四輪駆動車を速く走らせる運転のセッティング その1
では
前回の続きです。
本項では最適な運転を補助するための、車のセッティングについて書いてみます。
これは
その1をマスターした人向けの次のステップの話となります。
3,カウンターステアを切る前にやること:
強いブレーキとそれを利用した
荷重曲げをマスターすると、四輪駆動車であってもコーナーの入り口で大きなヨーが作れるようになるはずです。
するとアクセルを踏んでもスピン挙動がなかなか収まらないケースも出てきて、”カウンターステアを切らない”というルールに「無茶言うな」という人もいるかも知れませんね。
(これは高速域からのブレーキを残したターンインでも同様でしょう)
ですが
カウンターステアを切るのはあくまで最後の手段であり、やはり切るべきではないというのが私の考え方です。
(理由はまた後の方で書く予定です)
更に言うなら、カウンターステアを切らないとヨーが収まらないというレベルの人は、
かなり上手に荷重曲げが出来ているのでしょう。
もちろん、車のセッティングが市販ノーマル状態だとしたら、ですが。
もしもセッティングをリアが出やすくなるように変えている際には、まずはノーマル状態に戻して下さいね。
市販車はノーマル状態で
必ずアンダーステア方向のセッティングになっているはずです。
(逆にリアが出やすくなるセッティング方法については後に詳しく書きますね)
それでもスピン挙動が収まらない人は、とにかくアクセルを踏むタイミングを
限界まで早めることです。
究極のことを言えば、左足でブレーキを踏んで右足でアクセルを踏むという方法もあります。
こうすれば右足でペダルを踏み替える時間を削ることが出来ます。
それでもなおヨーが収まらないという人は、念ためにクリッピングポイントで車体がコーナーのイン側にとどまれているかチェックしてみてください。
明らかなオーバースピードならば当然、スピン挙動のまま外側にすっ飛んでいきますので。
まあこれは言わなくてもわかりますかね。
アクセルを早く踏めて進入速度もきっちり合わせているのにヨーが収まらないという人は、きっと荷重曲げをドンピシャのタイミングで出来るようになっているのでしょう。
実は
そこで初めてイジるのが、センターデフなのです。
これはランエボ、インプレッサ、GT-Rなどのスポーツ四駆限定の話になってしまいますが、殆どのモデルには運転席からセンターデフの拘束特性を変えられる機能が付いていますよね?
インプレッサならば、GC8時代からお馴染みの
DCCD。 GDB-C型以降はオートモードが付いて、オートモードの中でもセンターデフの拘束力を強める方向、弱める方向にダイアルでイジれますね。 或いは完全にマニュアルで固定することも出来ると思います。
同様にランエボならばエボ7以降の
ACDのモード切替ですね。
これらをインプレッサならば
拘束力を強める方向に、ランエボならば普段はターマックモードになっていると思うので、それを
グラベルモードにするわけです。
GT-Rについては私はあまり詳しくないのですが、第二世代でもアフターパーツでアテーサの効きを四駆っぽくしたりFRっぽくしたり替えられるものが売られていたと思います。
R35は純正でもある程度設定ができますし、これもアフターパーツで同様のものが出ていたはずです。
つまりセンターデフの拘束力を強めることで、
アクセルを踏めばカウンターステアを切らなくてもスピン挙動が収まる方向になるわけです。
スポーツ走行における電子制御センターデフの正しい使い方とは、実はこの様な方法なのではないかと私は考えています。
センターデフの拘束力を強めると、入り口でより大きなヨーを作ってもアクセルを踏めばスピンしにくくなるので、コーナーへの進入スピードも上げられるでしょう。
またセンターデフをロック寄りにすればもちろんトラクションも向上するので、、
トラクションステア効果も更に上がります。
そしてこの練習を続けていくと更に技術が向上し、それでもカウンターステアを当てたくなるかもしれません。
そこまでくればしめたものです。
察しの通り、そうなればもう一段階センターデフの拘束力を上げるわけです。
ランエボのACDは3段階しか無いですが、スノーモードはかなり良く出来ています。 詳しくは
エボ7GT-A試乗記参照。
やがてセンターデフの拘束力が強いほど速いスピードでコーナーに進入でき、大きなヨーを作れ、強いトラクションステア効果が得られるため旋回速度が上がり、出口でのトラクションも上がり、結果、速くコーナリング出来ることに気づくと思います。
ただし、センターデフの拘束力を強めるほど当然運転が難しくなります。
進入スピードも上がりますし、荷重曲げの操作もよりシビアなタイミングで決めないと大きなヨーが作れなくなりますからね。
おそらくブレーキだってハーフロックするレベルで強く踏んでリアの荷重を抜く必要が出てくるでしょう。
