる


「よくこんな難しい車を運転ますねぇ」
「元々ピーキーな車を、余計ピーキーにしてどうする」
「俺には、この車を運転するのは絶対に無理です」

これらは、みな私の助手席に乗った人が言った言葉です(笑)。

振り回しやすいアライメントにしてから、私の運転自体が自然とリアを滑らし気味になってきた事も理由として有るでしょう。
攻め込むと基本的に、コーナーは少しリアタイヤが滑っている感じですかねぇ。
S2000は低ヨーなので、スピンスピードと言うか、リアを滑らせた時の車体の回転スピードが速く、カウンターステアも切り始めは早めに、且つ素早い操作で当てなければならないので、横に乗っている人は皆この様に 感じるようです。

ところが実際に運転している私は、とてもコントロール性がいい感じですね。
確かにリアが出やすくなったし、また故意にリアが出る様な運転の練習をしているので、車の動きは限界が下がってピーキーになった様なフィーフィンは有りますが、実際には限界が高くてコントロールしきれない車よりも、多少限界を下げてもコントローすしやすい車の方が、速いし楽しい物です。

ただ、さすがにもう少しリアの限界を上げて、挙動をマイルドにしてもいいかなーっと思ってきました(笑)。
いかんせん、ジャジャ馬過ぎです(笑)。 カウンターステアが忙しく、ちょっと疲れますかね。
そこで、今度はリアの限界をもうちょっと上げて、且つコントロール性も上げられないかと考えました。
ここで、またトーを戻したりすると、コントロール性が落ちて本末転倒なので、他の方法を考えてみました。
勿論、純正主義から外れない方法でです。

そして、一つ思いついた方法が、「純正のLSDをもう少し強く効かせる事」です。

知っての通り、LSDは差動制限をする装置。 つまり、駆動輪の外輪と内輪の回転差を制限する物ですね。
S2000には、標準でトルセン式と言うLSDが付いていますね。

ちょっと基本に立ち戻って、何でこんな物を付けるのかを考えてみると、オープンデフではコーナリング中など横Gが掛かって車体がロールした時に、内輪の荷重が抜けて内輪が空転する、つまり、ホイールスピンするからですね。
ホイールスピンしている内輪にパワーを喰われると、力と言うのは逃げやすい方に行く性質が有るので、荷重が掛かっている外輪には駆動力が殆ど行きません。
私は 一度オープンデフの車で実験をしたことが有りますが、片側をアスファルト、片側を砂利道に駆動輪を乗っけると、砂利側が空転して、笑っちゃうくらい前に進みませんでした。
まあ、デフと言うのは回転差を吸収して、内輪が滑らずにグリップしたまま曲がるためには必要な物ですが、この回転差も無制限にするのではなく、程々にしておかないとダメと言う事ですね。
それが、LSDの本来の目的だと思っています。

しかしこれも知っての通り、実際にはLSDの効き方によってハンドリング特性と言うのは大きく変わります。
まあ、LSDとハンドリングの話は本や雑誌など、どこにでも詳しく載っているのでここには書きませんが、前項に書いた通り、私の車はトーを殆ど付けていません。
これにより、リアタイヤのスリップアングルが減って横にスライドしやすくなった事に加え、純正のLSDでは回転差の制限が少ない事が相まり、非常にリアが曲がりやすく、且つ滑りやすくな り、結果としてリアのグリップの限界が低くなっているはずです。

それならば、少しLSD効果を強くしてやって、アクセルオン時のプッシングアンダーが出る方向にしてやろうと言うわけです。
(ちなみにトルセン式LSDは減速時にも効く)
これにより、スライド時にイン側のタイヤもスピン挙動を抑えるために、使ってしまおうと言うわけです。
結果、スライドした時のリアの限界が上がり、挙動もマイルドのなるのではないかと言う狙いです。
つまり、リアのトーを小さくしたために、リアタイヤが滑る効果とデフの効果の、ダブルの効果で曲がっていた物を、デフの効果の方を少し抑えてやろうと言う事ですね。

ちなみに私の考えでは、初期型のS2000に効きの強いLSDは合わないと思っています。
その最大の理由は、何度も書いてきた、ストローク時のリアのトーインの大きさです。
ちなみに、回転差と言うのは、同じ半径のコーナーならば同じでしょうか?

その前に、何故回転差が出来るのか、当たり前のことを考えてみましょうか。
それは、外輪の描く円と、内輪の描く円では半径が違うため、進む距離が違うからですね。
と言う事は、当然トレッドが広くなればなるほど、この距離の差は大きくなるはずです。
逆に言うと、トレッドを広げると、LSDを何もいじらなくてもLSDが強く効くと言う事です。
まあ、これについてはトレッド変更編に詳しく書く予定です。

さて、それでは次に、トレッドが同じだとして、トーが変化した場合に外輪の進む距離と、内輪が進む距離の差は、トーが変化しなかった場合と同じでしょうか??
これはちょっと難しいですが、結論から言うと、変わりますね。
外輪のトーが入れば、スリップアングルが大きくなり、その結果、実際に描く円と、回転により進む距離の差が大きくなるので、
簡単に言うと、外輪の回転数が大きくなりますね。
つまり、トーインとなると回転差が増える訳です。

と言う事わぁ…、、、これまたLSDをいじらなくても、勝手にLSDが良く効くような方向に行ってしまうわけです。
アライメントを変える時に、リアのトーを大きく入れると、交差点などを曲がる時にも、何も変えていないLSDが強く効いて、タイヤが「ガッガッガッ」となった経験は無いでしょうか?

