グリップの向こう側 (実践編)


それでは、どうやったら普通のFF車でトラクションステア効果が得られるのかを具体的に書いてみましょう。
いつもの様にそのポイントを、箇条書きにしてみます。


1、コーナー進入時に、ブレーキによる荷重曲げでリアタイヤを滑らせる事。

トラクションステアはまずこれから始まります。
これが出来ない限り、トラクションステア効果を利用する事は不可能です。
完全にリアタイヤをグリップさせっぱなしの運転では、車は従来のCPによる曲げ方しか不可能なのです。

第3の曲げる力を使うには、この技術はどうしても不可欠なので、今まで荷重曲げでスピンさせる練習などを散々行ってきた訳です。
途中からは従来の運転のセオリー、つまりCPを使って車を曲げる練習とは全く違う練習をしてきたのは、何を隠そうこの第3の曲げる力、トラクションステアを使うためだったわけですね。
これをマスターするためには、荷重曲げでスピンさせる練習止めるためのアクセルを覚えるスライドを続けるためのアクセルを学ぶを見て下さいね。


2、リアタイヤのグリップを、最後まで完全に戻さない事。

これは、スライドを続けるためのアクセルを学ぶ(実践編)に書いた事その物です。 詳しい理論と方法は、そちらを見て下さい。

前に書いた通り、スライドを継続させるためのアクセルは、トラクションステア効果を引き出すための技術です。
リアタイヤのグリップが1度完全に戻ってしまうと、その先はもうトラクションステア効果を得る事が出来ません。
リアタイヤのグリップが完全に戻ると、そこから先は普通のCPによるコーナリングになり、普通はアクセルオンでアンダーステアになります。

また当然、タイヤの摩擦力(グリップ)を超えたコーナリングは不可能ですね。


3、車の姿勢を、フロント部を少し内側に向ける事。

これは、エンジン搭載位置別の、最大グリップの出し方の話が参考になると思います。
ちょっとそちらを見てみて下さい。

フロントが重たいFF車で、リアタイヤを完全にグリップさせないようにするには、自然とこうしないといけません。
フロントの方が重いFF車で、フロントよりもリアの遠心力を大きくするためには、リアの半径をフロントよりも大きくするために、このような姿勢にするしかないのです。

ただ、前輪のトラクションステアによる遠心力に対抗する力も、上手くできるとかなり大きいので、それほど大きく内側を向ける必要はないでしょう。

そしてこの向きの作り加減は、車種によりかなり異なります。
リアが軽かったり、リアのグリップが高い、俗に言うリアが粘る車では、少し大きめに内側に姿勢を作る必要が有るでしょう。
厳密には、最適な姿勢は前後のタイヤの減り具合や空気圧、前後のタイヤの暖まり方の差からガソリンの残量(リアの重さ)によっても刻一刻と変化します。

また、車によっては、この姿勢の許容範囲が広い車、私が「コントロール性が良い」と言っている車と、逆にピンポイントで向きを作らないと姿勢を継続出来ない車が有ります。
ピンポイントで向きを作らないといけない車は、リアがベッタリとグリップするか、ズバッと滑ってスピン挙動に行くかの、どちらかの極端な方向に行きやすい車です。
つまり、グリップとスピン挙動の中間のスイートスポットが少ない車ですね。

昔の剛性の低い車は、このような物が多かったようです。
練習に勧めた車は、その範囲が広い物を選んで有ります。


また姿勢を内側に向けることで、フロントタイヤの内輪の通る距離と外輪の通る距離の差を縮める事も重要なのですが、これについてはまた後で詳しく書きます。


4、ハンドルは始めから最後まで切っている事。

これは、重要な事です。

スポーツ走行では、「ハンドルは出来るだけ切らない方がいい」などとまことしやかに言われていますが、トラクションステア効果はハンドルを切っていないと得られないのが、グリップの向こう側(理論編)の図3よりわかると思います。
前輪が、常にコーナーの内側に向いている必要が有りますからねっ。

