さてさて、遅くなりましたが前回の続きです。
前回の項は結構重要なので、この項の前に、ぜひ理解してくださいね。
前回はバネレートを変えるだけでロール角が変わり、重力によるロールトルクの増加分だけ荷重移動量が変わる、というお話をしました。
以前タイヤの項で、タイヤに掛かる荷重とタイヤのグリップは非線形である、という話をしましたね?
タイヤの項では、4つのタイヤに均一に荷重を掛ける時が、4輪の合計のグリップ、つまり車のグリップは一番高くなると言ったと思います。
例えばタイヤへの荷重は、1.1倍掛けるとグリップも1.1倍になるけど、2倍掛けても2倍にはなってくれず、1.8倍になったりする、というようなお話でした。
よってこの場合には、全てのタイヤに同じ荷重が掛かる時がベスト、つまり「荷重移動を一切しない時が一番車のグリップは上がり、コーナリング時の遠心力に対抗する力が大きくなる」、と言う事になりました。
しかし実際にはそれほど単純ではなく、これが常に当てはまる訳では有りません。
当てはまらない一つの例が、ウェット路面です。
特に今回は分かりやすくするために、ビショビショのヘビーウェット路面としましょうか。
さて、この路面を速く曲がるためにはどうしたら良いでしょう。
まずウェット路面がドライ路面と何が違うのか考えてみましょう。
大きく分けて2つ、
1、 路面とタイヤのμが低い(グリップが低い)。
2、 ハイドロプレーニング現象を起こしやすい。
と言ったところでしょうか。
もちろん、ドライと比べてタイヤが冷えやすいとか他にもいろいろ有るんでしょうが、取りあえずこの二つを考えてみましょう。
もしもドライと同じ理屈でいけば、荷重移動量は少ない方がコーナリング時に左右のタイヤに均等に荷重が掛かり、4輪のグリップの合計が上がる事になります。
でも実際にウェット路面では、レース等でもバネレートを下げたり、ダンパーの減衰力を下げたりしますよね?
このように足廻りを柔らかくするのは、ドライの時と何が違うからでしょうか?
一言で言うと、ウェット路面はμ(摩擦係数)が低いだけでなく、ハイドロプレーニング現象が起きる可能性が有ります。
特にヘヴィーウェット路面となれば、起こりやすいでしょう。
(ハイドロプレーニング現象については、教習所でも習っているはずなのでここでは詳しい説明は省略します。ネットで検索すれば、たくさん出てきますので、詳しく知りたい方は調べてみて下さいね。)
そして、ハイドロプレーニング現象(以下ハイドロ)は、タイヤの荷重、正確にはタイヤの「面圧」が低ければ低い程起こり安くなります。
面圧とは、単位面積当たりの荷重の事です。 例えば、1p2当たりの荷重ですね。
実際に、軽い車に太いタイヤを履いて高速で走ったりすると、起こりやすいですよね?
まあ私は、ハイドロは水上スキーのイメージなんですが、軽い人が大きなスキー板を履くと何となく水面に乗りやすそうですよね?
逆に例えば、バスやトラックなどの重たい車は、タイヤに掛かる荷重が大きいため、ハイドロは起きにくくなります。
よって自動車でハイドロを起こさないようにするためには、タイヤの面圧を上げる必要が出てきます。
(
そのために、タイヤの空気圧を上げるのもハイドロを防ぐ有効な手段です。)
ただ、車の車重が決まっている以上、4輪に掛けられる荷重も決まってしまいます。
今回は空力によるダウンフォースは禁止ですからねっ。
それでは決まった車重で、どうやったら高い荷重のタイヤを作り出す事が出来るでしょう?
その答えこそが、荷重移動を利用してやる事です。
タイヤのサイズ(接地面積)が決まっていたら、面圧を上げるためには荷重を掛けるしか有りませんからね。
それでは順を追って、荷重移動がドライと何が違うかを考えてみましょう。
まず、ドライと全く同じ車を用意するとします。
ではμが低くなると、コーナリング時には何が変わるでしょうか?
当然路面が滑りやすければ、最大に掛かる遠心力は小さくなるから、横Gも小さくなりますね。
すると、ロールと荷重移動と横G その2の式10より、ロール角が小さくなり、荷重移動量も減ります。
何かその方が良い様な気もしますが、ウェット路面では事情がちょっと違います。
例えば、車重1200Kgの車で、静止時に全てのタイヤに300Kgfの荷重が掛かっているとしましょう。
ドライだと、大きな横Gが掛かるため仮に前後合わせて200Kgf荷重が移動するとしましょう。
すると、外側のタイヤに400Kgf、内側のタイヤに200Kgfずつ荷重が掛かることになりますね。
ところがウェットだと、μが低いため大きな横Gが掛けられないため荷重移動量も減ってしまいます。
例えば
ドライだと200Kgf移動で来たのが、100Kgfになってしまったりする訳です。
すると外側のタイヤは350Kgf、内側のタイヤに250Kgfずつしか荷重が掛からない事になります。
ここで重要なのは、耐ハイドロ性を考えると、4つのタイヤに均等に荷重を掛ける事ではなく、荷重が最大に掛かるタイヤの荷重が重要だと言う事です。
4輪同時にハイドロになるとグリップが極端に下がるので、それを避けるために外側の2輪だけでも喰わせて、ハイドロになりにくいタイヤを作ってやる訳です。
つまり乱暴に言うと、荷重が抜ける側のタイヤのグリップは捨てるって事ですね。
そうすると、コーナリング中は外輪の荷重が最大荷重になるはずなので、そこで出来るだけ大きな荷重を掛けてやりたい訳です。
しかしウェットでは、ドライと比べてタイヤの荷重が50Kgfも減ってしまっています。
そこで、遠心力による、つまり少なくなった慣性による荷重移動に頼るだけではなく、重力の力を借りて荷重移動を積極的にしてやる訳です。
正に、ロールと荷重移動と横G その3の横Gが0.5[G]の時のロールトルクと荷重移動量のグラフはこのモデルです。
大きなロール角では、少ない横Gで、大きな荷重移動をさせていると思います。
前回に書いた様に、弱い横G時には、荷重移動の内、重力の占める割合が増えましたね?
よって、小さい横Gで大きなロール角になるようにすると、重力により大きな荷重移動が起きます。
結果、外輪の荷重が増え、外輪の耐ハイドロ性能が上がります。
その為に、ロール角を増やすためにバネレートを下げたり、減衰力を小さくしたりするのでしょう。
一言で言うなら、「少ない横Gで、外輪に大きな面圧を掛けるため」です。
これはラリーなどの競技の雪道でも同じ理屈で、足廻りは柔らかめで、タイヤも面圧を高くするため、ターマック(舗装路)よりも細くなっています。
こんな感じですかね。
(今回は横方向について書きましたが、これは前後方向でも同じでしょう。)
一応これが私の考えた答えです。
ただですね、氷がなぜ滑るかって言うのは、実は科学の世界でも厳密には良くわかっていないんです。
まあ、色んな仮説が有りますけどね。
つでに、そんな事も覚えておいてください。
さて、皆さんの考えた答えはどうでしたか?? 同じだったかな?
ちなみに今回はハイドロについての視点から考えましたが、低ミュー路でバネを柔らかくする理由は他にも有ります。
それについては、
今後ゆっくり書いていく予定です。
続く…。