ロールと荷重移動と横G その3



さて、前回まで理解出来ましたか??
それではもうちょっと先まで行ってみましょう。

始めに、色んな所で見聞きするんですが、
「バネレートはロール角を変えるだけで、同じ横Gならば荷重移動量は変わらないか、変わったとしても誤差の程度である。」
と言うのを聞いたこと有りませんか?

私はこの言葉を良く聞きます。
特に、有る程度理論を知っている人ほど言っている気がします。

例えば、横Gが1[G]の時に、バネレート1[Kg/mm]のバネが10[mm]縮まるなら、10[Kg/mm]のバネならば1[mm]縮まる。
よって、荷重移動量どちらも10[Kgf]で同じである、といった具合です。
これはつまり、バネレートを高くしても低くしても、「ロール角が変わるだけで荷重移動量は変わらない」と言う事です。
バネレートを変えるのは、「跳ねやロールスピードを調整したり、ドライバーがロールを体感しやすくするため」、と言うのが一般に言われている説明ですかね。

さて、では実際はどうでしょうか??
もう分かりますね? 前回求めた式10は、これを解決する物です。
バネレートを変えると、同じ横Gでもロール角が変わるため、重力によるロールさせるトルクが変化します。
よって、バネレートによって荷重移動量は変化しますね。 図1式10を見れば、明らかだと思います。

それでは少し、定量的に行ってみましょうか。 ここで、具体的な車を用意してみます。
モデルはS2000で、車重は1200[Kg]、トレッドは1500[mm]、ロール軸と重心の距離はちょっと分からないので、ここでは50[cm]としましょうか。
横Gは、まず始めに街乗りスピードで、普通にカーブを曲がる位の横G、0.3[G]としましょうか。
それではこの時に車の荷重やロールがどうなるのか、ちょっと、皆が持っているExcelを使用して簡単に計算してみましょう。
このようになります。

横Gが0.3[G]の時のロールトルクと荷重移動量

これは何を変化させているかと言うと、車重も横Gも全て同じで、ロール角だけを変化させています。
つまり実際の車では、バネやスタビのレートを変化させていると思えば良いですかね。
ロールトルクは、横G(つまり重心に掛かる慣性)による物と重力による物が有りましたね?
それらを足したものが、合計のロールトルクで、実際にロールさせる力となる物です。

表1を見ると、まずロール角が0度の時は重力によるロールトルクは有りませんね。
まあ重力はロール軸を垂直に押す力としてしか働かないので当然です。
そして、ロール角が増えていくに従って、慣性のトルクが減り重力によるトルクが増えていくのが判ると思います。
またロール角がほぼ16度位の所で、慣性のトルクと重力によるトルクが同じとなり、それ以降は重力によるトルクの方が大きくなっているのが判ると思います。
別の言い方をすれば、この車をロールさせる力は、ロール角が16度までは慣性(横G)が支配的となり、16度以降は重力が支配的となる、と言う事です。

図1を見てみて下さい。 これは表1をグラフにしたものです。
16度の所で二つのトルクが交差していて、この現象が簡単に見てとれると思います。
16度の時の外荷重は825.606[Kgf]なので、荷重移動量は、

825.606-600=225.606[Kgf]
となりますね?

え?車は16度もロールする事はないって? これも良く聞きます。
では見てみて下さい。

これは 究極の立ち上がり重視(解説編)に載せた 、Vivioを私が運転しているのを後ろから撮ったものです。
この写真で計ると、大体13度ロールしています。
でもここのコーナーは、ロールは比較的少ない場所です。

ヘアピンなどの画像が無かったのでこれを載せてみましたが、ヘアピンではもっとロールしています。
更にタイヤをまともな物に変えれば、もっとロールするでしょう。
ちなみにこの世代の剛性の低い車は、ヘアピンのコーナーでは、私の運転では前輪のイン側だけが完全に浮きます。
FF車で後輪が浮くのはマーチレースなどワンメイクレースでも良く見ると思いますが、ストロークの多い純正足で、前輪だけを完全に浮かせるのは結構難しい物です。
まあ、この話は後でまた。


では次に、以下の表2を見て下さい。 こっちの計算では、横Gのみを変更しています。

横Gが0.5[G]の時のロールトルクと荷重移動量

今度の横Gは0.2G増えて、0.5Gです。
これは、エコタイヤを履いたファミリーカーでコーナーを速く曲がった時くらいの横Gですかね。
さてさて、どうなるでしょう。
こんどは、慣性のトルクと重力によるトルクが交差するポイントが、大体27度位ですね。
よって慣性のトルクと重力によるトルクが交差するポイントは、横Gが0.5Gの時には、0.3Gの時と比べて16度から27度へ増えた事になります。
でも実際に27度もロールする車は中々無さそうです。
よってこっちは、基本的に重力よりも横Gによるトルクが常に支配的になりますかね。