よってハンドルは、ためらわずに大きく切ってください。 一定舵角でコーナーをクリア出来れば、完璧です。
これが、途中でハンドルを戻す(カウンターステアを当てる)FF車のドリフト(いわゆるFドリ)とは、全く違う所です。
FF車のドリフトは、速さにおいてはロスにしかなりません。

もしコーナリングの途中でハンドルを戻してしまうケースでは、ドリフトしてしまっている可能性が有ります。
そんな時は、もう一度遅い速度でリアを滑らす練習をすると良いでしょう。
原因は大体、荷重でなく慣性でリアを滑らせているか、リアが滑ってからのアクセルオンのタイミングが遅過ぎるかのどちらかです。

この話は、スライドを続けるためのアクセルを学ぶ(実践編)が参考になるでしょう。


5、アクセルは始めから最後まで踏んでいる事。

これは、トラクションステア効果が得られている証拠ですね。
もしもアンダーステアが出て、アクセルオフでアンダーステアが消えるようならば、元々トラクションステア効果が出ていない可能性が高いです。 これは、普通のCPで曲げている時の挙動ですね。

トラクションステア効果が出ていると、アクセルを踏む程、つまり強い駆動力をかける程ノーズが入って行き、アンダーステアが消えます。 フロントだけでなく、車全体のアンダーステアが消えるイメージですかね。
トラクションステア効果が得られている時にアクセルを戻すと、逆に車がコーナーの外にすっ飛んで行きます。
(通常は怖くてアクセルは抜けません)

アクセルを抜くとリアタイヤの荷重が抜けるし、フロントタイヤのトラクションステア効果も無くなりますから、当たり前ですね。
またリアのグリップが戻っていない限り、ハンドルを切り足してのアクセルオンも効果が有る事が有ります。
まあこれは、少しミスった時のごまかしに使う物ですが…。(近いうちに、これらのオンボード映像を載せるかも)

とにかく、トラクションステアの理屈からも、アクセルを踏んでいないと効果が得られない事は明白ですね。


6、少しオーバースピード気味に進入する事。

これについても、少し考えれば当たり前ですね。
フロントタイヤの駆動力は、縦方向、つまり進行方向だけでなく、コーナーの中心部に向いて遠心力に対抗する力にも使ってしまっているので、進入時にはその分を考慮した大きな慣性が必要となります。

更にリアタイヤも少し横に滑っているので、車のスピードを殺しちゃいますしね。
ただその代わりに、遠心力に対抗する力が大きいので、大きな曲がる力が発生します。
そのため、かなり速いスピードで入っても曲がる事が出来るようになります。
それこそ、しかたなく踏むブレーキに書いた様に、前荷重だけ作れて、減速しないブレーキが欲しい程です(笑)。

ただキッチリと、トラクションステア効果を得られる運転技術を身につけるまでは、少しずつ速度を上げて行った方が安全でしょう。
普通のCPで曲げる運転では、オーバースピードで入るとアンダーステアが出てコースアウトしますから。


7、フロントタイヤを少し横に滑らせる事。

これは、あれ?っと思うかもしれませんね。
しかしこれまた、フロントタイヤを横方向に完全にグリップさせる運転は、CPを使った運転です。
鋭い人は摩擦円の話より、タイヤの横グリップを使ってしまうと、縦グリップも無くなってしまうのでは?と考えると思います。
しかしよく考えてみると、これは必要な事になります。

まず今までに何度も書いた通り、FF車と言うのは基本的に常にパワー不足です。
構造上トラクションが掛からないので、ハイパワーなFF車は基本的に無いのです。
1速でのスタート時など特殊な時以外に、例えば2速や3速で走行中に、アクセルを全開にするとホイールスピンするようなFF車は無いと思います。 例えハンドルを切っていてもそうでしょう。

そこで、、、
フロントタイヤを少し横に滑らせることで縦グリップをちょっとだけ奪い、縦にホイールスピンしやすくしてやるのです。
この技術は特に難しくなく、スライドを続けるためのアクセルを学ぶ(実践編)に書いた通りに、リアタイヤを滑らせてすぐにアクセルを踏めば、普通はフロントタイヤが勝手に横に滑ってくれます。

