荷重曲げでスピンさせる練習
さて、それでは
前回書いた通り、まずリアタイヤを出す、つまり滑らせる練習を始めましょう。
大きな摩擦円を逃すな!!に、リアタイヤが鳴いたり滑ったりするようになったら待っていてくれと書きましたが、ここからはその先の話です。
今回の練習は、
「荷重曲げ」の延長線上にある物です。
荷重曲げは、少ない舵角で曲がる事を目的としましたが、今回の練習はもっと難しくなります。
それは、荷重曲げで
リアタイヤを完全に滑らせて、車をスピンさせる物です。
荷重曲げの練習をしているうちに、もしかしたら出来るようになっている人もいるかもしれませんね。
この練習は、コーナーの
自転と公転の話の中の、
自転に関する物です。
FF車はどうしても公転に対して自転の回転数が足りない特性、いわゆる
救いの無いアンダーステア特性です。
よって、
いかに車体を回転させてやるかが重要となります。
今回は、その車体を回転させる練習ですね。
FF車限定の練習の様に書いていますが、この練習は後輪駆動車でも四駆でも同じく役に立ちます(詳しくは、後述)。
ただし注意事項として、ブレーキにEBDや、その他の横滑り防止装置などの電子制御が入っている車だと、スピンさせられない事が有ると思います。
特に最近の四駆の車は細かい電子制御をしている物が多いので、出来るだけセンターデフは電子制御無しの、ビスカス式等の物、もしくはマニュアルモードで固定できる物が良いでしょう。
ただやはり何度も言いますが、始めは
練習に勧めた車に定めた条件の車が、やりやすいでしょう。
さて、それでは具体的な練習方法について書いてみますか。
今回は、荷重曲げと同じテクニックで車体をスピンさせる物ですが、ここで書くスピンとは、
大体90度程度車体を回転させる物です。
車はスピンして止まってしまって構いません。 当たり前ですが練習は、くれぐれも広い安全な場所で行ってください。
それではまたまた、練習のルールです。
1、 フットブレーキとハンドルだけでスピンさせる事
当たり前ですが、
荷重曲げと同じです。 特にサイドブレーキを使うと全く無意味な練習になるので、決して使わないように。
また、ハンドルを切った後は、アクセルもクラッチもブレーキも踏まないこと。
つまりスピン中は、
エンジンブレーキ状態ですね。(スピンしたら、マニュアル車では、エンストする前にクラッチは切って良いです。まあ、練習なのでエンストしてもかまわないですけど
、あんまり何度もエンストさせるとエンジンに悪いかも…)
2、 スピードを出さない事
これも荷重曲げと同じです。 慣性ドリフトの様に、慣性で滑らせるのではなくあくまで荷重曲げで滑らせる練習ですからね。
最大でも、60Km/h。出来れば、30Km/h以内が理想です。
3、 完全にリアタイヤを滑らせる事
この練習はスピンさせる物なので、大きく曲がって、90度向きが変わるのとは
全く別物です。
完全に、ズバーっとリアタイヤを滑らせてフロントタイヤを軸にスピンさせる様なイメージです。
とまあ、以上です。 ルール自体は簡単ですね。
でも実際にやってみると結構難しいと思います。
それこそ、ブレーキとハンドルの舵を入れるタイミングがドンピシャ合わないと不可能だと思います。
でわ、速く上達するように練習のコツを書いてみます。
今回のスピンの練習は、
大きな摩擦円を逃すな!!に書いたヨーを作る二つの要素である、
1、 前輪の摩擦円の大きさ
2、 前輪のスリップアングルの大きさ
のうちの、今度は2の方も非常に重要となります。
今回は、小さな
スリップアングルやハンドルの舵角にこだわっている場合ではありません(笑)。
前回の荷重曲げの操作と一番異なるのは、一言で言うと
ハンドルの舵角です。
前輪の摩擦円の大きさが最大になり、リアの接地感が薄れ、ブレーキを抜く瞬間、車が一番回転する瞬間に、ハンドルをためらわずに一気に大きく切る必要が有ります。
車にもよりますが、
ハンドルが殆どロックする近くまで、大きく切る必要が有るでしょう。
ダラダラ切っていてはダメです。 ここは、躊躇なく素早く一気に切る必要が有ります。
ここで、これまでこのページを読んできた鋭い人は、「そんなにハンドルを切ったら一番曲がる
スリップアングルである、15度
〜20度を通り越してしまうのでわ?」と思うかもしれません。
そこまで気づければ、優秀です(笑)。
結論から言うと、実際にそのような事は起こり得ます。
ただその様な事が起きるのは、前輪の荷重が足りてないか、舵を入れるタイミングが違うかのどちらかが原因です。
ここで勘違いしてはいけないのは、
「舵角の大きさとスリップアングルの大きさは、全く別物だ」と言う事です。
これ、本当に結構混同している人がいるんですよね。
極端な話、ハンドルを全く切っていなくても(完全にまっすぐ)スリップアングルが大きくなる事も有りますし、ロックするまでハンドルを切っていても、スリップアングルは小さい事も有ります。
例えば、前者の例だと、いわゆる「ゼロカウンター」のドリフトなどがそうです。
これはハンドルはまっすぐでも、4輪が横に滑っているので前輪にスリップアングルは付いていますよね?