そしてセンターデフをイジるレベルになれば、
1に書いたブレーキを残す運転(つまり旋回ブレーキによるターンイン)は不可能に近いと思います。
なぜならセンターデフの電子制御は殆どのケースで、
ブレーキペダルを踏んでいるとセンターデフの拘束力を強めるため、ヨーが付かない、つまり曲がりにくくなるからです。 (そして制御はそうあるべきだと私は考えます。
もしもパニックブレーキで旋回ブレーキを踏んだ際に簡単にスピンしてしまっては、四輪駆動車の長所(スタビリティー)が無くなってしまいますからね)
なのであるレベルから先は、
ブレーキを抜いてからハンドルを切る荷重曲げの技術が必須だと思っておいて下さいね。
それについても詳しくは、
エボ7GT-A試乗記や
動画(第22回,第23回)に載せてあります。
(YouTubeの仕様変更により、二本とも一般公開としました)
一言でまとめると、
センターデフの拘束力を強くしたいと思えれば思えるほど、自分の技術が上級になってきたと思ってください。
その頃にはすでに「四駆は曲がりにくい」などという考えからは開放されているはずです。
実際に私の知る四駆の運転の上級者は皆同じ様なことを言っています。
「アンダーステアセッティングの方が好きだ」 と。
これは私も同意見で、そもそもカウンターステアを切るようなセッティングは四輪駆動車としてNGだと思っています。
特にセンターデフの拘束力を電子制御で変えられるスポーツ四駆は良く出来ていて、センターデフの拘束力が弱いモードであってもアクセルを踏めばセンターデフの拘束力を自動的に強くしてくれます。(参考:
センターデフの
スバルの電子制御の話)
そして拘束力を強いモードにしていくにつれて、アクセルを踏むとより早いタイミングで、より強くセンターデフをロック方向にしてくれます。
よってここまで書いてきた運転をきちんとすれば、
センターデフの設定だけでまずカウンターステアを当てる必要はなくなると思います。
つまり
電子制御のセンターデフ車に乗っている人こそ、荷重曲げを極めるべきなのですよ。
そしてその時に電子制御の本当の恩恵がよく分かると思います。
たとえそれが、ドライのアスファルト路面であっても、です。
ビスカスセンターデフ車の場合:
さて、センターデフが電子制御ではなくビスカスカップリング式の車の場合もありますよね。
というよりも、車種的にはこちらの方が圧倒的に多いでしょう。
ビスカス式の場合はセンターデフの拘束力を変えることが出来ないため、一般にアンダーステア方向に設定されていることが多いと思います。
電子制御のセンターデフがエンジンで言うところの”可変バルブタイミング”だとしたら、ビスカスデフは”固定バルブタイミング”のようなものなので、
どこか無難なところに合わせざるを得ないため、これはまあ仕方がないことですね。
よってビスカスセンターデフ車でカウンターステアを当てなければならないと感じた際には、センターデフ以外のセッティングで調整してあげる必要があります。
その方法はとてもアナログで昔ながらの一般的な方法なため予想がつくと思いますが、一応書いておきましょう。
車をアンダーステア方向のセッティングにするわけなので、一言で言えば
リアタイヤのグリップバランスをフロントよりも上げることになりますね。
では私のお勧めの順番に書いておきましょう。
・リアタイヤのアライメントをトーインにする。(トーはイジれる車種が多い)
・リアタイヤのキャンバーが変えられるなら、キャンバーをネガティブ方向に増やす。
・アクセルオンでオーバーステアが止まらないのならば、リアのロール剛性を増やす。
具体的にはリアのトレッドを広げる、リアのバネやダンパーを硬めにする。リアのボディー補強をする。リアの空気圧を少し(適正範囲内で)上げる。
ただしリアのロール剛性を上げると
ターンインではオーバーステア方向に行くので注意すること。
・リアにダウンフォースを生む空力パーツを付ける。 ただし速度域によってダウンフォースの強さが変わるので慣れが必要です。
以上。
車のセッティング以外でオーバーステアを抑えるなら、そもそも入り口でのハンドルの舵角を減らすという方法もありますが、これはコーナリング速度を下げることになるのでリアの限界を上げる方が速さには繋がるでしょう。
やはり一般に、舵角は内側にある程度大きく切り込んだ方がトラクションステア効果が大きく出ますので。
ですがカウンターステアを切るくらいならば、始めから舵角を減らした方がずっとマシですし、小さい舵角で行う練習をするのも良いでしょうね。
さて、長くなりましたが車のセッティングで
”カウンターステアを切る前にやること”は大体こんなところです。
次回は逆にコーナリング中にヨーを残しやすい、オーバーステア方向のセッティングについて書いていきましょう。
続く……。
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