これはどの車でも起きる事でしょうが、問題は、初期型のS2000では、1Gではそれほどトーが入っていなくても、ストロークするにつれて大きく入って行くので、ロールすると動的に 回転差が大きく変わる事です。
つまり、コーナー等でロールすると、一般的な車と比べてLSDが勝手に強く効くようになってしまうのです。
LSDの効きが強すぎると、今度は曲がる時にタイヤが横に滑りやすくなる、つまりパワースライドしやすくなり、そうなるとタイヤが滑るか滑らないかの一番おいしい、最大摩擦係数の領域を逃がしてしま います。

簡単な言葉で言うと、LSDを強く効かせると、S2000はプッシングアンダー状態かドリフト状態かのどちらか両極端に行きやすく、一番使いたい中間域が少ないと言う事ですかね。
更にS2000は、ヨーが小さいため、リアタイヤの横のグリップがズバッと無くなると、スピン挙動に陥りやすいでしょう。
つまり、ヨーが大きい普通のFR車と比べて、ドリフト状態を継続しにくいわけです。

よって、例えば強い機械式LSDでLSDを強く効かせて、リアタイヤを完全に横に滑らせてトラクションを逃がしてしまうくらいならば、弱めのLSDにして少々回転差が大きくても、タイヤをグリップさせた方がよっぽど有効にトラクションが掛かるはずです。

まあ、タイヤのグリップ力やアライメント、車高やロール(ストローク)量等によってLSDの効きの強さには最適値が有るのでしょうが、私がS2000に効きが強いLSDは相性が悪いと思うのは 、これらの理由からです。
他にも色々理由が有りますが、長くなるのでちょっとカットします(笑)。
(1つだけ書いておくと、ただでさえ少ないパワーを喰われる事ですかね。)
LSDの話は、またどこかに詳しく書くかもしれません。 (書かないかもしれません(笑))


さて、話がそれましたが、そんなわけで、曲がり過ぎるデフの効果を少し抑えるために私が考えたのは、「純正のLSDをもうちょっと強く効かせる」です。
そしてその唯一の方法は、デフオイルを変える事でしょう。
S2000のトルセンLSDは、かなり良く効くので、硬めのオイルを入れるだけでかなり変化が有るそうです。
よって、純正が90のシングルなので、思い切って85w-140のオイルを入れてみました。
結果は、オメガ 85w−140のインプレッションに殆ど書いてありますが、大当たりでした。

リアのスライドコントロール性は更に上がり、且つ期待通りに限界も上がりました。
アクセルオンでは、明らかにプッシングアンダー方向になり、スライド状態からアクセルでオーバーステア方向に持って行く時も、過渡特性がかなりマイルドになった感じです。 アンダー方向にも、アクセルコントロールだけで楽に持って行けます。
勿論 トラクションも上がり、忙しかったカウンターステアの操作も少しゆっくりとなり、恐怖感もより減りましたかね。
簡単に言うと、リアタイヤが太くなった感じかな? かなり、ジャジャ馬ぶりが治まりました。

こいつは、コストパフォーマンス抜群ですね。 デフオイルを変えただけですから(笑)。

元々この時のアライメントは、コントロールしやすいアライメントに書いた様に、車を振り回す練習用と考えていたアライメント設定ですが、デフオイルを変えた事で限界が上がり、また十分速く、コントロール性も高いので、正直言ってゴールはこれでもいいかと思った程です。
同乗者も皆絶賛で、このセッティングが一番長く乗っていた物ですかね。

この辺からやっと、目標としていたS2000でのFRを振り回す運転が少し出来るようになってきました。
(ちなみに同乗者からは、「振り回し過ぎ」と言われた事が多々有ります(笑))

よって好みによっては、足廻りのセッティングをここで止めておくのも一つの手だと思います。
アジリティーが高いので、運転していてドキドキ感が有って面白いし、コントロール性も高く、また相当に速いです。
実際に、かなりの上級者がハンドリングに感動して、S2000を買って、車高調からアライメントから、私と全く同じ仕様とセッティングの車にしたいと言われた程でした。

これはセッティングの一つの完成形として、アリだと思います。
ただ、あくまでタイヤのスライドコントロールが出来る、FRを振り回せる技術が有る人向けですが。
FRの初級者が乗ると、まだ「玄人向け」と言われる可能性が高いですかね。


とりあえず、私の求める「至高のハンドリング」に、大きく前進です。

続く…。

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