実際にやると、確かにフロントタイヤのショルダーが減ります。
また後者の例では、正にスピン中の車などがそうです。
例えば、ハンドルをロックするまで切っていて、リアタイヤが砂利やオイルを踏んでズルッと滑れば、たちまちフロントタイヤのスリップアングルは曲がる最適な角度になって、スピンする訳です。
よって、ハンドルを思いきって大きく切っても最適なスリップアングルにする事は理論的に可能で、それが出来れば一番車体に大きなヨー、つまり回転させる力を発生出来る事になります。
それでは、最適なスリップアングルを通り過ぎないコツをちょっと書いてみます。
まず第一に、
前荷重を強烈に大きく掛けることですかね。 助走を付けて、思いっきりブレーキロックさせるほどです。
止めるブレーキと同じように、強くて短いブレーキですね。
何度も言いますが、FF車はただでさえフロントが非常に重たいので、思いっきりブレーキを踏んで減速Gを与えると、フロントのサスペンションがグッと沈み、車重の殆どが前輪に乗り、リアタイヤが浮いているイメージになると思います。
そこで一気に舵を入れれば…、当然スピンさせやすくなりますね。
特に練習に勧めた非スポーツ系の車のノーマルの足では、バネが柔らかいのでノーズダイブさせやすく、前後の荷重移動がしやすくなります。
そして次に、ハンドルを切るイメージですが、思い切り切ると言っても
「ガバッ」ではなく、「クイッ」って言う感じですかね。
まあ、表現は難しいですが(笑)、あまり早く切り過ぎると、最適なスリップアングルを通り過ぎてしまう可能性が有るので、そう感じたらもう少し切るスピードを遅らせてみて下さい。
私流に表現すると、リアタイヤが滑って、フロントタイヤの最適なスリップアングルを追いかけて行くイメージです。
もし、どうしても上手く出来ない場合は、始めは少しスピードを上げてやると良いでしょう。
このスピードとは、強く、長くブレーキを踏めるようにして、フロントのノーズダイブ量を増やすためのスピードです。
俗に言う、
「曲げるためのブレーキ」のスイートスポットを広め、舵を入れるタイミングが多少ズレても良い様にしてやる訳ですね。
もちろん舵を入れる時のスピードは、落ちている事が前提です。
更に裏技的ですが、始めは
右回転から挑戦した方がやりやすいかもしれません。
右ハンドルの車はドライバーが右に乗っているので、大抵右側の方が重く、右曲がりの方が回転させやすいと思います。
また、右利きの人の方が多いと思うので、右手でハンドルを
「引き切り」した方が素早く切れる可能性が有ります。
更に更に、それでも上手く出来ない場合は、ブレーキを踏む時に直線的に入るのではなく、少しだけ右に曲がりながら(右回転の場合)入って行って、ブレーキを踏むとよりスピンさせやすくなります。
これは、舵を入れる時に横Gが少し発生しているために、曲がる慣性の力を少し借りて、スピンさせやすくなるからです。
まあこれは、ちょっと練習の王道からは外れますが…。
後は裏技ではないですが、フロントタイヤの空気圧は低めにし、リアは高めにするとスピンさせやすくなります。
これも、大きな前荷重を作るのを助けるための手段ですね。(空気圧の話は、またどこかに詳しく書く予定です)
さて、今回の練習は、教習所では
「絶対にやるな!」と習った物ばかりですね。
急ブレーキに急ハンドルの組み合わせですから。
よって始めは、無意識のうちにこの様な操作を行う事に、抵抗が有るかもしれません。
もっと言うと、スポーツ走行においても、急ハンドルでリアタイヤを滑らせるなどと言うのは、今までのセオリーとは異なるでしょう。
しかし他の人よりも速くなりたければ、今までの常識を超えた事をしないと無理でしょう。
昨日までの最適解は、これからの最適解ではありません。
FF車の特徴を理解するに書いたように、FF車はいかにアンダーステアを消すか、つまり車体を回転させてやるかがとにかく一番重要です。 そのために、このスピンの練習は非常に有効です。
今回の練習では、とりあえず90度以上スピンさせられるようになったら合格です。
もしも上手く出来るようになったら、
荷重曲げの項と同じく、もっと遅いスピードで挑戦して見て下さい。
ハンドルの舵角も出来るだけ小さい方がいいですが、これは低速ではかなり難しいでしょう。
練習でどちらを優先するかと言うなら、やはりスピードを下げる方ですかね。
(ちなみに私は、助走で30Km/hも出ていれば十分です)
さて、もちろんコースを走る時にはリアが滑って、スピンさせても意味がないので、当然滑った後の操作が必要となります。
しかし、今回のスピンが出来れば、
コーナリング技術の半分はマスターしたと考えて良いでしょう。
逆に言うと、それだけこの荷重曲げや、荷重曲げスピンは難しい訳です。
理屈は分かったと思うので、後は練習するのみですね。
後ほど詳しく書きますが、この練習はFF以外の全ての駆動方式でも、非常に有効です。
どうしても、ノーマルのFF車を用意できない人は、他の駆動方式でもやってみると良いと思います。
何だか、「こんな練習意味あるのかいな?」と思うかもしれませんが、これでも上達の最短距離を行っているはずなので、頑張ってくださいね(笑)。
さて、それでは次回からは、リアタイヤを思うように荷重曲げで滑らせられるようになり、車体が回転した、その先のコントロールの話をします。
次からは、完全に新たなる境地へ…、です。
続く…。
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