エンジンの持つ本当のパワーを出す


さて、今回は少し具体的なドラテクの話です。

今までに、 車の性能を出すとは、タイヤの性能とエンジンの性能を出すことだけだと何度も言っていますね。
では突然ですが、あなたはエンジンの持つ本当のパワーを出していますか??

まず始めに、エンジンのパワーカーブについて考えてみましょう。 車のカタログ等には、必ずと言っていい程載っていますね。
こんな感じの物です。


図1 S2000のF20Cのパワーカーブ

これは良く見る図ですが、 ちなみにこれって、どんな状態で計測したものなのでしょうか。
今回は細かいメカの事は考えず、水温等の補正や、吸排気や、ネット値とグロス値の違い等の話は無視することにしますね。
パワーカーブは、エンジンの出力特性を表す重要な物ですが、それには前提が有ります。
それはとっても当たり前のことです。

まず第一に、「アクセルが全開である事」ですね。
でも何だかパワーカーブを見ていると、回転数が決まればその時のパワーも決まるような錯覚に陥ると思います。
例えば、最大パワーが280馬力で、最大パワーを6500回転で発生するエンジンが有ったとします。
では果たして、6500回転ならば必ず280馬力を発生しているのでしょうか?
もちろん、そんなことは有りませんね。
アクセルをチョビットしか踏んでいなければ、6500回転でそんなパワーが出ているはずは有りません。
まあ当たり前ですね。 アクセルを半分しか開けないで、カタログのパワーカーブになるとは思いませんよね?
よって、カタログのパワーカーブはアクセルが常に全開である事が前提となるはずです。

しかしここで、一つ大きな疑問が浮かびます。
それは、「カタログのパワーカーブは、いったい何回転からアクセルを全開にしたのか?」です。
例えば、アイドリングからいきなり全開にしたのか、あるいは1000回転から全開にしたのか、はたまた3000回転から全開にしたのか…。
もちろん、メーカーでの測定時にどうだったかは私には知る術が有りませんが、これは重要な要素だと思います。
何故ならば、アクセル開度が全開で、かつ回転数が同じでも、違うパワーを出すことが出来るからです。

今回はちょっと、この話を詳しくしてみましょうか。

今回例に出した、6500回転で280馬力を出すエンジンですが、アクセルが全開でも出さない方法が有ります。
それは、6400回転まではアクセルをチョビットだけ開けて、ゆっくーり加速して行くのです。
具体的には、下図の青線の様に、6400回転までずっと50馬力が出ているアクセル開度としましょうか。
そして6400回転になった瞬間におもむろに、アクセルを全開にします。

100回転回転数が上がれば、最大パワーを出すはずの6500回転になりますね。でも100回転の上昇なんてあっと言う間です。
それでは、6400回転で50馬力しか出していなかったたエンジンが、アクセルを全開にして回転数が100回転上がったら、いきなり下図の青線の様に280馬力になるのでしょうか??

図2 黒い線がカタログのパワーカーブ。青い線が、6400回転で急にアクセル全開にしたパワーカーブ。

当然こうはなりませんね。 こんなに急激にパワーが立ち上がる事は有り得ません。
空気の流量や流速が増えるのには、有限の時間が掛かりますから。
よって 実際には、下図の青線の様なイメージになるはずです。
図3 青い線が、6400回転で急にアクセルを全開にした時の、実際のパワーカーブのイメージ。

よって、6400回転までのアクセルの踏み方で、このエンジンは6500回転数時に全開にしていても、280馬力を発生出来ないエンジンになってしまったわけです。
6400回転は極端な例ですが、恐らく5500回転までのアクセル開度しだいでも、6500回転で発生できる馬力は変わるでしょう。

これが、内燃機のエンジンが、電気モーターとは違うところです。

この話は、吸気慣性効果を応用したドラテク に詳しく説明した通り、吸気慣性効果や脈動効果の理解が非常に重要になってきます。 まずそちらを読んでくださいね。
吸気慣性(脈動)効果と、排気慣性(脈動)効果 (後編)に、「同じ回転数でアクセル開度が同じでも、運転の仕方によって違うパワーを出すことが出来る」と書きましたが、やっとこの話を実用に生かす時が来ました(笑)。

答えをとても簡単に言うと、このエンジンで280馬力を出すためには、6500回転よりも遥かに手前の回転数からアクセルを全開(もしくは全開近く)にして、空気の量と流速を上げるために「空気の助走」を付けておく必要があるわけです。
つまり、吸気慣性効果が最大に働くようにする必要が有るのです。
ちょっと図を書いてみましょうか。

