究極の立ち上がり重視(理論編)


さてさて、車をコントロールゾーンに入れる練習は進んでいますか??(笑)
(読者の中には、すでにマスターして劇的に速くなった方も居るそうな…。 うーむ、オチオチしてられませんね(笑)。)

今まではずっと、ブレーキングや、荷重曲げを使ってのコーナーへの進入から、旋回区間(コーナリング区間)の話をしてきたので、「じゃあ、この運転のコーナーの立ち上がりはどうなるのか?」と考えている人もいるかと思います。

そんな訳で、今回はコーナーの立ち上がりの話をしましょう。
「車は突っ込み重視よりも立ち上がりを重視した方が速い」、などと言われて久しいですが、トラクションステアを使ったコーナリングでは、立ち上がりはどうなるのでしょう?
結論から言うと、トラクションステアを使ったコーナリングの立ち上がりは、究極的と言う程、最も効率的な加速を得られると考えています。
いやむしろ、「最適な立ち上がりを考えたら、必然的にトラクションステアを使ったコーナリングが生まれてきた」、と言った方が正確ではないかと思う程です。

では、早速解説に入りましょう。
最適な立ち上がりとは、エンジンの性能(パワー)をキッチリ出した状態で、且つタイヤがエンジンの駆動力をトラクションとして最大限に出している状態を、いかに作れるかでしょう。
物理的に考えても、この両方がそろって、初めて最高の加速が得られる訳ですからね。

何度も書きましたが、
「車の性能を出す」ということは、外界と車とを唯一、物理的に繋げている「タイヤ」の性能と、唯一の原動機である「エンジン」の性能をいかに出すかということで、それ以上でも以下でもありません。
からね。
これは当然、立ち上り区間でも同じです。

しかし立ち上がり加速に限って言えば、タイヤの性能とエンジンの性能を両方出す事は難しそうです。
例えば、タイヤがベッタリとグリップしていれば、エンジン回転数はタイヤの回転数に比例するので、エンジンの回転数だけを上げてパワーバンドに入れる事は不可能です。
つまり、この場合は最適なエンジンパワーは出せない訳です。 当然、大きな加速力は得られません。
逆に、エンジンだけをパワーバンドに入れて高回転まで回すと、今度はタイヤが「シャー」っとホイールスピンしてしまって、トラクションが全く掛かりませんねぇ。
今度は、タイヤの最適な性能が出せてない状態です。
うーん、難しいですねぇ。
タイヤが滑らないように、そっとアクセルコントロールをしながら踏んだり、はたまたV字ラインの様に多少遠回りをしたり、旋回速度を落としてでも直線的に加速して、トラクションが掛かりやすくする、と言ったのが従来の走り方だと思います。


しかし私の走り方は、このどちらにも当てはまりません。
ちなみに、私の走り方のヒントとなったのは、車の「クラッチ」です。
私はいつも、「タイヤと路面の関係は、クラッチに似ている」と言っています。 正確には、クラッチディスクと、フライホイールの関係ですね。

マニュアル車に載っている人なら、誰でも静止した状態からクラッチを繋いで発進しますよね?この時に、何か思いませんか?
前に究極の3段ブレーキの項で書きましたが、止まっているタイヤを有限の速度に加速するには、必ず有限の時間が掛かります。まあ、当たり前ですね。
じゃあ、信号発信する時にクラッチを繋ぐ時は、どうなっているのでしょう??
だって、エンジンは回転していて、タイヤは完全に静止している訳です。
クラッチはこのエンジンとタイヤをくっつけて、タイヤを回転させる部品です。

普通に考えると、クラッチが繋がった瞬間に静止しているタイヤに合わせてエンジンが止まってしまうか、或いはエンジンに合わせてタイヤが急激に回りだしてホイールスピンしそうです。 回転数が全然異なる二つが、いきなりくっつく訳ですからね。
しかし実際には、エンジンも止まらなければ、タイヤもスピンせずにゆっくり回りだしますよね?
もちろん雑に操作すると、エンストしたり、ホイールスピンしますけどね(笑)。

しかし実際に発進の時は、アイドリング状態で発進する人はいないでしょう。 アクセルを踏んで、回転数を上げますよね?
また、教習所で坂道発進を習う時にも、「3000回転程度まで回転数を上げてクラッチを繋ぐ」と習ったと思います。
しかしそうすると、ますます止まっているタイヤとエンジンとの回転数がズレてきます。
何故それで普通に発進できるのかと言うと、「クラッチが滑るから」です。 いわゆる、半クラッチ状態ですね。
これが、エンジンの回転数とタイヤの回転数のズレを吸収して、徐々に双方の回転数が一致するようにして行く訳です。
発進時にタコメーターを見ているとわかりますよね?クラッチを繋いだ瞬間に、回転数がグッと一瞬落ちてから上がり始めるのがわかると思います。

じゃあ、半クラッチではクラッチが滑っているからエンジンの駆動力がタイヤに伝わっていないかと言うと、当然そんな事は有りませんね。 クラッチが滑りながらも、駆動力をキッチリ伝えているのです。
そして、加速するとともに最終的には滑りがゼロになって、エンジンの回転数とタイヤの回転数が一致する、と言うか正確には比例関係になる訳ですね。