「そんなことしたら、縦グリップが全く無くなってしまう」と考えるかもしれませんが、摩擦円が楕円の話や、タイヤは縦方向に少し滑った方がグリップが上がる話からも、横に少し滑っていても縦グリップは 意外と有るのです。
もちろんエンジンの力でホイールスピンさせられなければ、タイヤは横には全く滑っていない方が、縦方向の遠心力に対抗する力は大きくなります。
しかし、ホイールスピンさせる限り、縦のグリップ自体が低くても、大きな遠心力に対抗する力が出せる訳ですね。

どんなにタイヤが縦方向にグリップして、つまり滑っていなくても、エンジンのパワーが出せない状況では、大きな遠心力に対抗する力は出せないのです。

ちょっと概念が難しいかな??  この話は、また後で詳しく書きます。
タイヤのグリップを超えたグリップ力を出す話より、摩擦円の話はあくまでタイヤのグリップ、つまり摩擦係数の話であって、タイヤが引き出せる力ではない事を理解することが重要ですね。

ただもちろん、この横に「少し滑らせる」と言うのが重要で、滑らせ過ぎたりスリップアングルが大きくなり過ぎると、当然縦グリップが減り過ぎて、ホイールスピンさせても大きな遠心力に対抗する力を出せません。
そうなると当然、アンダーステアとなります。
これも、スリップアングルを意識するに書いた様に、フロントタイヤからゴリゴリ系の音が出ないようするなど、スリップアングルが最適になる様に気を付ける事が重要です。

「ためらわずに大きくハンドルを切る」と書きましたが、舵角とスリップアングルは別物である事を覚えておくことが大切です。
つまり舵角は大きくても、スリップアングルは大きくならないようにすることが非常に重要なのです。
そしてその為には、リアタイヤを滑らせる事が不可欠である事が分かると思います。


以上、とりあえずこれらの通りに操作すれば、普通のFF車でトラクションステア効果を出す事が出来るはずです。

トラクションステアと言っても、一番初めのきっかけはハンドルを切る事による横グリップ、つまりCPを使うので、まずキッチリとしたCPを使った曲げ方が出来るのが大前提です。
つまり、 トラクションステアだけを使うと言う事は、普通のFF車では有り得ない訳です。
よってまずは、荷重曲げの技術が不可欠ですね。


あと質問が有ったので、ちょっと書いておきます。
ちなみに今までに 頂いた質問は、関連する記事の中に出来るだけ反映させていきたいと思います。
(って、今まで全然答えられなくてごめんなさい)

ドラテク本や雑誌のドラテク講座などで、「コーナーに入る時はハンドルを切っている時もしばらくはブレーキを残して、前荷重を保つように」といった話を良く見ると思います。
ただこのHPでは、スライドを続けるためのアクセルを学ぶ(実践編)の話に書いた様に、基本的にハンドルが真っ直ぐの状態でブレーキを離して、ハンドルを切ったらすかさずアクセルを踏むように書いてきましたね。

もちろん本に書かれている事は間違いではありませんし、私もテクニックの一つとして使う事が有ります。
(例えば、急な下りのきつくて浅いコーナーなどでは、かなり強いブレーキを残して入る事が有ります。)

ただトラクションステアを使う運転では、これは出来ないですね。
なぜならブレーキを残して踏んでいる間は、エンジンの力でタイヤを縦にホイールスピンさせる事は不可能なので、トラクションステア効果が得られないからです。
ちなみにブレーキを残している間は当然アクセルで加速出来ないので、車の慣性(スピード)が死ににくい、かなり急な下り以外では、私は殆どブレーキ残しは使いませんかね。
前輪に荷重をかけるためのブレーキとは言え、ブレーキを踏んでいる間は当然アクセルを踏めないので失速しますからねぇ。
(まあこの辺の話も、後ほどまた詳しく書きます。)

ブレーキを残して前荷重を保つと言うのは、従来のCPを使った運転方法での、前輪の横グリップを高めるための物でしょう。
ただ、 ヨーの作り方も、遠心力に対抗する考え方も異なるトラクションステアでは、今までの常識と異なる事が多くあります。


えー、ちょっと長くなったので取りあえず。
続く…。

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