図4 ピークパワー手前でのアクセル開度とパワーカーブのイメージ。

図4の赤い線が、全開にする手前のアクセル開度が少ない例で、青い線が全開にする手前のアクセル開度が大きい例です。
青い線の様に、手前から多めにアクセルを踏めばカタログ値通りの最大馬力を出せるでしょう。
逆に赤い線の様な運転では、全開にしても最後のレブリミットまで280馬力を出せない事になります。
例えばコーナーの立ち上がりなど、欲しい所ですぐに欲しいパワーを出すためには、立ち上がりの手前からいかにアクセルを早く、且つ「多く」踏めていたかが重要となるわけですね。 アクセルを踏むのが早くても、開度が小さくてはダメな訳です。
車が同じならば、手前のアクセル開度でコーナリングの立ち上がり時に発生出来るパワーの差がついてしまえば、後からいくら全開にしても追い付く事は出来ません。

その後が直線でも、いち早くエンジンの持つ本来のパワーを出して、全開でエンジンの一番おいしいパワーバンド(私はこれをエンジンの「ゾーン」と呼んでいる)に入った車に、更に離されるだけです。
図4の様に、かたや280馬力を出せる運転をしていて、かたや280馬力を出せない運転をしている訳ですから。
全く同じ車に、直線で離されるなんて不思議な事が起きるのは、このためです。
良く漠然と、「立ち上がり重視の運転が速い」何て言われていますが、その理由はこんな感じですかね。



さて、勘のいい人は気づいたと思いますが、この話はNAエンジンの話です。
しかし、ターボエンジンだと事態はより深刻です。
一般に、NA(自然吸気)エンジンは、アクセル開度に対してパワーの立ち上がりのレスポンス(反応)が良いと言われています。
実際に、多くのNAエンジンはアクセルレスポンスが良いですね。
これは、アクセルを空けた時に空気の流量と流速を上げるのが、比較的短時間で行えるのが最大の理由でしょう。

しかし、ターボエンジンには吸気経路に金属製のタービン(過給機)が付いています。
当然金属は空気よりも重いし、イナーシャ(慣性モーメント)を持っているので、急激にタービンの回転を上げるのは大変です。
よって、空気の流速を上げるだけで良いNAエンジンと比べて、ターボエンジンは空気に加えて、タービンの回転数を上げる時間が掛かるわけです。 この時間は俗に言う、ターボラグって奴ですね。
タービンってのは、適正回転数になるまでは吸気を邪魔するリストリクター(吸気制限装置)に過ぎません。
つまりタービンの回転数が上がるまでは、吸気抵抗が大きく、圧縮比も非常に低いNAエンジンのような物です。
よってターボエンジンで本来のパワーを出すためには、NAエンジンよりも遥かに、手前のアクセル開度が重要になってきます。

ちょっとターボとNAを比較した図を書いてみましょうか。
これは、図3と同じように6400回転までは50馬力しか出ないようなアクセル開度にして、6400回転で急激にアクセルを全開にした時の比較です。
ただし、カタログ上のエンジンのパワー特性は同じとします。

図5 青線がNAエンジン、赤線がターボエンジン。6400回転でアクセルを全開にした時の、パワーラインのイメージ。

図5の様に、青線のNAエンジンと比べて赤線のターボエンジンでは、全くパワーを出せないですねぇ。
ターボエンジンの話は、エンジンの項目に書く予定なので詳しくは書きませんが、とにかく本来のパワーを出すには、タービンを回し続ける事を意識した運転が必要 となります。


さて、速く走るためには、「いかにアクセルを早く踏めるか」とか、「いかにアクセルを踏んでいる時間を長く出来るか」とか良く言いますが、今回言いたかった事は、それはアクセルの踏み方によって全然変わるという事です。
実際にエンジンの持っている本当のパワーを出すためには、「いかに早く、長くアクセルを踏めるか」ではなく、「いかに早く、長く、アクセルを全開に出来るか」、という事が、より重要になってくるのです。
上記の通り、同じ車でもアクセルの踏み方によって、全然違うパワーが出る事になりますから。

これを読んで、「そんなの当たり前だ」と思うかもしれません。
その通りです。 この世界にコーナーが有る限り、アクセルはオンかオフだけではありませんね。
まして、全開でずっと走れるわけが有りません。
もちろんコーナーが有ればブレーキングも必要だし、コーナリング中には、アクセル半開でのコントロールも必要です。
ただ、エンジンの性能を最大限に出すには、いかにそれに近づける運転が出来るかが重要となるのです。

そのための苦肉の策として、「立ち上がり重視のライン」とかが存在するのです。
しかし、俗にいう立ち上がり重視のラインというのは、通常のラインよりも遠回りだったり、V字ラインの様に一気に車の向きを変える必要が有ったりと、何かあまり綺麗ではありませんねぇ。
(ちなみに私は、ラインというのは、手段ではなく結果だと思っています。)
そして私が強く言いたいのは、「立ち上がり重視の運転」と「立ち上がり重視のライン」は意味が違う、という事です。
例えば仮に、旋回(コーナリング)速度を重視したラインであっても、立ち上がり重視の運転が出来ればいいわけです。

私はその方法をずっと模索してきました。
そして、一応1つの答えに行きついたのですが、これはタイヤのグリップを超えたグリップ力を出す話と表裏一体で 、密接に関係しているので、それについてはまた改めて書く予定です。

ちょっと話を引っ張りすぎかな?(笑)

以上

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