しかし中には、メタルの強化クラッチなんてのを入れている車も有りますね。
運転した事が有る人はわかると思いますが、これはスタートがかなりシビアで、エンストするか、ホイールスピンするかのどっちかに行きがちです。 半クラッチ領域が非常に少ない訳です。
半クラッチが殆ど無い強化クラッチ車を運転している多くの人は、少しホイールスピンしながら発進しているようです。
クラッチもタイヤもどちらも一切滑らずに発進する事は不可能ですからね。
何度も言いますが、止まっているタイヤと回っているエンジンの回転が一致するのにも、止まっている物体が動き出すのにも、有限の時間が掛かるので。


さて、そろそろ言いたい事がわかってきたと思います。
この半クラッチ状態と言うのは、実はタイヤと路面の間にも存在するのです。
タイヤは、完全にグリップしているか、完全に滑ってしまっているかのどちらかだけでは有りません。
クラッチに半クラッチ状態が有る様に、タイヤにも半グリップ状態が有るのです。
つまり、クラッチと同じように、滑りながらもトラクションが掛かっている状態ですね。

車を速く走らせるために重要な事は、とにかく常にエンジンのパワーバンドを外さない事です。
えっと、重要な事なのでもう一度書きます(笑)。
車を速く走らせるために重要な事は、とにかく常にエンジンのパワーバンドを外さない事です!

ただ、ギアが同じなら、スピードを落とせばエンジンの回転数は当然下がる事になります。
そして、スピードを落としつつエンジンの回転数だけを上げるためには、クラッチを滑らせるか、タイヤを滑らせるかのどちらかしか有りません。
ただクラッチを滑らせるために、この時に半クラッチ状態にするとあっという間にクラッチがフェードするでしょう。
また、タイヤと違って、クラッチは滑っていない時が一番摩擦力、μが大きいと思います。
つまり、完全に繋ぎたいと思った時に、滑りが止まりにくい訳ですね。

さらに、オートマ車はもちろん、2ペダル車ではそもそもクラッチペダルが無いので、この半クラッチを使った技術は使えません。
それに対し、タイヤはどの車にも付いているし、タイヤは滑らせた方がグリップするに書いた様に 、少し滑った方がグリップは上がります。
つまり、、、旋回区間でトラクションステア効果を出すためにホイールスピンさせている状態から、立上り区間に向かう時には、エンジンが高回転のまま駆動輪の横滑りが徐々に収まり、つまり摩擦円の横方向に使われるグリップが無くなり、縦方向のホイールスピンだけが残ります。 斜め滑り状態から、横滑りがフェードアウトする様なイメージです。
よってここで強い縦グリップが発生し、エンジンの回転数が高くパワーバンドに入った状態で、且つ、タイヤに最大のトラクションを掛けられる最適な状態が現れるのです!
この時あたかも、ドラッグレースのゼロヨンのスタート時の様な状態、もしくは、クラッチ蹴り(*)した時の様な状態になるのです。
実際に、完璧に決まると、パワーの無い車でもとんでもない立ち上がり加速が得られます。
(ちなみにやってみると、この時のイメージは、本当にクラッチが繋がる時に似ています。)

今までに書いてきたトラクションステアを使った運転と言うのは、実は究極の立ち上がりを重視した運転なのです。
実際に、パワーの無い車でハイパワーターボ車なんかを追いかけると、コーナーの立ち上がり区間で一番追い付きます。
立ち上がった後には、もちろん離されますが、これは実は立ち上がりで負けている訳では有りません。 錯覚です。

ターボ車は立ち上がりに強いと言われていますが、従来の運転では、実際には立ち上がった後の直線加速が速いだけです。
まあここで鋭い人は気付くと思いますが、ターボ車こそ、この半グリップ状態を上手く使う運転方法が生きるのです。
ターボ車には、必ずターボラグってものが有りますからねっ。
ラグを見越して、 NA車よりも、ずっと速くアクセルを踏んでパワーバンドに入れてやる必要が有るのです。
例えば、左足ブレーキ何て言うのは、このための技術の一つでしょう。

そしてこれまた鋭い人は、この技術が使えるのと使えないのとで、立ち上がり加速で最も大きな差が出る車は、最大のトラクション性能と、ハイパワーだけどアクセルを踏んでから実際に駆動力が掛かるまでにラグを持つ車、つまり、「4輪駆動のターボ車」だとわかるでしょう。 まあ、4駆ターボについての詳しい事はまた書くかも(書かないかも(笑))。

(*)クラッチ蹴りとは:
えっと、前に(ダイブ前ですが…)質問が有ったので、一応書いておきます。
クラッチ蹴りとは、シフトダウンせずにエンジンの回転数を上げるために、アクセル全開でクラッチを一瞬切って空吹かし状態にし、回転数が上がった所ですかさずクラッチを繋ぐ技術です。
良くドリフトのキッカケ作りに使われるようですが、速く走るためにも使われる事が有ります。
パワーバンドから外れて吹け上がりが遅い時に、一気にパワーバンドまで回転数を上げてクラッチを繋いで大きな加速を得ようとする物ですね。
簡単に言うと、走行中にゼロヨンのスタートをする様なイメージかな?
ただ、この技術はクラッチやミッションなどの駆動系だけでなく、エンジンにも大きな負荷を与えるので、私は個人的にはお勧めしません。
おそらく、すぐに駆動系かエンジンが痛みます。 本当の「ここ一発用」の技術ですかね。


さて、それでは次回は、どうやったら半グリップ状態を使った立ち上がり加速が出来るのか、具体的に解説して行きましょうか。
 

続く…。

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