また、16度ロールした時の荷重移動量は、902.507-600=302.507[Kgf]ですね。
0.3Gの時には225.606[Kgf]だったので、0.3Gの時と比べて0.5Gでの荷重移動量は、302.507-225.606=76.901[Kgf]増えている事になります。

つまりー、同じ16度ロールすると、より大きな荷重移動が起きていると言う事です。
そしてこれは、同じロール角ならば、0.3Gの時よりも0.5Gの時の方がバネレートが高いと言う事です。

さて、ここまで見てみて前回出した問題の答えが判りましたか??

とどめにもっと大きな横Gだとどうなるか見てみましょう。
以下の表3を見てみて下さい。

横Gが1.4[G]の時のロールトルクと荷重移動量

今度は横Gが1.4Gの時の計算です。
これは、ハイグリップタイヤを履いたスポーツカーで、上級者がコーナーを速く曲がった時くらいの横Gですかね。

さて、今回は今までと違うのが判りますか??
今までは、実際の車(S2000)が30度までロール出来るかどうかは置いておいて、理論上はロール出来る事になります。
しかし今回は、ロール角が7度になった所で外輪の荷重が1204.57[Kgf]になってしまっています。
つまりこれは、車重による荷重を超えてしまっている事になります。
前に書いた様に、車重を超える荷重移動不可能ですから、7度から先のロール運動は理論上も、現実にも存在しない事になります。

また図1図5を見比べれば、横Gが大きくなればなるほど、ロールさせる力は重力よりも横Gが支配的になるのが判ると思います。
まあ、重力は横Gに関わらず、常に1Gですから当たり前と言えば当たり前ですが。

つまりー、、、車は横Gが大きくなればなるほど、重力が荷重移動に与える影響というのは小さくなります。
それこそ横Gが、R35GT-Rの様に2Gだとか、レーシングカーの様な3Gとかそれ以上になると、始めに書いた「バネレートはロール角を変えるだけで、同じ横Gならば荷重移動量は変わらないか、変わったとしても誤差の程度である。」
というのも、あながち間違いでもない気がしますかね。

例えば、上記のS2000に1.4Gの横Gが掛かかり、6度ロールした場合では、614.6/8801.5=0.0698 なので、約7%が 重力による荷重移動となります。 残りの93%は横Gです。
また、1.5Gの横Gを掛けるとロール角がゼロ、つまりロールしていなくても外側の荷重が1200Kgfとなり、100%の荷重が移動する事になります。

つまりこの車は、もしもタイヤのグリップを上げて1.5Gを掛けられるようにすると、ロール運動が出来ない事になります。
そこから先は、引っ繰り返る挙動が出る事になります。(詳しくは後述)

よってこの車では、横Gが1.5Gになる手前の速度でタイヤが滑る様なセッティングにするべきでしょう。
或いは、トレッドを広げるか、重心を下げるか、ロールセンターを上げれば1.5Gでもロールさせる事が出来る、つまり曲がれる事にな るはずですね。
この話はまた詳しく書く予定です。

さて、ちなみに前回の問題の答えはわかりましたか?

「 ウェット路面などの低μ路では、サスペンションのバネや減衰力を柔らかい方向にセッティングすると思いますが、何故でしょう?」

でしたね?
ヒントは、今回の項です。 この項が理解できれば、きっとわかると思います。
ちょっと長くなったので、答えは次回に繰り越します・・・。

答え、ちゃんと考えて下さいね(笑)。
前にも書きましたが、答えが合ってるかどうかは、どうでもいいんですよ。
何より自分で考えて、自分の答えを出す事が大事なんです。 是非考えてみて下さいねっ。


あ、それと最後に、もしも今回計算したExcelのワークシートのファイルが欲しい人が居たら、アンケートフォームに”欲しい”的な事を適当に書いてください。

一応、車重と横Gとロールセンタ〜重心の距離と、トレッド幅を入れると、その他は自動的に計算してくれます。
ロール角ごとの荷重移動量が判るので、例えばバネレートやストローク(自由長)などを決めるために、役に立つでしょう。
ま、前回の数式(式10)を入れただけなので、誰でも作れると思いますが…。
もしも要望が多ければ、何らかの形での配布も検討するかもしれません・・・。


それでは、またまた続く・・・。  (いつも新しい記事を待ってくれている方々、多忙なため遅くなってスミマセン。)

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